紅茶をどうぞ
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[祭] 誤魔化す (本音は心の奥底へ)
変わらないものなんて何もない。
時間が経てば、どんなものだって変化を見せるものだし、たとえば夜空を彩るあの星たち。
あれだって長い年月をかけて少しずつ変わって来ていて、昔見た姿とは違った輝きが、今こうして僕らの前に映し出されている。
作られたものはやがて朽ちる日が来るし、いわんやそれが人の感情ならば。
時の流れにうつりゆくものだと信じて疑ってはいない。
ずっとずっと、いつまでも。
永遠になんて夢物語、誰が本気にしているというのだろうか。
それなのに、最近その認識が揺らぐことがあった。
彼を見ていると、もしかしてこの先ほんの少しだって変わらないんじゃないかと思えてきてしまうのだ。
―――― 不思議なことに。
イギリスの家はいつも静かだ。
妖精たちの歌声も穏やかなものだし、庭先で鳴く小鳥たちのさえずりも耳に心地よい。
人を落ち着かせる空気がゆったりと漂い、ソファに腰をおろしていると自然と瞼が落ちそうになってしまう。
雨が降っていてもその雨音はとても優しくて、他国にはじめじめと陰気な天気だと言われがちだが、ロシアはそれさえも好ましく感じられてならなかった。
イギリスが淹れてくれる紅茶を飲み、手作りの菓子(らしきもの)を食べ、彼の瞳が自分だけを映し、彼の声が自分だけに向けられるこの贅沢な時間。
今だけは二人きり、誰にも邪魔されずに過ごすことが出来るのだと思えば、浮かんでくる上機嫌な笑みをかき消す術をロシアは持たなかった。
「ロシア」
空のカップを手にぼんやりと幸せにひたっていたら、イギリスがすぐ傍まで歩み寄って来て、優雅な手つきで新しい紅茶を注いでくれた。
てのひら全体に伝わる温かさが凍りついた自分にも、優しく伝わってくるのを感じる。
帰国は明日の三時過ぎ。今日はこのままずっとここにいられるんだと思うと、どうしようもなく嬉しくてたまらなかった。
「ねぇ、イギリス君」
「なんだ?」
「良かったら隣に座ってくれないかな?」
カップをソーサーに戻してぽんぽんと隣りを軽く叩くと、ポットを置いたイギリスは途端に眉をひそめてつまらなそうな顔をする。淡く浮いていた微笑が消えてしまって、ロシアが動揺に眼差しを揺らすと、彼はふっと溜息をついて大人しく隣に腰掛けてくれた。
ぴったりと寄せられる薄い肩を抱きしめたく思いながらも、ロシアもまた静かに両手を膝の上に揃える。
「ごめん、嫌だった?」
「……そうじゃくて!」
ぽつりと落とした言葉に、イギリスが憮然とした表情を隠しもしないでこちらを睨みつけて来る。
いったい何が彼の気に障ったのだろう、ぜんぜん分からない。
困惑して、でももう一度謝ろうとしたところで、彼は突然胸倉をつかみ上げて来た。
そして驚きの余り目を見開くロシアの唇に自分のそれを押し当てる。するりと差し込まれる舌先の熱に思わず両目を細めると、そこではじめて、イギリスの翡翠の瞳に不機嫌な色がないのに気がついた。
どうやら怒っているわけではないようだ。
「イギリス君?」
「いちいち顔色見るの、やめろ。それに謝るのもやめろ」
「え?」
「座って欲しけりゃ座れって言えばいいだろ。なんだよ、良かったらって……良くないわけないだろ! 何のためにわざわざこうして、近くもないのにお互い時間あけて会ってるんだよ」
強い口調で言いながら、イギリスはロシアの首に両腕を絡めて来る。膝に乗り上げる彼の重みを受け止めながら、ロシアも同じように相手の腰に腕をまわしてそっと身体を抱き寄せた。
さらりとした金色の髪に鼻先を埋めると、紅茶と薔薇の香りがしてひどく安心する。どんなものも敵わないくらい心地良いと感じた。
「んー……イギリス君の匂いだ」
幸せそうに笑いながら恥ずかしい台詞だけは欠かさないロシアに、イギリスもまた顔を赤らめながらも同じように口元をほころばせる。
互いの体温を伝えあいながら、しばらくそうやってくっついていると。
静寂を切り裂くようにドアベルがものすごい勢いで連打された。
「アーサー! いるんだろ、早くドアを開けてよ! 暇な君の為にヒーローが遊びに来てあげたぞ!」
近隣に響き渡るくらいの大声と、続いてドンドンというドアを叩く音。ビービーと電子ベルの音も忘れずに鳴り響けば、ロシアの肩に頬を乗せていたイギリスの眉間にこれ以上はないほどの深い皺が刻まれた。
ロシアもあー……という顔をして一瞬不愉快そうに眉をひそめたが、すぐに苦笑を浮かべてイギリスの背中から両腕を外した。
