紅茶をどうぞ
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パラノイア 1
(「Wish」の続編になります)
夢を見た。
すごくすごく不思議な夢で、正直、夢の中でもこれは夢なんだろうな、って思えるくらい現実にはありえないものだった。
どういうシチュエーションなのかさっぱり理解出来なかったけれど、その時の僕は冷たい水の中にいて、ゆらゆらと揺れながら奥底に沈みかけていた。呼吸が出来なくて苦しいし、あちこち痛くて仕方なくて、早く水から上がりたかったけれど、身体は重くてちっとも動かせなかった。
意識も朦朧としてきて、このまま沈んで、そして浮き上がれなくて僕はもう死んでしまうのかもしれないって、そう思った時、水面から手が差し伸べられたんだ。
波に歪んだその姿はとても眩しくて。ぼやける視界で薄暗い水底から見上げると、それはイギリス君だった。まるで僕を助けようとしているかのように、必死な顔をして腕を伸ばしている。
おかしな光景だった。だってあのイギリス君がだよ? 僕を助けるなんてそんな馬鹿な真似、してくれるはずないじゃない。
それに苦しいなぁ、痛いなぁと思っても、僕は誰かに助けを求めたりはしないしね。だって僕の為に動いてくれる人なんてこの世界のどこを探したっているはずがないし。誰も来てくれないのが分っているのに、助けてなんて言えないよ。
だからこれは夢なんだってわかった。どうしてイギリス君なのかは知らないけれど、僕は彼がそうしてくれるのならとてもとても嬉しいと思ったんだ……現実には絶対にありえないわけだけど。
夢って本当、都合がいいんだなぁと思った。
そこで、ぷつんと映像は途切れた。
イギリスがその違和感に気付いたのはほんの一瞬だった。
彼がこの部屋に入って来た時になんとなくおかしいな、とは思っていたが、注意深く観察しているわけでもなし、気のせいだと自己完結をして忘れてしまっていた。
だが、何気なく丸テーブルの対角線上に座るロシアを目に留め時、改めて拭いきれない違和感を感じた。なにが、とははっきり言えなかったが、最初に感じた時と同じようにどこかがおかしかった。
会場の入口ですれ違いざまに感じた、嗅ぎ慣れたあの匂い。
錆び付いた鉄のようなそれは、迷うまでもなく血の匂いだ。
最初はまたロシア国内で内乱や暴動でもあったのかと思った。WW2前後の彼からは常に血の匂いがして、会うたび辟易させられた記憶がある。
だが過去はどうあれ今はロシアも民主主義を取っており、そう簡単に独裁的判断を下せるような情勢にはない。粛清などしようものなら世論が騒ぎ立て国連でも争点になるだろう。
なによりイギリスの情報網からはそんな血生臭い報告は届いていなかったし、アメリカからも何の打診もない。という事は理由は別のところにあるとみて良かった。
正直、係わり合いになりたくないというのが本音だ。
ロシアは一見穏やかそうに見えて何を考えているのか分からないところがある。底が見えないと言った方が正しい。
それでもここ最近は、多少なりとも交流を持つようになりその考えが変化してきたようにも思う。
彼は変わったし、もちろんイギリスも変わった。
いい方向に、であることを願ってやまないが、目下のところなんの問題もなく時は過ぎ去っている。どこまで続く平穏かは分からないが、無闇に壊す理由はお互いなかった。
オイル景気に沸くロシアが最近キナ臭いと感じて来てはいるが、だからと言って即戦争、赤の国復活、ということにはならないだろう。
「イギリス、今日は日本とスシバーに行く予定なんだ。友達がいなくて寂しい君の事も誘ってあげるよ!」
アメリカがそう言って気軽に肩を叩いてくる。
振り返ると日本と二人、並んでこちらを見ていた。どうやら夕食に誘ってくれているらしい。
