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 紅茶をどうぞ
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[お題] 君と別れたプラットホーム


 [ 注意 ]

 イギリスがかなり自虐的です。

 それと二人とも少々乱暴なことを言っています。

 苦手な方はくれぐれもご注意下さい。
















 やっぱり年上として、物分りのいい顔で綺麗に別れてやるのが最後の愛情かな、って思うんだよな。
 そりゃずっと一緒にいられたら幸せだろうけど、そんなことあるわけないし。永遠に、なんて言葉は映画の中だけの話だ。

 幼い頃から世話焼いて、兄としてそれなりに意識して振舞って、可愛い弟して扱ってきた。それなのに馬鹿みたいに好きになっちまって、何を血迷ったのか付き合って欲しいだなんて我儘言ってさ。
 挙句の果てには足まで開いたんだよな。元弟に抱かれて嬌声上げて善がってやんの。
 あんなちっちゃな頃から面倒見てきた息子みたいに年の離れた男にさ、抱かれて悦んで、イっちゃってさ。どんだけ淫乱なんだ、って感じだよな。
 
 あいつ、見れば分るけどすっげーいい男だろ?
 顔良し頭良しスタイル良し。最近はちょっと太って来たって言っても、ちゃんと腹割れてるし。しかもまぁ、当たり前だけど金だって持ってる。それは俺達みんなそうだろうけど、まぁこんだけ条件良ければ女なんて引く手数多に決ってるんだ。
 若いし体力あるし、案外真面目で不誠実なところはないしさ。酒におぼれるような事もなければドラッグなんて絶対やらない。女だったらたいてい惚れちゃいそうないい男なんだよ。
 なにもこんな、年上で融通の利かない元兄なんて、好き好んで抱かなくても相手はいっぱいいるだろ。ただちょっと、昔の誼で優しくしてくれてるだけに決ってる。
 あぁそうだ、あいつ根はすっげえ優しい奴なんだ。

 悪いことしたなぁって思う。
 まっとうに恋愛をして、まっとうに生きて、遊んで、楽しんで、まっすぐ前を向いて歩くのがあいつには似合っているって言うのにさ。
 ほんと情けないったらありゃしない。俺なんかの相手して、つまんないだろうにまるで恋人みたいに付き合ってくれて。
 かわいそうなことをしたよ、本当に。
 
 だから別れる準備はいつだって万端だ。
 あいつが独立する時は大喧嘩しちまって、みっともなく追いすがって、挙句傷つけて、泥沼の状態で別れることになったんだよな。
 でも今度は違う。俺はちゃんと笑ってサヨナラ言ってやる覚悟は出来てる。
 もしいい奴が出来たんだったら、きちんとおめでとうだって言えるさ。祝福して、そのあとは後腐れなく縁切って、公式の場でしか会わないようにする。プライベートな時間を邪魔するような野暮な真似は絶対にしない。
 
 愛してるかって?
 そりゃ当たり前だろ。俺があとにも先にも「愛」って気持ちを持ったのはあいつただ一人だ。国民は家族みたいなもんだからな、これはまた別。
 俺が、俺個人が心の底から愛し慈しみ、ささいな時間さえも幸せに感じたのはあいつといた時だけだ。
 あいつの笑顔に何度癒されたか分らない。あいつと繋いだ手のぬくもりは、俺にはどんな綺麗な宝石や高価な宝よりももっとずっと価値ある大切なものなんだ。
 名前を呼ばれると泣きたくなるくらい嬉しいし、隣に立つと何より安心した。
 それ以上に、あいつの笑顔は俺を満たす。
 あいつが笑っていると俺まで嬉しくなるし、あいつがつらそうな顔をすると俺は呼吸も苦しいくらい哀しくなる。

 こんなの、重いだろ。鬱陶しいだろ。正直俺だってうざったいって思うさ。
 だからそのうち捨てられるのなんて分かってる。あいつは自由だし、今はちょっとかわいそうな俺に同情してくれてるんだろうけど、そのうちまた離れたがるに決まってるからな。
 独立する時はいっぱいいっぱいで気づいてやれなかったけど、今度はちゃんと察してやろうって思ってる。見落とさないよう注意深く気遣ってさ。
 それくらい年上として立派にやってやらないと、かっこつかないだろ。

