紅茶をどうぞ
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Wish 1
日の光が燦々と降り注ぐサンルームに、白い丸テーブルとチェアを移動させる。
レースで縁取りをしたテーブルクロスを掛け、手編みのドイリーを敷いてその上にウェッジウッドのジャスパーペールブルーの花瓶を置き、朝摘みの薔薇を丁寧に生けた。
続いて茶器を運ぶ。今日はゲストのリクエスト通りにミントンのハドンホールを用意した。いつもなら女王陛下に賜ったお気に入りのコッパーコレクションを出すところだが、相手は華やかな方が好きだと言っていたので急遽こちらに変更だ。
確かに今日のように天気の良い、明るい日差しの中で庭を眺めるのならば鮮やかな花柄の方が心地良いだろう。
茶葉はミルクティーに最適なハロッズのアッサムと、気分転換用にフォートナムメイソンのクィーンアンをあけた。ついでにモレロチェリーのフルーツインリカーも用意したので、彼の国の飲み方も踏襲出来るだろう。ウォッカではなくコニャックだが、酒好きな彼ならば気に入ってくれるに違いない。
お茶請けは開店と同時に買い求めたベノアの焼き立てスコーンとチョコレート風味のショートブレッドにした。もちろんフレッシュなクロテッドクリームと野いちごのジャムも忘れずに。
本当は手作りの菓子でもてなしたかったが、悔しいが他国に指摘されるまでもなく味に保障が持てない事など百も承知している。万が一失敗でもしたら取り返しがつかないと思い、あらかじめ前日に予約を入れておいたのだ。
サンドウィッチには無理を言ってリッツのローストビーフを取り寄せた。国賓どころか国そのものを招待するのだから、当然贅沢には当らないだろう。
完璧なブリティッシュスタイルでのアフタヌーンティーを。そう約束したからには少しの妥協も許されない。どんなに気に食わない相手だろうと、粗相をしてはこの国の沽券にも関わる。
姿見で自身の身嗜みを整え、普段は絶対に撫で付けたりはしない髪にもう一度櫛を入れた。そうやって気を引き締めて最終チェックを行うと、イギリスは満足そうに腕組みをして一人、頷いた。
うん、完璧だ。
こうして迎えられた本日のゲストは、ロシアだった。
何故こういうことになったのかはもうあまり覚えてはいないが、とにもかくにもイギリスはロシアを正式に茶会に招待する羽目になり、現在に到る。
約束の時間五分前に、表通りに黒塗りの車が横付けされた。むろん、イギリスの指示でヒースロー空港まで出迎えにやったものだ。専用機で来るというのを、今回は私的な用事だからと旅客機で来るよう薦めた結果、ロシアは用意したファーストクラスに大人しく落ち着いてくれたようだ。
今日はなるべく仕事の話はしたくはない。国自身が他国に対して茶会を開きホストとして迎え入れるとなれば、女王を含め上司達にいらない気を使わせてしまう。ここは内心はどうあれ名目上は友人を招待する気軽なものとしなければ、いろいろ口煩く言われてしまうに違いない。それに体外的に言い訳も立つと考えた末だった。
「お招き有難う、イギリス君」
エントランスでにこやかにそう挨拶をして寄こす長身の男を見上げながら、イギリスもまた薄っぺらな笑みを浮かべて型通りの挨拶を返した。
「遠路はるばる、ようこそ我が家へ」
「ははは、なんだか堅苦しくて肩が凝りそうだね。いつものイギリス君の方がいいな」
「最初だけだ」
肩をすくめて苦笑しながら、イギリスはそれでも丁寧な手付きでロシアが差し出した土産の品を受取り、彼を奥へと案内した。
薄暗い板張りの廊下を歩いていくと、どこからともなく妖精達が興味津々に近寄ってくる。そして口々にいらっしゃいと囁いていた。ロシアもまたそれに応じるようにどうも、と軽く頭を下げる。