すぐに非難がましく睨みつけてくるイギリスに、溜息まじりに声をかける。
「近所迷惑だね。早くあけて来てあげなよ」
「……嫌だ」
「でも、君がここにいることを、きっとアメリカ君は知っているよ。君が出るまでずっとこんな調子で……もしかすると窓とか割られちゃうかも」
「……っ」
盛大に舌打ちをして、イギリスはゆっくりと身体を起こした。そしてロシアの足の上から膝をどかして立ち上がる。
皺の寄ったシャツをぱっと手で払いのけると、彼は実に申し訳なさそうな表情で言った。
「悪い。せっかく来てもらったのに」
「しょうがないよ。だって君、アメリカ君のこと好きでしょ」
なんの気もなしに軽くそう言ったら、瞬間、イギリスの顔色がはっきりと変わった。
彼は傍目にも分かるほど眼差しに苛立ちをよぎらせ、それから顔を歪めて声を震わせる。握り締めた拳が今にも飛んできそうなほどだった。
「な、なんだよそれ! 俺は別に……!」
「大丈夫、分かってるから。僕はアメリカ君のこと苦手だけど、君に嫌われたくないからなるべく喧嘩しないようにするね。だから安心していいよ」
「意味わかんねぇ……お前、俺のことなんだと思ってんだよ!」
「なにって……どうしたの、イギリス君?」
「どうしたもこうしたも、お前、もしかして俺とアメリカが……」
言いかけたイギリスの言葉が再びけたたましく響いたドアベルに掻き消される。ロシアの視線が玄関の方を向けば、イギリスもまたそちらに意識を取られたようで、身体の向きを変えた。
「アーサー! アーサーってば!!」
アメリカの声が聞こえる。この分だと隣の老夫婦には丸聞こえだろうな、と思いながらもいつものことと苦笑を浮かべているに違いない。
「ほら、呼んでるよ。行きなよ」
ロシアの声に一瞬泣きそうな表情を浮かべたイギリスだったが、すぐに部屋をあとにした。スリッパの音が廊下から聞こえてくる。
続いてドアを開ける音と騒がしい二人分の話し声も届いてきた。相変わらず賑やかなことだ。
ロシアはソファから立ち上がると、小さな溜息を漏らして携帯電話を取り出し、ヒースロー空港発モスクワ行きの時間帯を調べ始めた。
帰り支度をはじめなければ。
こんな時間に来たのだ、きっとアメリカは今日ここに泊まるだろう。そうなれば彼は恐らくロシアを追い出すよう、イギリスに言うはずだ。そしてアメリカに甘いイギリスなら渋々と言った態度を取りながらも、ロシアに帰るよう促すに違いない。
優先順位が分からないほど子供ではないつもりだ。本当はイギリスと明日のフライトぎりぎりまで一緒にいたかったのだが、ここでアメリカとひと悶着を起こしイギリスの機嫌を損ねてまで居続けることは出来ない。
イギリスのことは好きだし、彼の全てを自分のものに出来たらどんなにいいかと毎日思っている。
縛り付けて閉じ込めて、自分だけが彼に触れていたい。
だがそれではきっと、彼は二度とロシアに笑い掛けることもなければ抱きしめてくれることもなくなる。
紅茶を淹れてもくれないし、一緒にひだまりで昼寝もしてくれない。キスもしてくれないし、歌も歌ってくれなくなるのだ。かつてのように冷たい眼差しで罵詈雑言を浴びせられるだけだなんて、そんなことは望んでいない。
「アメリカ君は、いいなぁ……」
幼い頃より変わらずイギリスの一番大事な子供は、どんなに酷いことを言ってもすぐに赦してもらえた。深い傷をつけられても、イギリスはアメリカ相手だと泣きながらも最後には全てを赦してしまうのだ。
そういう二人のやりとりを今まで何度も繰り返し見て来た。その都度どうしようもない苛立ちと痛み、嫉み、羨望、それらを感じて来たロシアは、いい加減立ち入ることは出来ない何かの存在を認めないわけにはいかなかった。それを絆というものだと教えてくれたのは誰だっただろう……リトアニアだったかもしれない。彼もまたポーランドと消えることのない絆を持っていたのだから。
否応なく自覚させられたのは、自分とアメリカの歴然たる差。
自分には絆と呼べるようなものは何もない。何もないのだ。
「あぁ、嫌だな……気持ちが悪い」
鳩尾の付近がずきんと痛んで、ロシアは服の上からきつくそこを押さえた。傷なんてないのにどうして痛むのか分からないまま、廊下から二人分の騒がしい足音と気配が近づくにつれて、徐々に表情を消していく。
大丈夫、いつも通りなんでもないように振る舞えるはず。
準備はOK。
そう思ったところでリビングに、不機嫌な顔のイギリスと上機嫌な顔のアメリカが現れた。
一歩中へ入ると、すぐにアメリカはロシアに気付いて視線を向けて来た。
それはそうだろう、普段はイギリス一人しかいない部屋に、自分より大柄の男が立っているのだから。
