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 紅茶をどうぞ
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[お題] 水面に広がる波紋のように
 抜けるように高い空には雲ひとつなかった。

 しばらくぶりに会うアメリカは幼さの残る顔をしながらも、精悍と呼んで間違いのない体躯を持て余すように所在無げにその場に佇んでいた。イギリスがいろいろと過去に捨ててきたありとあらゆるもの、若々しく希望に満ち溢れた瑞々しさを内包させている。
 眩しい、と思った。

「待たせたな」
「イギリス!」

 厚手の絨毯に足音を吸いこませながら、イギリスは慣れないドレスシャツを窮屈そうに着こなしたアメリカの傍へと歩み寄る。身長はとうに抜かれており、屈まなければ合わなかった目線はいつしか見上げなければならなくなっていた。

「遅くなって悪かった」
「いいよ。仕事はもう終わったのかい?」

 トン、と軽い足取りですぐに隣に並んだアメリカは、気易く肩に触れようとしてくる。未だ堅苦しい場が苦手なのかすぐに会見用に取り繕うイギリスの空気を払拭させたがるのだ。こういう少々我儘なところは成長しても変わらないらしい。

「さっきマフラーをした背の高い白い男が出て行くのが見えた。あれ、ロシアだよね。来客って彼のこと?」
「あぁ。……この先とんでもない化け物になるぞ、あいつは」
「化け物って、イギリスは大げさだなぁ。彼も国だろう?」
「なんでも飲み込もうとする、貪欲で肥大した、手のつけられない恐ろしい魔物になる」

 だから今のうちに叩いておきたい。
 歯ぎしりしそうなイギリスの横顔を物珍しい様子で見つめるアメリカは、さきほどエントランスから馬車に乗り込む姿を見た時に感じた、薄ら寒いような、形容しがたいあの感覚は一体何だったんだろうと疑問に思う。
 まさかイギリスの言うような化け物の気配でもあるまいに。

「いいか、アメリカ。絶対にあいつには近づくな。禍にしかならないぞ」
「そんなこと、会ってみないと分からないじゃないか」

 俺はもう君の弟じゃないんだから過保護はやめてくれよ、と放った辛辣な言葉に面食らったようにイギリスの眼差しが揺れる。けれどそれ以上は何も言わず、小さく頷いて隣室に促す背中は凛としていて歪みの一つも見付けられなかった。


 Great Game [ 断片1 ]
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