 俺はただ、あいつにはいつでも太陽みたいに笑っていて欲しいんだ。躓いて、時には壁にぶち当たっても、持前の気力と体力で乗り越えていくあいつの背中を見守るのが嬉しい。
 初めのころは寂しかったけど、今はどんなに誇りかしれない。あぁ、ちょっとだけの間だったけど、俺はこんな凄い奴の兄だったんだなぁって思うと、誇らしいよ。
 情けない元兄でほんと申し訳ないけど。

 ……ん? どうした? そろそろ時間か?
 そうか……今日は付き合ってくれてありがとな。愚痴ばっか聞かされてお前も迷惑だったろ。悪かった。
 こんなんだからあいつにも愛想尽かされるんだろうなぁ、俺。でも飲まなきゃやってられないっての。
 あぁ、また連絡する。気を付けて帰れよ、俺もそろそろ引き揚げるから。うん、大丈夫。迎えが来ることになってるから。
 今日は本当にありがとな。今度は俺が奢るから、また飲もうな。






* * * * * * * * *






 駅のベンチから腰を上げて、泥酔してほとんど寝落ちしかけているイギリスを背に歩き出した日本は、数歩進んだところで柱の陰にいる人物に声を掛けた。
 
「……アメリカさん」

 囁くような声でも人気のないホームではちゃんと相手に届く。
 気まずそうに背を預けていた壁から体を離すと、彼ははぁと大きなため息をついて金色の髪をがしがしとかき乱した。
 ひどい苛立ちが伝わってくる。
 いつもと違う余裕のない様子に、日本はほんのりと笑みを浮かべて両目をすうっと細めた。

「まったく、なんだって言うんだあの人は」
「立ち聞きはマナー違反ですよ」
「分かってるよ。でも気になったんだからしょうがないだろ」

 日本とイギリスが仲がいいのは昔から知っている。ただの友人関係だということも。
 それでも恋人という立場をようやく手に入れたアメリカにしてみれば、夜に二人きりで会うとなれば気にならない方がおかしいだろう。
 イギリスは優しくされるとすぐにほだされるから。

「あなたはまだ彼を不安にさせているんですね」
「……そうみたいだね。ったく、被害妄想もここまでくると天然記念物ものだよ」

 思わずアメリカは泣きそうな表情で顔をゆがめた。
 イギリスが疑り深いことなど初めから分かっている。きっと彼は過去の傷を未だ引きずっていて、それがどうしようもないくらい深いトラウマになってしまっているに違いない。
 もしかするとアメリカが独立を果たしたあの時から、イギリスの心の一部は壊れてしまっているのかもしれなかった。
 何度愛していると言っても信じない。何度永遠を誓っても諦めたように笑うだけ。
 そしてそれを責めることなんてアメリカには出来やしない。全ての原因は自身にあることを彼は痛いほどよく知っていた。

「大切なんだ……本当に好きなんだ。兄としてではなく、弟としてではなく。俺は彼のことが」
「分かっています。そしてそれはイギリスさんも同じお気持ちでしょう」
「でもあの人は俺の想いを信じてはくれない。この先も、未来永劫きっと」
「アメリカさん」

 見上げてくる日本の黒塗りの瞳が、月明かりの下できらりと輝く。
 深く優しい夜の色はどこまでもどこまでも穏やかにアメリカを見つめていた。

「ネバーギブアップ、ですよ」
「日本……」
「不屈の精神、これに尽きます。あなたにはそれが出来るはずです。この先100年でも200年でもそれこそ1000年でも、変わらぬ気持ちを持って傍に居続ければ、そのうち嫌でも分かる日がくるでしょう」

 あなたがどんなに惚れ込んでいるかが。

 そう言って笑った日本を前に、アメリカは思わず赤面した。本当にこの東洋の島国は突然ストレートに確信を突いてくる。
 この余裕っぷりはいわゆる歳の功なのだろうかと思いながら、普段なら空気の読めないふりをして言い返すところだが、今夜はおとなしく受け止めた。

 イギリスは自分だけが一方的にアメリカのことを好きで、だから「付き合ってもらっている」と思い込んでいるのだろう。
 冗談じゃない。
 アメリカにしてみれば、彼が兄弟や家族にこだわっている時から恋心を抱いていたのだ。生半可な気持ちで兄だった人を抱こうだなんて思うはずがない。
 リップサービスで愛を口にするほどいい加減な育ち方をしていないことなど、イギリスが一番良く分かっているはずだと言うのに。