なんだかんだで口の悪いアメリカも、こうやって会えば自分に声を掛けて来てくれる。今日は日本がいるからかもしれないが、それでも素直に嬉しかった。
彼らとは様々なことがあって一時はもう昔のように気安く話しをする事は出来ないのではないかと思ったこともある。だが二度に渡る大戦を経て少しずつ互いの距離が縮み、元のようにとはいかないが充分他国に比べれば近しい間柄となった。
アメリカは相変わらず人を小馬鹿にする癖は治らないが(一体いつからこんな性悪なガキに育ってしまったのか)、それでもこういう関係も悪くないな、と思うまでになってきている。
日本とも、互いの性格が良い方向に作用して過去のわだかりもなく親しくつき合うことが出来ていた。皇室・王室間の交流も頻繁で、両国の文化交換もいちぢるしい。
昔を思えばこうやって普通に話せる今が本当に嬉しかった。当然、面と向かってそんな言葉を口にするつもりはなかったが。
「スシかぁ、いいな」
「イギリスさん、前に本格江戸前寿司に挑戦してみたいとおっしゃっていたでしょう?」
そう言って控え目に微笑む日本の心遣いに、イギリスもまた口元に笑みを浮かべながら嬉しそうに頷く。
アメリカが二人の間に割って入るようにして賑やかに言った。
「日本が紹介してくれた腕利きのスシ職人がNYに店を出してくれたんだよ!」
「へぇ」
「お口に合うかは分かりませんが、是非ご一緒しませんか?」
「そうだな」
行くか、と言いかけてふいに言葉を切る。
なんとなくざわりと肌に冷気が走り、思わずイギリスは眉をひそめた。咄嗟に周囲を見回して見るがとくに何もない。勘違いだったか、と目線を戻そうとしたその時に、視界の隅にきらりと光るものを見つけた。
「イギリスさん?」
怪訝そうな日本の声に、ちょっとごめんな、と声を掛けてイギリスは光の方へ小走りに寄って行った。
二人の不思議そうな視線を背中に感じながら、大会議室のとある席へと近づいて行く。そしておもむろに床に膝をついた。
椅子の下に落ちていたのは小さな銀色の十字架だった。
カトリックのものとは違う、八端十字架。正教会のそれをイギリスは以前にも見たことがあった。
鎖が切れて持ち主の首から滑り落ちたのだろう。幸い傷はついていない。蛍光灯の光を反射して綺麗に輝いていた。
「どうなさいました?」
「どうしたんだい、イギリス?」
日本とアメリカが首を傾げながら歩み寄って来る。そしてなにげなくイギリスが拾い上げたものを見ようと手元を覗き込んできた。
その時、イギリスは咄嗟に手にした十字架を上着のポケットに滑り込ませてしまった。いつもだったら気軽に落ちていたんだ、と答えるところを、どんな心情の変化か思わず隠してしまう。
その行動に自分も、そして二人も驚いたように一瞬だけ動きを止めた。
「何を拾ったんだい?」
アメリカが怪訝そうに問い掛けてくる。日本も無言でこちらを見ていた。
イギリスは数秒悩んだ末、短く言う。
「ただのボールペンだ。帰り際に事務室に届けておく」
「ふぅん?」
「悪いが先に行っててくれないか。今日は夕食は外で済ませると、上司に電話を入れておきたいからな」
「……珍しいね、そんな連絡」
普段は空気を読まないくせに、アメリカがこんな時ばかりさぐるような目でこちらを見てくる。気まずさに携帯電話を取り出して、手のひらでもてあそびつつ目線を逸らせると、日本が気を利かせてアメリカの腕を引いた。
「では私達は先にエントランスへ行きますね。タクシーを呼びますので、そちらで合流しましょう」
「あぁ済まない。すぐに行く」
ほっとして笑って軽く頷くと、日本も如才なく笑みを浮かべ、ぺこりと頭を下げてアメリカと共に部屋を出て行った。
途中振り返ったアメリカの目が憮然としていたのに気付いて、イギリスは人知れず溜息をついた。
夢を見た。