以前ロンドンで行われた連合国会議の時、はじめてそれを目にしたイギリスは驚きのあまり素っ頓狂な声を上げて、その場にいたアメリカや中国に白い目を向けられた。フランスは我関せずで明後日の方向を見ていたが、同じように驚いたに違いない。
まさかアメリカに見えないものがロシアに見えるとは思ってもみなかったのだ。アメリカは正しくイギリスの血を引いている。そんな彼が子供の頃から一度も妖精を目にした事がないというのに、何故ロシアには見えるのだろうと疑問に思ったりもした。だが現実問題、見えるものは見えるのだし、見えないものは見えないのだ。
ロシアに妖精が見えると知った時、ことのほかアメリカの機嫌が悪くなったのには気付いていたが、イギリスにしてみればそれまで散々他国に馬鹿にされていたため嬉しさが勝っていた。ついつい妖精話に花を咲かせてしまい、結果その後の会議はまともに進まなかった記憶がある。
淡い光がきらきらと零れ落ちる中、二人はイギリス自慢の薔薇園が望めるサンルームへと入って行った。
「誰もいないの?」
「あぁ、今日は全ての予定をキャンセルしてある」
「そうなんだ」
嬉しそうににこりと笑うロシアを、部屋の一番日当たりの好い席へと誘導し、腰を落ち着けたのを見届けてから自身もテーブルの向かいに回った。
ちらりと見遣ると、眼前に置かれた色とりどりの茶器や菓子に目を丸くしながら、蒼白い頬にうっすらと血の気をのぼらせている。その姿は、彼が相当に喜んでいる証拠だった。常ならば冷たさを思わせるアイスブルーの瞳がいつになく柔らかい。
イギリスはさっそく紅茶を淹れる準備をし始めた。
「マナーはあるの?」
「当たり前だ。ティースタンドの下から順に食べていくのが正式だな」
「サンドイッチから?」
「そう。それからスコーン、ケーキという風に。今回はケーキじゃなくショートブレットにしたけどな」
「美味しそうだね」
そう言ってこちらが紅茶を淹れ終るのを大人しく待つロシアが、あまりにも自然体で警戒心がないことに気付き、イギリスは少々戸惑った。
彼は何時でもどんな時でも、えもいわれぬ威圧感を漂わせている。誰も近づけない、誰にも気を許さない、とても張り詰めた空気を持っている。
それでいてどこかひどく寂しげで……硝子のような透明感を感じさせる独特な雰囲気は危うさと純粋さを感じさせて時々目を奪われた。
いつも仮面のように無機質な笑みを張り付かせ、口を開けば柔和な態度とは裏腹な残虐性を滲ませる。それなのに時折見せる幼い言動の数々。だがイギリスは実のところ、そんな彼が嫌いではなかった。
国と国、国益を巡っての関係は決して良好とは言えない。むしろ険悪といっても過言ではないだろう。クリミア戦争を頂点に二国間は憎み合って来たのだ。文化や主義の違いもそうだが、もっと根本的なところから自分とロシアは分かり合えないと思っている。
それでも、どこか共感を覚える部分も確かにあった。
ティーコテージをかぶせてきっちり三分後、イギリスは暖めたミルクをカップに注ぎ、その上から琥珀色の液体を静かに流し入れた。
優しい香りが立ちのぼる。
「どうぞ」
手前から美しく弧を描くように半回転させて、ロシアの前に置く。波打つ柔らかい色合いのミルクティ。
「ありがとう、イギリスくん」
ふわ、っと真綿のような新雪を思わせる笑顔が惜しげもなく向けられて、柄にもなくイギリスは赤くなって目線を逸らせた。
美味しそうに唇に運ぶ姿を視界の端に捉えながら、ふと彼は気付いたようにあ、と声を漏らす。咄嗟に口元を押さえたが、紅茶を飲んでいたロシアが不思議そうに小首をかしげた。
「なに?」
「いや……」
「気になるじゃない。言ってよ」
「あー…悪い。あんま口煩く言いたくないんだが……お前、茶の席くらいはマフラー取れよ」
客のマナー違反は基本的にホストが咎めるものではない。よっぽど親しい間柄ならいざ知らず、いちいち指摘してしまうのは逆に礼を失する。