一瞬目を見開いて驚いた表情をすると、アメリカはぎゅっと眉を寄せてすぐにイギリスを振り返った。そして次々と文句を並べ立てる。
「ちょっと君、いくら友達いないからって見境なさすぎだよ。一人が寂しいのは分かるけど……もしかして、ロシア領になるつもりなのかい?」
「うっせーよ馬鹿!」
「ひどいなぁ、アメリカ君。僕はお茶を飲みに来ただけだよ」
「へぇ。ロシアはわざわざティータイムの時に、飛行機に何時間も乗るんだ。すっごく暇があるのっていいよね!」
「そうだね。まぁ大西洋を越えてくる方も大変だとは思うけど、確かに暇があるのっていいよね」
「俺はたまたま別の用事があって来ただけだよ。単に一人で寂しがっているイギリスをからかいに寄っただけだから」
「ふぅん。でも今日は僕がいるから君の出番はないかもね?」
「うん、でもイギリスのことはヒーローである俺に任せてくれていいぞ! 君だって早く帰りたいだろ?」
相手がやめないからついこちらも言い返してしまうという、実に子供っぽいやりとりを繰り返していると、いい加減頭にきたのか傍で腕組みをしていたイギリスが怒鳴り声を上げた。
「お前らちったあ静かにしやがれ!」
ぴたり、とロシアが口を閉じればアメリカもまた口をつぐんだ。
イギリスは眉間に皺を刻んだまま不機嫌な顔で押し黙っていたが、やがて肩から力を抜くと溜息混じりに「紅茶淹れてくる」と言ってキッチンの方へ行こうとした。
すかさずアメリカの言葉がその背を追う。
「珈琲にしてくれよ。あとスコーンはいらないからね!」
「っ……お前は!!」
人んちに来てなんでそんなに傍若無人なんだよ、と言いながらもすっかり慣れきっているのか、イギリスはさして本気で怒る様子もなくアメリカの我侭に耳を傾けている。アメリカもそれが当然の権利だとでも言うように彼の後についてキッチンへ足を向ける。
そんな二人の相変わらずの遣り取りを尻目に、ロシアは鞄を手にすると時計を確かめた。
「僕はそろそろお暇するよ。仕事もいっぱいあることだし。じゃあね、イギリス君」
「え? は? ちょ……お前、何言ってんだよ!」
慌てて戻ってくるイギリスに、むっとしたアメリカの視線が無遠慮に飛んでくる。食い入るような視線をかわしながら、ロシアはにこりと笑ってイギリスに小さく手を振った。
困惑した表情のイギリスの手が、そのてのひらを思わぬ勢いで掴んでくる。振り払おうとするが覗き込んでくる翠の瞳に揺れる光を見て取って、ついタイミングを逃してしまった。
「今日は仕事ないんじゃなかったのか?」
「急にさっき連絡があってね。良かったらまたお茶に誘ってくれると嬉しいな」
「……駄目だ、帰さねぇ。それに良かったらって言うなって言っただろ!」
口調を荒げてイギリスはロシアの手を掴んだまま、後ろを振り返ってまっすぐアメリカを見遣った。
首を傾げる彼にきっぱりと言う。
「アメリカ、特別に珈琲淹れてやる。だから飲み終わったらさっさと帰れ」
「えー、せっかく来てあげたのにそれはないだろう? それに君んちに珈琲なんてあるのかい?」
「この間フランスから新作だって言って貰ったやつがある。文句ねぇだろ?」
「そりゃ……まぁ、そうだけど」
言葉を濁すアメリカが、実は紅茶が飲みたくて仕方がないのだと告げたら、イギリスはどんな顔をするだろう……そう思いながらロシアは、さすがにそこまでしてやる義理はないと口を閉ざした。
薄い唇を噛むとさきほどから感じる苛立ちをなんとか飲み込む。とても気分が悪い。無理やり押さえつけた感情がそのまま態度に出そうになって、あぁ、このままここにいるのはやっぱりまずいと思った。
自分は元来、あまり我慢強い方ではない。言いたいことを言わずにいられるような性格の持ち主ではないのだ。無理をしている自覚はあるが、これもまたイギリスと共にいるためだと自分に強く言い聞かせる。
同じ失敗は繰り返したくない……今はまだ、失いたくはない。
それなのにイギリスはロシアの腕を強引に掴んで、二階へ続く階段の方へ引っ張りはじめた。
何をする気なのだろうかといぶかしみながら、足に力を入れてその場を動かないでいると、イギリスもまたイライラとした口調で続ける。
「ロシア、話があるから二階の書斎に行ってろ。こいつ叩き出したら俺も行くから」
「え、でも今ならまだ最終便残ってるし」
「そうそう、この時間ならぎりぎり間に合うと思うよ。無理に引き止めたら悪いじゃないか」
ロシアの言葉を引き継ぐようにアメリカが茶々を入れてくる。
するとイギリスのこめかみに青筋が浮き、彼は剣呑な雰囲気を漂わせながらアメリカに背を向けて、ロシアの腕を強く引っ張る。
