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 紅茶をどうぞ
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[祭] A slow day 2
「へぇ。やっぱすげーな」

 室内に入るなりイギリスは楽しそうな声を上げた。
 予約の都合上、部屋は最上階のスイートとはいかず、目を見張るような豪華なものではなかったが、きちんとハーバービュールームで大きく切り取られた二つの窓からはディズニーシーが一望出来る。
 室内も全体的に可愛らしいデザインになっており、壁にかけられた絵画からバスアイテム、鏡の縁にいたるまでディズニー柄で溢れていた。

「あ、ティンカーベルだ」
「君は本当に妖精が大好きだよね」

 目敏くピーターパンのキャラクターを見つけたイギリスに、アメリカがからかいまじりにそう言えば、ある意味言われ慣れているイギリスは真面目な顔で「あいつらは俺が幼い時からずっと傍にいてくれたからな」、と意に介した風もなく答えた。
 ……ちょっと面白くない。
 イギリスが昔からおかしな幻を見ていることは知っているが、まるでなんでもない日常の一コマみたいに簡単に片付けられては、こちらとしても反応に困ってしまう。アメリカには理解出来ない、見えもしない世界の話などにイギリスを取られてしまうわけにはいかないのだ。
 それに彼の幼少時代の話をされるのも嫌いだった。どう頑張っても努力しても自分たちは過去には戻れない。イギリスのつらい子供時代の話を耳にするたび、どれだけ歯痒い思いをしてきたことか。
 アメリカには小さな彼を慰めに行くことも抱き締めて守ってあげることも出来やしない。しょうがないこととはいえ、それがひどく悔しく感じられてならなかった。

「そんなことよりシャンパンでもあけよう」

 気持ちを切り替えるように、あらかじめルームサービスで頼んでおいた瓶を手にすれば、酒好きのイギリスはすぐに意識をこちらに向けて破顔する。
 そしてラベルを覗き込んで銘柄を確かめると、ここぞとばかりにいろいろと解説し出したが、アメリカはあまり詳しくないし興味もないので曖昧に頷くだけにとどめた。

「ええとグラスはどこだったかな」
「こら、人の話はちゃんと聞けよ」
「やだよ。君の話は長いからね。俺は説明よりも早く飲みたい」
「お前なぁ」

 呆れた声を背にシャンパングラスを棚から取り出し、窓際のテーブルにふたつ並べる。眩しいくらいのイルミネーションを眼下に見下ろしながらグラスに黄金色の液体を注いでいけば、夢の国の夜らしくキラキラと泡がたってとても綺麗だ。
 うん、ちょっとロマンチックな気分になって来たんじゃないかな。
 アメリカは機嫌良く笑顔のままイギリスに座るよう言って、自分もその向かいに腰をおろした。

「さぁ、乾杯しよう」
「…………」
「イギリス?」

 ふと黙り込んで反応のないイギリスに訝しげに声を掛けても、彼は差し出されたグラスをじっと見つめたまま動かない。
 もう一度名前を呼べば、イギリスはどこかためらう素振りを見せたのち大きく息をついて手を差し出した。

「どうしたんだい?」
「……アメリカ、その」
「具合でも悪い?」
「そうじゃなくて」

 急にしろどもどろなイギリスからは、別に不機嫌な様子は感じられなかった。むろん気分が悪い様子でもない。
 どうしたものかと首を傾げていれば、彼はまるで意を決したかのように落としていた視線をまっすぐアメリカの顔へと向けてくる。

「アメリカ!」
「な、なんだい……?」
「誕生日、おめでとう……!」

 掠れた声でそう言って、イギリスはグラスを丁寧な動きでカチンと触れ合わせてきた。
 突然の事に茫然としたアメリカは、いったい何が起きたのだろうかと瞬きするのも忘れて目の前の人物をただ見つめる。
 7月4日当日でさえ言ってくれなかった祝いの言葉。まさかこんな場所で聞けるだなんて思ってもみなかった。

「イギリス……?」
「か、勘違いするなよ! 今日はお前の誕生日プレゼントでここに来ているから……その礼はちゃんとしとかないといけないし……それに……」
「……それに?」
「俺、お前の誕生日はすごく、嬉しい、から」

 これは天変地異の前触れ?
 それとも明日地球がなくなってしまうとか?
 まさかこんなにも幸せな言葉が連続で聞けるなんて。

 思わぬ事態に混乱しきったアメリカが何も言えずにいると、イギリスはどこかはにかんだような笑みを浮かべてそのまま続ける。

「お前が生まれて来てくれたのは本当に嬉しい。神様に感謝している。お前に会えて、お前と過ごせて、こうやって今も一緒にいられるのは、お前がこの世に生まれて来てくれたからだ。……独立の、あの日を誕生日にされたのは心底ムカついたし今でも許せない気持ちは残っている。でも、俺はお前が生まれて来てくれたことは祝福したい」
「…………」
「おめでとう、アメリカ」