すごくすごく不思議な夢で、正直、夢の中でもこれは夢なんだろうな、って思えるくらい現実にはありえないものだった。
どういうシチュエーションなのかさっぱり理解出来なかったけれど、その時の僕は冷たい水の中にいて、ゆらゆらと揺れながら奥底に沈みかけていた。呼吸が出来なくて苦しいし、あちこち痛くて仕方なくて、早く水から上がりたかったけれど、身体は重くてちっとも動かせなかった。
意識も朦朧としてきて、このまま沈んで、そして浮き上がれなくて僕はもう死んでしまうのかもしれないって、そう思った時、水面から手が差し伸べられたんだ。
波に歪んだその姿はとても眩しくて。ぼやける視界で薄暗い水底から見上げると、それはイギリス君だった。まるで僕を助けようとしているかのように、必死な顔をして腕を伸ばしている。
おかしな光景だった。だってあのイギリス君がだよ? 僕を助けるなんてそんな馬鹿な真似、してくれるはずないじゃない。
それに苦しいなぁ、痛いなぁと思っても、僕は誰かに助けを求めたりはしないしね。だって僕の為に動いてくれる人なんてこの世界のどこを探したっているはずがないし。誰も来てくれないのが分っているのに、助けてなんて言えないよ。
だからこれは夢なんだってわかった。どうしてイギリス君なのかは知らないけれど、僕は彼がそうしてくれるのならとてもとても嬉しいと思ったんだ……現実には絶対にありえないわけだけど。
夢って本当、都合がいいんだなぁと思った。
そこで、ぷつんと映像は途切れた。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
イギリスがその違和感に気付いたのはほんの一瞬だった。
彼がこの部屋に入って来た時になんとなくおかしいな、とは思っていたが、注意深く観察しているわけでもなし、気のせいだと自己完結をして忘れてしまっていた。
だが、何気なく丸テーブルの対角線上に座るロシアを目に留め時、改めて拭いきれない違和感を感じた。なにが、とははっきり言えなかったが、最初に感じた時と同じようにどこかがおかしかった。
会場の入口ですれ違いざまに感じた、嗅ぎ慣れたあの匂い。
錆び付いた鉄のようなそれは、迷うまでもなく血の匂いだ。
最初はまたロシア国内で内乱や暴動でもあったのかと思った。WW2前後の彼からは常に血の匂いがして、会うたび辟易させられた記憶がある。
だが過去はどうあれ今はロシアも民主主義を取っており、そう簡単に独裁的判断を下せるような情勢にはない。粛清などしようものなら世論が騒ぎ立て国連でも争点になるだろう。
なによりイギリスの情報網からはそんな血生臭い報告は届いていなかったし、アメリカからも何の打診もない。という事は理由は別のところにあるとみて良かった。
正直、係わり合いになりたくないというのが本音だ。
ロシアは一見穏やかそうに見えて何を考えているのか分からないところがある。底が見えないと言った方が正しい。
それでもここ最近は、多少なりとも交流を持つようになりその考えが変化してきたようにも思う。
彼は変わったし、もちろんイギリスも変わった。
いい方向に、であることを願ってやまないが、目下のところなんの問題もなく時は過ぎ去っている。どこまで続く平穏かは分からないが、無闇に壊す理由はお互いなかった。
オイル景気に沸くロシアが最近キナ臭いと感じて来てはいるが、だからと言って即戦争、赤の国復活、ということにはならないだろう。
「イギリス、今日は日本とスシバーに行く予定なんだ。友達がいなくて寂しい君の事も誘ってあげるよ!」
アメリカがそう言って気軽に肩を叩いてくる。
振り返ると日本と二人、並んでこちらを見ていた。どうやら夕食に誘ってくれているらしい。
なんだかんだで口の悪いアメリカも、こうやって会えば自分に声を掛けて来てくれる。今日は日本がいるからかもしれないが、それでも素直に嬉しかった。