仕方なく着いていきながら二人して階段を昇り、いつもイギリスが仕事用に使っている書斎へと入り、ドアを閉めた。
何故かは分からないがイギリスは相当ご機嫌斜めだ。これから飛び出すであろう罵声を想像して、ロシアは知らず溜息をつく。
なんて日だろう、今日は。昨日まではブリテン島に来るのをあんなに楽しみにしていたのに随分と嫌な気分にさせられるものだ。
それもこれも突然の闖入者であるアメリカのせいなのだが、それをはっきりとイギリスに言う気は起きない。何故ならば、そこで返される言葉が「お前には関係ないから口出しするな」だった場合、きっとショックを受けるのもまた自分だろうと安易に想像がついたからだ。
イギリスがアメリカを大事に思っているのは昔から嫌というほど分かっている。それを妬ましく、羨ましく思う気持ちをどうしても悟られたくはなかった。
それでもし嫌われてしまったら。
そう思うのに、あぁでも、もう我慢ができない。
「ロシア!」
眦を吊り上げて名前を呼ばれれば、不可解な彼の態度にいい加減胸中に渦巻いていた苛立ちも最高潮に達する。
ロシアはイギリスの顔を見下ろして、張り付いた笑みを強張らせながら言った。
「うるさいなぁ、大声出さないでよ。ちゃんと聞き分けのいい子でいてあげてるでしょ。なんでそんなに怒るの? 全然分からないよ!」
「俺にはお前の方こそわからねーよ!」
激昂したイギリスの顔は紅潮していて、瞳にはうっすらと涙の膜が張っている。なぜ彼の方がこんなにも哀しそうな顔をしているのだろう、全然意味が分からない。
ロシアは怒鳴り返そうにも言葉を失い、途方にくれたような表情で目の前のイギリスを見つめた。
「……ねぇ、何がいけないの? 何が悪いの?」
「お前は、俺がお前と一緒にいたいって気持ちは考えないんだな」
「…………」
「俺だって今日を楽しみにしていたんだ。お互い忙しいからずっと会えなかったし、会議の時は他国に配慮して気軽に接したりも出来ない。上司達の顔色だって伺わなくちゃいけない。だから、こうやって休日が合うのをどれだけ楽しみにしていたかなんて、ちっともお前には伝わってないんだな」
怒りよりもむしろ落ち込んだ時のような声音でイギリスはそう言い、どこか疲れたように俯くと前髪を指先でかきあげた。
それからロシアの背中に両腕を回すような形でぎゅっと抱きついてくる。胸元に顔を押し当てられて戸惑いながらも、ロシアもまたそっとその肩に手を置く。
彼の耳は真っ赤になっていて、それを上から見下ろしていると徐々に、なんだかもう何もかもがどうでも良くなってきてしまった。
結局、イギリスの体温が感じられるこの距離が、一番欲しかったものなのだから。
「ごめんね? イギリス君」
「だからお前はなんでそうすぐ理由も分からないくせに謝るんだよ」
「でも君を怒らせたみたいだから」
「ああもうほんとうぜえ」
呟やくように罵ったイギリスの手が、それでもロシアの服を握り締めて離れなかったので、ようやくロシアは唇を弛めて小さく笑った。
あれからアメリカは即追い出されて、イギリスの家は再び静かになった。
なんだかんだと文句の尽きないアメリカだったが、彼の方も本当に仕事のついでに寄っただけのようで、もともとそんなに長居をするつもりはなかったようだ。
案外あっさりと去って行ったその背中を、実はこっそり寂しそうにイギリスが見ていたのを知っている。
でも、妖精たちいわく。親はいつまで経っても息子の背中を見送る時は切ないものなのよ、だそうだ。
彼女達の大好きな昼ドラの台詞らしいのだが、あいにくとさっぱり意味が分からない。でもようするにイギリスがアメリカに向ける愛情は、親子のものであり兄弟のものであり、そしてそれは普遍であるということは理解できた。
変わりゆくものの多い中で、彼の愛情だけは変わらない。
それはとても大事なことのように思えた。
イギリスは変わらないものを持っている。みんなみんな変わっていってしまうこの世界において、彼は唯一無二のものを持っているのだ。
いつかそれを自分も手に入れられればいいなと思いながら、ロシアは再び新しく淹れられた極上のウバを片手に、にっこりと楽しげに笑った。
返された不器用なイギリスの小さな笑顔が、この先も変わらなければいいと願いながら。
時間が経てば、どんなものだって変化を見せるものだし、たとえば夜空を彩るあの星たち。
あれだって長い年月をかけて少しずつ変わって来ていて、昔見た姿とは違った輝きが、今こうして僕らの前に映し出されている。
作られたものはやがて朽ちる日が来るし、いわんやそれが人の感情ならば。
時の流れにうつりゆくものだと信じて疑ってはいない。
ずっとずっと、いつまでも。