 愛されている自信がないと言うのなら、もう手加減なんてしてやらない。臆病な彼のために今までかなり我慢して抑えて来たと言うのに。
 愛されているということを嫌というほど叩き込んであげよう。
 どうせ彼は自分に甘いのだ。受け皿はどこまでもどこまでも深く果てがないだろう。ならば溢れるほどの愛情で貪欲な彼を満たしていけばいい。

「ありがとう、日本。イギリスにはそろそろ覚悟を決めてもらうことにするよ!」
「あまり強引なのは好きではありませんが、あの方にはそれくらいが丁度良いのでしょうね」

 苦笑を浮かべながら彼はそのまま頭を下げ、おやすみなさいと告げて踵を返した。おそらく駅の外に車を待たせているに違いない。
 先ほど停めた車の近くに黒塗りのリムジンがあったな、と思い返しながら、アメリカは日本の背中を見送った。小柄ながらもまっすぐ伸びた、奇麗な背筋が遠去かっていく。
 



 最終列車の出てしまったホームはしんと静まり返っていて、迎えに行くとメールをしたアメリカを待つイギリスしか、今はいなかった。そのうち駅員が最終チェックに訪れ、明かりを全て消してしまうだろう。
 だらしなくベンチに座るイギリスは、歩み寄るとすっかり寝入ってしまっていた。すー…と穏やかな寝息が聞こえる。
 日本といる時の彼は本当に自然体だ。少しかっこつけなところもあるが、基本的には落ち着いていて、自分の中のわだかまりを素直に愚痴という形で聞いてもらっているようだ。
 むろん聞き上手な日本を前にすれば誰でもついつい本音を漏らしてしまいがちだが(アメリカもそうだ)、とくに日本はイギリスを気にかけているようなところがある。普段は余計な口を挟まない彼も、イギリスが話しやすいよう水を向けてその心を少しでも軽くしてあげようと気遣っているに違いない。そしてそんな優しさにイギリスは心を許しているのだろう。
 恋人としてはかなり悔しかったが、こればかりは仕方がない。

 この先のことに不安を覚えるのも、アメリカの本音を信じられないのも、イギリスが悪いわけではなかった。
 幼い頃、彼はたくさん愛してくれた。たくさん優しくしてくれた。それなのに武器を手に彼を傷つけ独立をしたのはアメリカだ。理由はどうあれ未だに彼にとって自分は裏切り者なのだろう。
 好きだと言う気持ちの裏側で、いつでも彼はアメリカを見限っている。「二度目」に怯えて固く閉じ籠ってしまっているのだ。

 代わりなんていない。
 イギリスの代わりなんて昔も今もいない。
 アメリカにとって唯一の人。最初で最後の人。
 大人になるための代償はとても痛くて辛くて悲しいものだったけれど、それを乗り越えて自分はここに立っているのだ。
 彼の隣りに。

 だからもう迷ったりはしない。



「イギリス」

 眠った体を抱き上げる。
 今の自分はこんなにも簡単に彼を攫っていけるのだ。待つだけの子どもなんかじゃない。彼に頼らなければ何も出なかった自分など、とうの昔に置いてきた。
 イギリスもそろそろ自覚するべきなのだ。

「もう嫌だ、飽きたって言ったって、絶対離してなんかやるもんか。そんな日が来たら俺はきっと閉じ込めて、鎖につないで、逃げられないようにするよ」

 赤みを帯びた顔に頬を寄せると、アルコールに浸された彼の高い体温が伝わってくる。
 唇についばむような口吻けを落とすと、イギリスの眉が顰められ、ううんと唸り声が漏れた。続いてだるそうに両目が開く。
 酔眼がぼんやりとアメリカを見上げた。

「……よぉ」
「君は相変わらず飲みすぎだ」
「日本は……?」
「とっくに帰ったよ。まったく誰の前でも正体失うほど飲むなんて、無防備すぎやしないかい?」

 思わずつい出た文句に、イギリスはふにゃりと嬉しそうにやわらかな笑みを浮かべた。そろそろと手をのばしてアメリカの頬に指先を滑らせてくる。
 温かすぎるそれが妙にくすぐったい。

「なんだ、妬いてるのか?」
「……随分な言い草だね」
「大丈夫、俺にはお前だけだから。お前以外、いらねーよ……」
「そんなの分かってるよ」
「でも……お前が嫌だって言う時は、ちゃんと、別れてやるからな」

 ぐ、っと歪んだ泣きそうな顔で言われても困る。むしろ頭に来る。
 本当にこの人はなんにもわかっちゃいないんだと、アメリカは不機嫌な顔で思いきりノーセンキュー!と喚いてやった。
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