それにロシアがどんな時でもマフラーを外さない事などわかりきっていると言うのに、ついつい口にしてしまった事をイギリスは激しく後悔した。
アメリカにもしょっちゅう言われているというのに、お節介気質が本当に抜けないで困る。
「取らなきゃ駄目? マナーなの?」
「別にどうしても嫌ならいい。強制するつもりはないからな」
「マナー違反?」
「……あぁ」
重ねて問われて渋々頷くと、カップを置いてしばらくロシアは考え込んだ。
客に無理強いをするのは本意ではないので、イギリスは慌てて付け加える。
「理由があるんだろ? ずっとしているもんな……悪い。気にせず続けてくれ」
「分かった」
こくんとひとつ頷くと、ほっとするイギリスの目の前でロシアはおもむろにマフラーに手をかけた。思わず目を見張っていると、躊躇いなくするりとほどかれる。
「これでいい?」
「……え、あ、あぁ……」
「イギリスくんのお茶は本当に美味しいね。これなら寒くならずに済むよ」
言いながら外したマフラーを膝に置いて、ロシアは再び紅茶に口をつけた。普段は絶対に目にすることのないその白い喉が、ゆっくりと上下に動くのが見える。
「いいのか?」
「うん。マナー違反なんでしょ? ただでさえ田舎者だって馬鹿にされちゃうんだもの、ちゃんとしないとね」
ニコニコと笑いながら、ねぇ、サンドイッチをもらってもいいかな、と続けて問い掛けてくる彼に曖昧に頷き返した。長い指が高級ホテルお手製のそれを掴み、ゆっくりと運ばれていくのをぼんやりと見つめる。
「ねぇ、イギリスくん」
「……なんだ?」
「そうやってじろじろ見るのって、マナー違反じゃないの?」
「え、あ……そうだな。済まない」
「もう。どうしたって言うの? なんだか今日の君は何時にもましてすっごく変だよ?」
言われなくとも分かっている。どうも今日は調子が来るって仕方がない。それもこれも素直すぎるロシアが悪いのだ、と勝手に責任転嫁をしながら、イギリスは曖昧に笑って自分もサンドイッチに手を伸ばした。
レースで縁取りをしたテーブルクロスを掛け、手編みのドイリーを敷いてその上にウェッジウッドのジャスパーペールブルーの花瓶を置き、朝摘みの薔薇を丁寧に生けた。
続いて茶器を運ぶ。今日はゲストのリクエスト通りにミントンのハドンホールを用意した。いつもなら女王陛下に賜ったお気に入りのコッパーコレクションを出すところだが、相手は華やかな方が好きだと言っていたので急遽こちらに変更だ。
確かに今日のように天気の良い、明るい日差しの中で庭を眺めるのならば鮮やかな花柄の方が心地良いだろう。
茶葉はミルクティーに最適なハロッズのアッサムと、気分転換用にフォートナムメイソンのクィーンアンをあけた。ついでにモレロチェリーのフルーツインリカーも用意したので、彼の国の飲み方も踏襲出来るだろう。ウォッカではなくコニャックだが、酒好きな彼ならば気に入ってくれるに違いない。
お茶請けは開店と同時に買い求めたベノアの焼き立てスコーンとチョコレート風味のショートブレッドにした。もちろんフレッシュなクロテッドクリームと野いちごのジャムも忘れずに。
本当は手作りの菓子でもてなしたかったが、悔しいが他国に指摘されるまでもなく味に保障が持てない事など百も承知している。万が一失敗でもしたら取り返しがつかないと思い、あらかじめ前日に予約を入れておいたのだ。
サンドウィッチには無理を言ってリッツのローストビーフを取り寄せた。国賓どころか国そのものを招待するのだから、当然贅沢には当らないだろう。
完璧なブリティッシュスタイルでのアフタヌーンティーを。そう約束したからには少しの妥協も許されない。どんなに気に食わない相手だろうと、粗相をしてはこの国の沽券にも関わる。
姿見で自身の身嗜みを整え、普段は絶対に撫で付けたりはしない髪にもう一度櫛を入れた。そうやって気を引き締めて最終チェックを行うと、イギリスは満足そうに腕組みをして一人、頷いた。