永遠になんて夢物語、誰が本気にしているというのだろうか。
それなのに、最近その認識が揺らぐことがあった。
彼を見ていると、もしかしてこの先ほんの少しだって変わらないんじゃないかと思えてきてしまうのだ。
―――― 不思議なことに。
* * * * * * * * * * * * * * *
イギリスの家はいつも静かだ。
妖精たちの歌声も穏やかなものだし、庭先で鳴く小鳥たちのさえずりも耳に心地よい。
人を落ち着かせる空気がゆったりと漂い、ソファに腰をおろしていると自然と瞼が落ちそうになってしまう。
雨が降っていてもその雨音はとても優しくて、他国にはじめじめと陰気な天気だと言われがちだが、ロシアはそれさえも好ましく感じられてならなかった。
イギリスが淹れてくれる紅茶を飲み、手作りの菓子(らしきもの)を食べ、彼の瞳が自分だけを映し、彼の声が自分だけに向けられるこの贅沢な時間。
今だけは二人きり、誰にも邪魔されずに過ごすことが出来るのだと思えば、浮かんでくる上機嫌な笑みをかき消す術をロシアは持たなかった。
「ロシア」
空のカップを手にぼんやりと幸せにひたっていたら、イギリスがすぐ傍まで歩み寄って来て、優雅な手つきで新しい紅茶を注いでくれた。
てのひら全体に伝わる温かさが凍りついた自分にも、優しく伝わってくるのを感じる。
帰国は明日の三時過ぎ。今日はこのままずっとここにいられるんだと思うと、どうしようもなく嬉しくてたまらなかった。
「ねぇ、イギリス君」
「なんだ?」
「良かったら隣に座ってくれないかな?」
カップをソーサーに戻してぽんぽんと隣りを軽く叩くと、ポットを置いたイギリスは途端に眉をひそめてつまらなそうな顔をする。淡く浮いていた微笑が消えてしまって、ロシアが動揺に眼差しを揺らすと、彼はふっと溜息をついて大人しく隣に腰掛けてくれた。
ぴったりと寄せられる薄い肩を抱きしめたく思いながらも、ロシアもまた静かに両手を膝の上に揃える。
「ごめん、嫌だった?」
「……そうじゃくて!」
ぽつりと落とした言葉に、イギリスが憮然とした表情を隠しもしないでこちらを睨みつけて来る。
いったい何が彼の気に障ったのだろう、ぜんぜん分からない。
困惑して、でももう一度謝ろうとしたところで、彼は突然胸倉をつかみ上げて来た。
そして驚きの余り目を見開くロシアの唇に自分のそれを押し当てる。するりと差し込まれる舌先の熱に思わず両目を細めると、そこではじめて、イギリスの翡翠の瞳に不機嫌な色がないのに気がついた。
どうやら怒っているわけではないようだ。
「イギリス君?」
「いちいち顔色見るの、やめろ。それに謝るのもやめろ」
「え?」
「座って欲しけりゃ座れって言えばいいだろ。なんだよ、良かったらって……良くないわけないだろ! 何のためにわざわざこうして、近くもないのにお互い時間あけて会ってるんだよ」
強い口調で言いながら、イギリスはロシアの首に両腕を絡めて来る。膝に乗り上げる彼の重みを受け止めながら、ロシアも同じように相手の腰に腕をまわしてそっと身体を抱き寄せた。
さらりとした金色の髪に鼻先を埋めると、紅茶と薔薇の香りがしてひどく安心する。どんなものも敵わないくらい心地良いと感じた。
「んー……イギリス君の匂いだ」
幸せそうに笑いながら恥ずかしい台詞だけは欠かさないロシアに、イギリスもまた顔を赤らめながらも同じように口元をほころばせる。
互いの体温を伝えあいながら、しばらくそうやってくっついていると。
静寂を切り裂くようにドアベルがものすごい勢いで連打された。
* * * * * * * * * * * * * * *
「アーサー! いるんだろ、早くドアを開けてよ! 暇な君の為にヒーローが遊びに来てあげたぞ!」
近隣に響き渡るくらいの大声と、続いてドンドンというドアを叩く音。ビービーと電子ベルの音も忘れずに鳴り響けば、ロシアの肩に頬を乗せていたイギリスの眉間にこれ以上はないほどの深い皺が刻まれた。
ロシアもあー……という顔をして一瞬不愉快そうに眉をひそめたが、すぐに苦笑を浮かべてイギリスの背中から両腕を外した。
すぐに非難がましく睨みつけてくるイギリスに、溜息まじりに声をかける。
「近所迷惑だね。早くあけて来てあげなよ」
「……嫌だ」
「でも、君がここにいることを、きっとアメリカ君は知っているよ。君が出るまでずっとこんな調子で……もしかすると窓とか割られちゃうかも」
「……っ」
盛大に舌打ちをして、イギリスはゆっくりと身体を起こした。そしてロシアの足の上から膝をどかして立ち上がる。
皺の寄ったシャツをぱっと手で払いのけると、彼は実に申し訳なさそうな表情で言った。
