紅茶をどうぞ
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[お題] 僕が、君が、生きる場所
見上げた空からぽつぽつと雨が降って来た。
ジャケットを脱いで頭から被り走り出すと、徐々に強まってくる雨足に急かされるように足を速める。
もう少しでイギリスの家に辿り着くと言うのに、なんて間の悪い。
本当にこの国は雨が多いなぁとぼやきながら、とりあえずどこか雨宿り出来そうなところはないかと探してみても、なだらかな道が続くのみで民家はなかった。
途中、大きな木が一本佇んでいるのでとりあえずその下に駆け込む。
葉の間からバラバラと雨粒が落ちてくるが、それなりにマシだろう。
携帯を取り出せばメールの着信が一件。
濡れた眼鏡を外して慌てて開けば、イギリスからのものだった。
『雨が降りそうだから迎えに行く。駅で待ってろ』
短い伝言が今から10分前に入っていた。確認を怠った自分に思わず舌打ちをしながらも、アメリカはふーっと大きく息をついて濡れないように携帯を仕舞い、片手に持っていた眼鏡をハンカチで拭くとかけ直した。
ここで待っていればそのうちイギリスが通るだろう。駅まで戻るのも面倒くさいし、少々不十分だが雨宿りを続行させた方がいい。
そう思いながらアメリカは、薄曇りの空を見上げて木の幹に背中を預けた。
そう言えば昔もこうやってイギリスを待っていたなぁ、と思い出す。
小さい頃、いつ来るとも知れぬ彼を待ち、港の見える丘の大きな木の下で、ずっとずっと待っていたことがあった。
暑い時は涼やかな木陰になり、雨が降ってくれば大きな傘になってくれたその木も、時代の流れの果てに伐採され、気が付いたら住宅地に変わってしまっている。
今と違って携帯もない昔は、何日もかけてようやく届く手紙だけがアメリカとイギリスを繋ぐ唯一のものだった。
美しい透かしの入った真っ白な封筒と便箋。そこに青いインクでしたためられた流麗な筆記にイギリスの面影を感じ取って、ぼろぼろになるまで何度も何度も見続けた。
それを大事に手にしながら、青空の広がる丘の上でイギリスを待ち続け、会えない日々に涙したあの頃。
けれどそんな日々もいつしか遠い遠い昔の記憶となってしまった。
「早く来てよ、イギリス」
ぽつりと呟く声は知らないうちに大人のものになっている。不思議なもので、寂しいものは寂しいし、怖いものは怖いし、好きなものは好きだし、自分自身は何一つ変わっていないと思っていた。
けれどどんどん大きくなって、目に見えるものが輝かしいものばかりではなくなって、イギリスとの距離が幼い頃以上に遠いものになっていき、疑問を差し挟む間もなく急速にアメリカは『大人』になっていった。
今はなんでも自由に出来るし、イギリスともいい関係になれた。
それでもこうやって1人で彼を待っていると、昔に感じたような心細い気分になるのは何故なんだろう。
―――― 待つのは苦手だ。
だからアメリカはいつも約束の時間より遅く待ち合わせの場所へ行く。昔自分が待ち続けた分、彼も待つべきだと変に意固地になっていたこともあった。
だがそれは建前でしかない。本当は自分を待ってくれているイギリスを見るのが好きで、わざと遅れて行っては怒られるのだ。
「早く、来ないかなぁ」
雨は未だ降り続いている。濡れたジャケットが重くなって、そのままなんとなく座り込んでしまいたくなった。
本当にこの国の雨はいろんなことを思い出させるから嫌になる。
雨なんて大嫌いだ、最低だ最悪だとぶつぶつ文句を言いながら子供のように拗ねていると、水の音に混じって遠くから小走りに駆けて来る足音が聞こえてきた。
ぱっと顔を上げる。
灰色の空のもと、青い傘がゆらゆら揺れていた。
時々のぞく金色の髪がくすんだ景色の中で鮮やかに見える。
あぁ、そうだ。
昔から自分は彼を待っていた。彼だけを待ち続けていた。
会えない寂しさよりも会えた時の嬉しさを糧に、長い長い時間1人でいる強さを覚えていった。
そしてそれは今も変わらない。
一生懸命走って、アメリカに早く会わなければと急ぐ姿に、こんなにも胸が高まるなんておかしいくらいだ。
「イギリス!」
頭から被っていたジャケットを脱ぎ捨てて、声を張り上げて彼の名を呼ぶ。雨音になんか掻き消されたりしないで、アメリカの声はまっすぐにイギリスに届いた。
こちらに気付いた彼がまるで木漏れ日のような明るい笑顔を浮かべる。
澄み渡った青空よりももっともっと鮮やかな、アメリカだけの彼。
雨は哀しい記憶を揺り起こすけれど、いつかきっと、暖かな思い出に変わるだろう。