うん、完璧だ。
こうして迎えられた本日のゲストは、ロシアだった。
何故こういうことになったのかはもうあまり覚えてはいないが、とにもかくにもイギリスはロシアを正式に茶会に招待する羽目になり、現在に到る。
約束の時間五分前に、表通りに黒塗りの車が横付けされた。むろん、イギリスの指示でヒースロー空港まで出迎えにやったものだ。専用機で来るというのを、今回は私的な用事だからと旅客機で来るよう薦めた結果、ロシアは用意したファーストクラスに大人しく落ち着いてくれたようだ。
今日はなるべく仕事の話はしたくはない。国自身が他国に対して茶会を開きホストとして迎え入れるとなれば、女王を含め上司達にいらない気を使わせてしまう。ここは内心はどうあれ名目上は友人を招待する気軽なものとしなければ、いろいろ口煩く言われてしまうに違いない。それに体外的に言い訳も立つと考えた末だった。
「お招き有難う、イギリス君」
エントランスでにこやかにそう挨拶をして寄こす長身の男を見上げながら、イギリスもまた薄っぺらな笑みを浮かべて型通りの挨拶を返した。
「遠路はるばる、ようこそ我が家へ」
「ははは、なんだか堅苦しくて肩が凝りそうだね。いつものイギリス君の方がいいな」
「最初だけだ」
肩をすくめて苦笑しながら、イギリスはそれでも丁寧な手付きでロシアが差し出した土産の品を受取り、彼を奥へと案内した。
薄暗い板張りの廊下を歩いていくと、どこからともなく妖精達が興味津々に近寄ってくる。そして口々にいらっしゃいと囁いていた。ロシアもまたそれに応じるようにどうも、と軽く頭を下げる。
以前ロンドンで行われた連合国会議の時、はじめてそれを目にしたイギリスは驚きのあまり素っ頓狂な声を上げて、その場にいたアメリカや中国に白い目を向けられた。フランスは我関せずで明後日の方向を見ていたが、同じように驚いたに違いない。
まさかアメリカに見えないものがロシアに見えるとは思ってもみなかったのだ。アメリカは正しくイギリスの血を引いている。そんな彼が子供の頃から一度も妖精を目にした事がないというのに、何故ロシアには見えるのだろうと疑問に思ったりもした。だが現実問題、見えるものは見えるのだし、見えないものは見えないのだ。
ロシアに妖精が見えると知った時、ことのほかアメリカの機嫌が悪くなったのには気付いていたが、イギリスにしてみればそれまで散々他国に馬鹿にされていたため嬉しさが勝っていた。ついつい妖精話に花を咲かせてしまい、結果その後の会議はまともに進まなかった記憶がある。
淡い光がきらきらと零れ落ちる中、二人はイギリス自慢の薔薇園が望めるサンルームへと入って行った。
「誰もいないの?」
「あぁ、今日は全ての予定をキャンセルしてある」
「そうなんだ」
嬉しそうににこりと笑うロシアを、部屋の一番日当たりの好い席へと誘導し、腰を落ち着けたのを見届けてから自身もテーブルの向かいに回った。
ちらりと見遣ると、眼前に置かれた色とりどりの茶器や菓子に目を丸くしながら、蒼白い頬にうっすらと血の気をのぼらせている。その姿は、彼が相当に喜んでいる証拠だった。常ならば冷たさを思わせるアイスブルーの瞳がいつになく柔らかい。
イギリスはさっそく紅茶を淹れる準備をし始めた。
「マナーはあるの?」
「当たり前だ。ティースタンドの下から順に食べていくのが正式だな」
「サンドイッチから?」
「そう。それからスコーン、ケーキという風に。今回はケーキじゃなくショートブレットにしたけどな」
「美味しそうだね」
そう言ってこちらが紅茶を淹れ終るのを大人しく待つロシアが、あまりにも自然体で警戒心がないことに気付き、イギリスは少々戸惑った。
彼は何時でもどんな時でも、えもいわれぬ威圧感を漂わせている。誰も近づけない、誰にも気を許さない、とても張り詰めた空気を持っている。
