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 紅茶をどうぞ
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君の笑顔が見たいだけ
 とてつもなく広い大地だった。
 どこまで行っても果てなどないかのように思われたそこに、アメリカはいつもたった一人で取り残される。夜の闇は星の輝きよりも獣の唸り声の方がはっきりと聞こえて、怖くて寂しくて仕方がなかった。
 広いベットの中、一人きりで朝が来るのを待ちながら、アメリカはいつもイギリスのことばかりを想う。その頃のアメリカにはイギリスしかいなかった。彼だけがアメリカの世界の全てだった。

「ねぇ、イギリス。大好きだよ!」

 そう言えば彼は笑って俺もだ、と言ってくれた。
 ついで頭を撫でる甘い仕草。イギリスはいつだって優しく抱き締めて惜しみないキスをくれた。
 でも、彼は時間が来たらすぐにいなくなってしまう。ずっとずっと一緒にいたいという言葉には、眉を顰めて申し訳なさそうに首を振る。しがみついた両手も、時間が来たら容易く解かれ、離さなくてはならなかった。
 そうやって取り残されて、また次に彼が訪れるのを一人ぼっちで待たなきゃいけない。
 暗闇の中、会いたいと呟く声はいつだって届くことはなかった。
 ヨーロッパは遠い。イギリスのいるブリテン島は、その時のアメリカにとっては果てしない広大な海原の更に向こうにあって、どんなに背伸びしても姿さえ見えない遠い場所だった。


 お前も強くなれよ、とイギリスは言った。
 言われなくても強くなる。大きくなる。誰にも負けない国になる。
 そうすればいつだってイギリスに会いに行けるようになるんだと、そればかりを想っていた。
 そしてその想いはいつしかとどめられないほど大きくなり、自覚してしまうほどはっきりと、アメリカはイギリスを求めはじめた。憧れはいつしか別のものへと変化を遂げていた。
 好きだと告げる言葉は同じままに、込められた想いの深さだけはどんどんと強く育っていく。

 アメリカ。お前のことは俺が守ってやるからな。
 そんなふうに笑うイギリスを疎ましく思い始めたのはいつからだっただろう。
 いつまでも子供のままではいられない。そんな事、イギリスにだって分かっていたはずなのに。彼は現実から目を逸らして、自分よりも背の高くなったアメリカの姿を見ようとはしなかった。
 イギリスの笑顔も言葉も態度も、みんなみんな子供に向ける大人のものばかり。それがこんなにもアメリカを苛立たせる。酷い気持ちにさせるのだ。
 あぁそうさ、マザーファッカーなんて冗談じゃない。
 イギリスはアメリカにとって、ただ単に「母国」というだけでは終わらせられない、もっと大切で愛しい存在なのだ。
 このままでは、どんなに願ってもどんなに望んでも、イギリスはアメリカのものにはならない。その強さも優しさも輝きも、それらは決して自分一人のものにはならないのだ。

 ――――― だから、独立する事にした。

「イギリス。俺は絶対に認めさせてみせるよ。そしてちゃんと伝えるから」

 アメリカはイギリスに背を向けた。立ち向かうため一旦は決別をしたのだ。
 だってそうだろう、子供はいつか巣立つものだから。こんな事、当たり前に決まってる。そして次に会った時は、容赦なくイギリスの心を奪うと決めていた。
 他の誰にも渡さない、触らせない。そんな独占欲ゆえの戦い。




 ヨークタウンでイギリス軍が敗れた時、イギリス側はなおもニューヨーク、チャールストン、サヴァンナを有していた。だからアメリカは、戦争はまだまだ終わる事はないと思っていた。
 それなのに、イギリスは戦いをやめた。大陸に已然残っていた兵をすべて引き上げあっさりと争いを終結させてしまった。
 アメリカはイギリスが自分の独立を認めたからこそ、戦いをやめたのだと思った。そしてついに自分は彼と対等になったのだと信じて疑わなかった。無論、そこに含まれたイギリスなりの温情に気付かないほど馬鹿じゃない。
 フランスでの調印に訪れたイギリスは青褪めた顔色のまま始終不機嫌そうな顔で、決してアメリカと目を合わせようとはしなかった。呼びかけても応えない、近付く事も出来ない。
 それでもアメリカは静かに笑った。
 彼を傷つけることを承知で戦い、そしてようやく独立を果たし念願の自由を手に入れた。
 もう自分を止めるものはない。隔たりはない。
 ただ待つだけしか出来なかったあの頃とは違う。与えられたものを甘受するだけの日々にはもう戻らない。今度は自らの力でイギリスを手に入れてみせる番だ。誰が何と言おうと知ったことではない。

 イギリスの全ては自分のものだと、アメリカは深く心に刻み込んだ。


 ねぇ、イギリス。
 今も昔も、そしてこの先も。
 ずっとずっと愛しているよ。
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