「悪い。せっかく来てもらったのに」
「しょうがないよ。だって君、アメリカ君のこと好きでしょ」
なんの気もなしに軽くそう言ったら、瞬間、イギリスの顔色がはっきりと変わった。
彼は傍目にも分かるほど眼差しに苛立ちをよぎらせ、それから顔を歪めて声を震わせる。握り締めた拳が今にも飛んできそうなほどだった。
「な、なんだよそれ! 俺は別に……!」
「大丈夫、分かってるから。僕はアメリカ君のこと苦手だけど、君に嫌われたくないからなるべく喧嘩しないようにするね。だから安心していいよ」
「意味わかんねぇ……お前、俺のことなんだと思ってんだよ!」
「なにって……どうしたの、イギリス君?」
「どうしたもこうしたも、お前、もしかして俺とアメリカが……」
言いかけたイギリスの言葉が再びけたたましく響いたドアベルに掻き消される。ロシアの視線が玄関の方を向けば、イギリスもまたそちらに意識を取られたようで、身体の向きを変えた。
「アーサー! アーサーってば!!」
アメリカの声が聞こえる。この分だと隣の老夫婦には丸聞こえだろうな、と思いながらもいつものことと苦笑を浮かべているに違いない。
「ほら、呼んでるよ。行きなよ」
ロシアの声に一瞬泣きそうな表情を浮かべたイギリスだったが、すぐに部屋をあとにした。スリッパの音が廊下から聞こえてくる。
続いてドアを開ける音と騒がしい二人分の話し声も届いてきた。相変わらず賑やかなことだ。
ロシアはソファから立ち上がると、小さな溜息を漏らして携帯電話を取り出し、ヒースロー空港発モスクワ行きの時間帯を調べ始めた。
帰り支度をはじめなければ。
こんな時間に来たのだ、きっとアメリカは今日ここに泊まるだろう。そうなれば彼は恐らくロシアを追い出すよう、イギリスに言うはずだ。そしてアメリカに甘いイギリスなら渋々と言った態度を取りながらも、ロシアに帰るよう促すに違いない。
優先順位が分からないほど子供ではないつもりだ。本当はイギリスと明日のフライトぎりぎりまで一緒にいたかったのだが、ここでアメリカとひと悶着を起こしイギリスの機嫌を損ねてまで居続けることは出来ない。
イギリスのことは好きだし、彼の全てを自分のものに出来たらどんなにいいかと毎日思っている。
縛り付けて閉じ込めて、自分だけが彼に触れていたい。
だがそれではきっと、彼は二度とロシアに笑い掛けることもなければ抱きしめてくれることもなくなる。
紅茶を淹れてもくれないし、一緒にひだまりで昼寝もしてくれない。キスもしてくれないし、歌も歌ってくれなくなるのだ。かつてのように冷たい眼差しで罵詈雑言を浴びせられるだけだなんて、そんなことは望んでいない。
「アメリカ君は、いいなぁ……」
幼い頃より変わらずイギリスの一番大事な子供は、どんなに酷いことを言ってもすぐに赦してもらえた。深い傷をつけられても、イギリスはアメリカ相手だと泣きながらも最後には全てを赦してしまうのだ。
そういう二人のやりとりを今まで何度も繰り返し見て来た。その都度どうしようもない苛立ちと痛み、嫉み、羨望、それらを感じて来たロシアは、いい加減立ち入ることは出来ない何かの存在を認めないわけにはいかなかった。それを絆というものだと教えてくれたのは誰だっただろう……リトアニアだったかもしれない。彼もまたポーランドと消えることのない絆を持っていたのだから。
否応なく自覚させられたのは、自分とアメリカの歴然たる差。
自分には絆と呼べるようなものは何もない。何もないのだ。
「あぁ、嫌だな……気持ちが悪い」
鳩尾の付近がずきんと痛んで、ロシアは服の上からきつくそこを押さえた。傷なんてないのにどうして痛むのか分からないまま、廊下から二人分の騒がしい足音と気配が近づくにつれて、徐々に表情を消していく。
大丈夫、いつも通りなんでもないように振る舞えるはず。
準備はOK。
そう思ったところでリビングに、不機嫌な顔のイギリスと上機嫌な顔のアメリカが現れた。
* * * * * * * * * * * * * * *
一歩中へ入ると、すぐにアメリカはロシアに気付いて視線を向けて来た。
それはそうだろう、普段はイギリス一人しかいない部屋に、自分より大柄の男が立っているのだから。
一瞬目を見開いて驚いた表情をすると、アメリカはぎゅっと眉を寄せてすぐにイギリスを振り返った。そして次々と文句を並べ立てる。
「ちょっと君、いくら友達いないからって見境なさすぎだよ。一人が寂しいのは分かるけど……もしかして、ロシア領になるつもりなのかい?」
「うっせーよ馬鹿!」
「ひどいなぁ、アメリカ君。僕はお茶を飲みに来ただけだよ」