そんな日はもうすぐそこにあるはずだ。
ジャケットを脱いで頭から被り走り出すと、徐々に強まってくる雨足に急かされるように足を速める。
もう少しでイギリスの家に辿り着くと言うのに、なんて間の悪い。
本当にこの国は雨が多いなぁとぼやきながら、とりあえずどこか雨宿り出来そうなところはないかと探してみても、なだらかな道が続くのみで民家はなかった。
途中、大きな木が一本佇んでいるのでとりあえずその下に駆け込む。
葉の間からバラバラと雨粒が落ちてくるが、それなりにマシだろう。
携帯を取り出せばメールの着信が一件。
濡れた眼鏡を外して慌てて開けば、イギリスからのものだった。
『雨が降りそうだから迎えに行く。駅で待ってろ』
短い伝言が今から10分前に入っていた。確認を怠った自分に思わず舌打ちをしながらも、アメリカはふーっと大きく息をついて濡れないように携帯を仕舞い、片手に持っていた眼鏡をハンカチで拭くとかけ直した。
ここで待っていればそのうちイギリスが通るだろう。駅まで戻るのも面倒くさいし、少々不十分だが雨宿りを続行させた方がいい。
そう思いながらアメリカは、薄曇りの空を見上げて木の幹に背中を預けた。
そう言えば昔もこうやってイギリスを待っていたなぁ、と思い出す。
小さい頃、いつ来るとも知れぬ彼を待ち、港の見える丘の大きな木の下で、ずっとずっと待っていたことがあった。
暑い時は涼やかな木陰になり、雨が降ってくれば大きな傘になってくれたその木も、時代の流れの果てに伐採され、気が付いたら住宅地に変わってしまっている。
今と違って携帯もない昔は、何日もかけてようやく届く手紙だけがアメリカとイギリスを繋ぐ唯一のものだった。
美しい透かしの入った真っ白な封筒と便箋。そこに青いインクでしたためられた流麗な筆記にイギリスの面影を感じ取って、ぼろぼろになるまで何度も何度も見続けた。
それを大事に手にしながら、青空の広がる丘の上でイギリスを待ち続け、会えない日々に涙したあの頃。
けれどそんな日々もいつしか遠い遠い昔の記憶となってしまった。
「早く来てよ、イギリス」
ぽつりと呟く声は知らないうちに大人のものになっている。不思議なもので、寂しいものは寂しいし、怖いものは怖いし、好きなものは好きだし、自分自身は何一つ変わっていないと思っていた。
けれどどんどん大きくなって、目に見えるものが輝かしいものばかりではなくなって、イギリスとの距離が幼い頃以上に遠いものになっていき、疑問を差し挟む間もなく急速にアメリカは『大人』になっていった。
今はなんでも自由に出来るし、イギリスともいい関係になれた。
それでもこうやって1人で彼を待っていると、昔に感じたような心細い気分になるのは何故なんだろう。
―――― 待つのは苦手だ。
だからアメリカはいつも約束の時間より遅く待ち合わせの場所へ行く。昔自分が待ち続けた分、彼も待つべきだと変に意固地になっていたこともあった。
だがそれは建前でしかない。本当は自分を待ってくれているイギリスを見るのが好きで、わざと遅れて行っては怒られるのだ。
「早く、来ないかなぁ」
雨は未だ降り続いている。濡れたジャケットが重くなって、そのままなんとなく座り込んでしまいたくなった。
本当にこの国の雨はいろんなことを思い出させるから嫌になる。
雨なんて大嫌いだ、最低だ最悪だとぶつぶつ文句を言いながら子供のように拗ねていると、水の音に混じって遠くから小走りに駆けて来る足音が聞こえてきた。
ぱっと顔を上げる。
灰色の空のもと、青い傘がゆらゆら揺れていた。
時々のぞく金色の髪がくすんだ景色の中で鮮やかに見える。
あぁ、そうだ。
昔から自分は彼を待っていた。彼だけを待ち続けていた。
会えない寂しさよりも会えた時の嬉しさを糧に、長い長い時間1人でいる強さを覚えていった。
そしてそれは今も変わらない。
一生懸命走って、アメリカに早く会わなければと急ぐ姿に、こんなにも胸が高まるなんておかしいくらいだ。
「イギリス!」
頭から被っていたジャケットを脱ぎ捨てて、声を張り上げて彼の名を呼ぶ。雨音になんか掻き消されたりしないで、アメリカの声はまっすぐにイギリスに届いた。
こちらに気付いた彼がまるで木漏れ日のような明るい笑顔を浮かべる。
澄み渡った青空よりももっともっと鮮やかな、アメリカだけの彼。
雨は哀しい記憶を揺り起こすけれど、いつかきっと、暖かな思い出に変わるだろう。
そんな日はもうすぐそこにあるはずだ。
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