それでいてどこかひどく寂しげで……硝子のような透明感を感じさせる独特な雰囲気は危うさと純粋さを感じさせて時々目を奪われた。
いつも仮面のように無機質な笑みを張り付かせ、口を開けば柔和な態度とは裏腹な残虐性を滲ませる。それなのに時折見せる幼い言動の数々。だがイギリスは実のところ、そんな彼が嫌いではなかった。
国と国、国益を巡っての関係は決して良好とは言えない。むしろ険悪といっても過言ではないだろう。クリミア戦争を頂点に二国間は憎み合って来たのだ。文化や主義の違いもそうだが、もっと根本的なところから自分とロシアは分かり合えないと思っている。
それでも、どこか共感を覚える部分も確かにあった。
ティーコテージをかぶせてきっちり三分後、イギリスは暖めたミルクをカップに注ぎ、その上から琥珀色の液体を静かに流し入れた。
優しい香りが立ちのぼる。
「どうぞ」
手前から美しく弧を描くように半回転させて、ロシアの前に置く。波打つ柔らかい色合いのミルクティ。
「ありがとう、イギリスくん」
ふわ、っと真綿のような新雪を思わせる笑顔が惜しげもなく向けられて、柄にもなくイギリスは赤くなって目線を逸らせた。
美味しそうに唇に運ぶ姿を視界の端に捉えながら、ふと彼は気付いたようにあ、と声を漏らす。咄嗟に口元を押さえたが、紅茶を飲んでいたロシアが不思議そうに小首をかしげた。
「なに?」
「いや……」
「気になるじゃない。言ってよ」
「あー…悪い。あんま口煩く言いたくないんだが……お前、茶の席くらいはマフラー取れよ」
客のマナー違反は基本的にホストが咎めるものではない。よっぽど親しい間柄ならいざ知らず、いちいち指摘してしまうのは逆に礼を失する。
それにロシアがどんな時でもマフラーを外さない事などわかりきっていると言うのに、ついつい口にしてしまった事をイギリスは激しく後悔した。
アメリカにもしょっちゅう言われているというのに、お節介気質が本当に抜けないで困る。
「取らなきゃ駄目? マナーなの?」
「別にどうしても嫌ならいい。強制するつもりはないからな」
「マナー違反?」
「……あぁ」
重ねて問われて渋々頷くと、カップを置いてしばらくロシアは考え込んだ。
客に無理強いをするのは本意ではないので、イギリスは慌てて付け加える。
「理由があるんだろ? ずっとしているもんな……悪い。気にせず続けてくれ」
「分かった」
こくんとひとつ頷くと、ほっとするイギリスの目の前でロシアはおもむろにマフラーに手をかけた。思わず目を見張っていると、躊躇いなくするりとほどかれる。
「これでいい?」
「……え、あ、あぁ……」
「イギリスくんのお茶は本当に美味しいね。これなら寒くならずに済むよ」
言いながら外したマフラーを膝に置いて、ロシアは再び紅茶に口をつけた。普段は絶対に目にすることのないその白い喉が、ゆっくりと上下に動くのが見える。
「いいのか?」
「うん。マナー違反なんでしょ? ただでさえ田舎者だって馬鹿にされちゃうんだもの、ちゃんとしないとね」
ニコニコと笑いながら、ねぇ、サンドイッチをもらってもいいかな、と続けて問い掛けてくる彼に曖昧に頷き返した。長い指が高級ホテルお手製のそれを掴み、ゆっくりと運ばれていくのをぼんやりと見つめる。
「ねぇ、イギリスくん」
「……なんだ?」
「そうやってじろじろ見るのって、マナー違反じゃないの?」
「え、あ……そうだな。済まない」
「もう。どうしたって言うの? なんだか今日の君は何時にもましてすっごく変だよ?」
言われなくとも分かっている。どうも今日は調子が来るって仕方がない。それもこれも素直すぎるロシアが悪いのだ、と勝手に責任転嫁をしながら、イギリスは曖昧に笑って自分もサンドイッチに手を伸ばした。
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