「へぇ。ロシアはわざわざティータイムの時に、飛行機に何時間も乗るんだ。すっごく暇があるのっていいよね!」
「そうだね。まぁ大西洋を越えてくる方も大変だとは思うけど、確かに暇があるのっていいよね」
「俺はたまたま別の用事があって来ただけだよ。単に一人で寂しがっているイギリスをからかいに寄っただけだから」
「ふぅん。でも今日は僕がいるから君の出番はないかもね?」
「うん、でもイギリスのことはヒーローである俺に任せてくれていいぞ! 君だって早く帰りたいだろ?」
相手がやめないからついこちらも言い返してしまうという、実に子供っぽいやりとりを繰り返していると、いい加減頭にきたのか傍で腕組みをしていたイギリスが怒鳴り声を上げた。
「お前らちったあ静かにしやがれ!」
ぴたり、とロシアが口を閉じればアメリカもまた口をつぐんだ。
イギリスは眉間に皺を刻んだまま不機嫌な顔で押し黙っていたが、やがて肩から力を抜くと溜息混じりに「紅茶淹れてくる」と言ってキッチンの方へ行こうとした。
すかさずアメリカの言葉がその背を追う。
「珈琲にしてくれよ。あとスコーンはいらないからね!」
「っ……お前は!!」
人んちに来てなんでそんなに傍若無人なんだよ、と言いながらもすっかり慣れきっているのか、イギリスはさして本気で怒る様子もなくアメリカの我侭に耳を傾けている。アメリカもそれが当然の権利だとでも言うように彼の後についてキッチンへ足を向ける。
そんな二人の相変わらずの遣り取りを尻目に、ロシアは鞄を手にすると時計を確かめた。
「僕はそろそろお暇するよ。仕事もいっぱいあることだし。じゃあね、イギリス君」
「え? は? ちょ……お前、何言ってんだよ!」
慌てて戻ってくるイギリスに、むっとしたアメリカの視線が無遠慮に飛んでくる。食い入るような視線をかわしながら、ロシアはにこりと笑ってイギリスに小さく手を振った。
困惑した表情のイギリスの手が、そのてのひらを思わぬ勢いで掴んでくる。振り払おうとするが覗き込んでくる翠の瞳に揺れる光を見て取って、ついタイミングを逃してしまった。
「今日は仕事ないんじゃなかったのか?」
「急にさっき連絡があってね。良かったらまたお茶に誘ってくれると嬉しいな」
「……駄目だ、帰さねぇ。それに良かったらって言うなって言っただろ!」
口調を荒げてイギリスはロシアの手を掴んだまま、後ろを振り返ってまっすぐアメリカを見遣った。
首を傾げる彼にきっぱりと言う。
「アメリカ、特別に珈琲淹れてやる。だから飲み終わったらさっさと帰れ」
「えー、せっかく来てあげたのにそれはないだろう? それに君んちに珈琲なんてあるのかい?」
「この間フランスから新作だって言って貰ったやつがある。文句ねぇだろ?」
「そりゃ……まぁ、そうだけど」
言葉を濁すアメリカが、実は紅茶が飲みたくて仕方がないのだと告げたら、イギリスはどんな顔をするだろう……そう思いながらロシアは、さすがにそこまでしてやる義理はないと口を閉ざした。
薄い唇を噛むとさきほどから感じる苛立ちをなんとか飲み込む。とても気分が悪い。無理やり押さえつけた感情がそのまま態度に出そうになって、あぁ、このままここにいるのはやっぱりまずいと思った。
自分は元来、あまり我慢強い方ではない。言いたいことを言わずにいられるような性格の持ち主ではないのだ。無理をしている自覚はあるが、これもまたイギリスと共にいるためだと自分に強く言い聞かせる。
同じ失敗は繰り返したくない……今はまだ、失いたくはない。
それなのにイギリスはロシアの腕を強引に掴んで、二階へ続く階段の方へ引っ張りはじめた。
何をする気なのだろうかといぶかしみながら、足に力を入れてその場を動かないでいると、イギリスもまたイライラとした口調で続ける。
「ロシア、話があるから二階の書斎に行ってろ。こいつ叩き出したら俺も行くから」
「え、でも今ならまだ最終便残ってるし」
「そうそう、この時間ならぎりぎり間に合うと思うよ。無理に引き止めたら悪いじゃないか」
ロシアの言葉を引き継ぐようにアメリカが茶々を入れてくる。
するとイギリスのこめかみに青筋が浮き、彼は剣呑な雰囲気を漂わせながらアメリカに背を向けて、ロシアの腕を強く引っ張る。
仕方なく着いていきながら二人して階段を昇り、いつもイギリスが仕事用に使っている書斎へと入り、ドアを閉めた。
何故かは分からないがイギリスは相当ご機嫌斜めだ。これから飛び出すであろう罵声を想像して、ロシアは知らず溜息をつく。
なんて日だろう、今日は。昨日まではブリテン島に来るのをあんなに楽しみにしていたのに随分と嫌な気分にさせられるものだ。