彼らとは様々なことがあって一時はもう昔のように気安く話しをする事は出来ないのではないかと思ったこともある。だが二度に渡る大戦を経て少しずつ互いの距離が縮み、元のようにとはいかないが充分他国に比べれば近しい間柄となった。
アメリカは相変わらず人を小馬鹿にする癖は治らないが(一体いつからこんな性悪なガキに育ってしまったのか)、それでもこういう関係も悪くないな、と思うまでになってきている。
日本とも、互いの性格が良い方向に作用して過去のわだかりもなく親しくつき合うことが出来ていた。皇室・王室間の交流も頻繁で、両国の文化交換もいちぢるしい。
昔を思えばこうやって普通に話せる今が本当に嬉しかった。当然、面と向かってそんな言葉を口にするつもりはなかったが。
「スシかぁ、いいな」
「イギリスさん、前に本格江戸前寿司に挑戦してみたいとおっしゃっていたでしょう?」
そう言って控え目に微笑む日本の心遣いに、イギリスもまた口元に笑みを浮かべながら嬉しそうに頷く。
アメリカが二人の間に割って入るようにして賑やかに言った。
「日本が紹介してくれた腕利きのスシ職人がNYに店を出してくれたんだよ!」
「へぇ」
「お口に合うかは分かりませんが、是非ご一緒しませんか?」
「そうだな」
行くか、と言いかけてふいに言葉を切る。
なんとなくざわりと肌に冷気が走り、思わずイギリスは眉をひそめた。咄嗟に周囲を見回して見るがとくに何もない。勘違いだったか、と目線を戻そうとしたその時に、視界の隅にきらりと光るものを見つけた。
「イギリスさん?」
怪訝そうな日本の声に、ちょっとごめんな、と声を掛けてイギリスは光の方へ小走りに寄って行った。
二人の不思議そうな視線を背中に感じながら、大会議室のとある席へと近づいて行く。そしておもむろに床に膝をついた。
椅子の下に落ちていたのは小さな銀色の十字架だった。
カトリックのものとは違う、八端十字架。正教会のそれをイギリスは以前にも見たことがあった。
鎖が切れて持ち主の首から滑り落ちたのだろう。幸い傷はついていない。蛍光灯の光を反射して綺麗に輝いていた。
「どうなさいました?」
「どうしたんだい、イギリス?」
日本とアメリカが首を傾げながら歩み寄って来る。そしてなにげなくイギリスが拾い上げたものを見ようと手元を覗き込んできた。
その時、イギリスは咄嗟に手にした十字架を上着のポケットに滑り込ませてしまった。いつもだったら気軽に落ちていたんだ、と答えるところを、どんな心情の変化か思わず隠してしまう。
その行動に自分も、そして二人も驚いたように一瞬だけ動きを止めた。
「何を拾ったんだい?」
アメリカが怪訝そうに問い掛けてくる。日本も無言でこちらを見ていた。
イギリスは数秒悩んだ末、短く言う。
「ただのボールペンだ。帰り際に事務室に届けておく」
「ふぅん?」
「悪いが先に行っててくれないか。今日は夕食は外で済ませると、上司に電話を入れておきたいからな」
「……珍しいね、そんな連絡」
普段は空気を読まないくせに、アメリカがこんな時ばかりさぐるような目でこちらを見てくる。気まずさに携帯電話を取り出して、手のひらでもてあそびつつ目線を逸らせると、日本が気を利かせてアメリカの腕を引いた。
「では私達は先にエントランスへ行きますね。タクシーを呼びますので、そちらで合流しましょう」
「あぁ済まない。すぐに行く」
ほっとして笑って軽く頷くと、日本も如才なく笑みを浮かべ、ぺこりと頭を下げてアメリカと共に部屋を出て行った。
途中振り返ったアメリカの目が憮然としていたのに気付いて、イギリスは人知れず溜息をついた。
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