それもこれも突然の闖入者であるアメリカのせいなのだが、それをはっきりとイギリスに言う気は起きない。何故ならば、そこで返される言葉が「お前には関係ないから口出しするな」だった場合、きっとショックを受けるのもまた自分だろうと安易に想像がついたからだ。
イギリスがアメリカを大事に思っているのは昔から嫌というほど分かっている。それを妬ましく、羨ましく思う気持ちをどうしても悟られたくはなかった。
それでもし嫌われてしまったら。
そう思うのに、あぁでも、もう我慢ができない。
「ロシア!」
眦を吊り上げて名前を呼ばれれば、不可解な彼の態度にいい加減胸中に渦巻いていた苛立ちも最高潮に達する。
ロシアはイギリスの顔を見下ろして、張り付いた笑みを強張らせながら言った。
「うるさいなぁ、大声出さないでよ。ちゃんと聞き分けのいい子でいてあげてるでしょ。なんでそんなに怒るの? 全然分からないよ!」
「俺にはお前の方こそわからねーよ!」
激昂したイギリスの顔は紅潮していて、瞳にはうっすらと涙の膜が張っている。なぜ彼の方がこんなにも哀しそうな顔をしているのだろう、全然意味が分からない。
ロシアは怒鳴り返そうにも言葉を失い、途方にくれたような表情で目の前のイギリスを見つめた。
「……ねぇ、何がいけないの? 何が悪いの?」
「お前は、俺がお前と一緒にいたいって気持ちは考えないんだな」
「…………」
「俺だって今日を楽しみにしていたんだ。お互い忙しいからずっと会えなかったし、会議の時は他国に配慮して気軽に接したりも出来ない。上司達の顔色だって伺わなくちゃいけない。だから、こうやって休日が合うのをどれだけ楽しみにしていたかなんて、ちっともお前には伝わってないんだな」
怒りよりもむしろ落ち込んだ時のような声音でイギリスはそう言い、どこか疲れたように俯くと前髪を指先でかきあげた。
それからロシアの背中に両腕を回すような形でぎゅっと抱きついてくる。胸元に顔を押し当てられて戸惑いながらも、ロシアもまたそっとその肩に手を置く。
彼の耳は真っ赤になっていて、それを上から見下ろしていると徐々に、なんだかもう何もかもがどうでも良くなってきてしまった。
結局、イギリスの体温が感じられるこの距離が、一番欲しかったものなのだから。
「ごめんね? イギリス君」
「だからお前はなんでそうすぐ理由も分からないくせに謝るんだよ」
「でも君を怒らせたみたいだから」
「ああもうほんとうぜえ」
呟やくように罵ったイギリスの手が、それでもロシアの服を握り締めて離れなかったので、ようやくロシアは唇を弛めて小さく笑った。
* * * * * * * * * * * * * * *
あれからアメリカは即追い出されて、イギリスの家は再び静かになった。
なんだかんだと文句の尽きないアメリカだったが、彼の方も本当に仕事のついでに寄っただけのようで、もともとそんなに長居をするつもりはなかったようだ。
案外あっさりと去って行ったその背中を、実はこっそり寂しそうにイギリスが見ていたのを知っている。
でも、妖精たちいわく。親はいつまで経っても息子の背中を見送る時は切ないものなのよ、だそうだ。
彼女達の大好きな昼ドラの台詞らしいのだが、あいにくとさっぱり意味が分からない。でもようするにイギリスがアメリカに向ける愛情は、親子のものであり兄弟のものであり、そしてそれは普遍であるということは理解できた。
変わりゆくものの多い中で、彼の愛情だけは変わらない。
それはとても大事なことのように思えた。
イギリスは変わらないものを持っている。みんなみんな変わっていってしまうこの世界において、彼は唯一無二のものを持っているのだ。
いつかそれを自分も手に入れられればいいなと思いながら、ロシアは再び新しく淹れられた極上のウバを片手に、にっこりと楽しげに笑った。
返された不器用なイギリスの小さな笑顔が、この先も変わらなければいいと願いながら。
素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
険悪な雰囲気になる二人、というのをあまりうまく書くことが出来なかったんですが、お互い好きなのに言いたいことがすれ違ってしまう二人を、すごく楽しく書かせて頂きました。(米英とはまた違ったすれ違い萌えで)
ロシアが可愛くなりすぎだかなぁと反省しながらも、ちょっとズレた思考回路を持っていそうなところを書いてみたのですが、どうでしょう?
少しでもお気に召していただけたら何よりです。
このたびは七夕企画へのご参加どうもありがとうございました!
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