 そう一息で言いきって、くそぅ恥ずかしすぎる……と顔を真っ赤に染めて俯くイギリスに、どう声を掛けていいか分からずアメリカは両目を見開いたまま、馬鹿みたいに口をぽかんと開けていた。
 それからゆっくりと贈られた言葉を噛み締めるようにして唇を閉ざすと、じわりと視界が滲むのを感じて慌てて目元をこする。
 あぁもう、泣きそうだ。

「君は本当に素直じゃないね」
「うるせぇ! 俺は……!」
「イギリス」

 グラスを置いて立ち上がると、アメリカはゆっくりとテーブルを回って彼のすぐ傍に立つ。何事かとこちらを見上げるイギリスの手から同じようにシャンパングラスを取り上げてテーブルに置くと、そっと屈んで瞬きを繰り返す鼻先に優しく口吻けた。
 それから床に膝をついて下からイギリスの顔を覗き込むと、彼の動揺した眼差しを受け止めてにこりと笑う。

「な、なんだ、よ」
「今日は君に渡したい物があるんだ」
「え? だって、お前の誕生日祝いなのにか?」
「去年はじめて君が俺の誕生日を祝ってくれてから、ずっと考えていたんだ。来年は伝えられるかなって。ずっとずっと言えずにいたけれど、そろそろ言ってもいいかなって、この一年考えていたんだよ」

 本当はもっともっと気分を盛り上げて、それこそベタベタに甘い雰囲気の中、ベットの上でキスをしながら囁くように言いたかったのに。
 今、伝えるべきだと思った。イギリスが自分の気持ちを届けてくれた、まさにこの瞬間に。

 ズボンの後ろポケットに忍ばせていたのはプラチナの指輪。
 ありきたりすぎて笑われるかもしれないけれど、これ以外は思い浮かばなかった。
 取り出して無言のままイギリスの左手の薬指に嵌めてみれば、こっそり計っていたお陰で、まるで最初からそこにあるかのようにぴったりとおさまる。

「……アメ、リカ……?」

 なんだよこれは。
 そう呟いたイギリスの茫然とした顔は、たぶん一生忘れられないだろう。

「結婚しよう、イギリス!」

 ずっとずっと言いたかった一言。
 この言葉を口にする日をもう長いこと待ち続けていた。
 下らないと一蹴されないように、ありとあらゆる自信をつけてからヒーローらしく告白しようと決めていた。
 イギリスに出会ったのも、イギリスと過ごしたのも、イギリスを泣かせたのも、それは全部イギリスを幸せにするために通ってきた道だ。たくさんの思い出を乗り越えて自分たちは今ここにいるんだと彼に伝えたい。

「愛しているよ。君もそうだろう? だから俺達、結婚しよう」
「……国同士で結婚出来るか、馬鹿ぁ……」

 予想通り、イギリスは大泣きした。
 涙腺の弱い彼のことだからきっと泣くだろうとは思っていたけれど、本当、泣き顔は不細工なんだから。
 それでもイギリスは指輪を取らず、右手で包み込むようにしてぎゅっと握り締めていた。もう二度と離さないとでも言うかのように、強く、強く。

「神様に誓えばいいだろう? 正式な書類は要らない、役所に届けなくたっていい。別に誰に認めてもらわなくても、俺達がいて、神様の前で誓えばそれでいいじゃないか」
「アメ、リカ」
「返事は? もちろんYES以外は認めないよ!」

 だって君、俺のことめちゃくちゃ愛しているだろう?
 そう勝ち誇ったように笑ってアメリカが手の甲に唇を落とせば、呼応するかのようにイギリスは涙で滲んだ眼差しを伏せ、両腕を伸ばして抱きついてきた。
 そして誓いのキスをするのはお約束。
 まるでそれを待っていたかのようにタイミングよく花火が打ちあがり、窓の外をいろとりどりに染めたのは、日頃の行いが良かったからに違いない。



* * * * *



 後日、日本に誕生日プレゼントの礼を言えば、彼は実に意味深な笑みを浮かべながら「お幸せに」と目元を染めて俯いてしまった。
 一瞬あの部屋に盗聴器でも仕掛けられていたのかと怪しんだが、すぐにその謎は解ける。

「これで俺のアメリカに誰も色目なんて使えないだろ」

 そう言って見せびらかすように左手の薬指をひらめかせる彼を見て、普段はあんなに恥ずかしがり屋なのに、なんでこんな時ばかり堂々と吹聴して回るんだと呆れるやら照れるやら。
 あぁもういい加減にして欲しい。真っ赤な顔をして立ち尽くすヒーローなんて実に格好悪いじゃないか。

 でも久々に見る心底幸せそうなイギリスの笑顔は、遠い記憶のものとは少し違っていて、今度こそ本当に自分達は手に入れたんだと思った。
 あの日、願い続けては諦めかけていた二人の行く末。
 掴み損ねていた未来を。



 ▼ 私信

>>あきえ様
このたびは素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
米誕祭だというのに季節はすでに秋真っ盛り…。すっかりupが遅くなってしまって申し訳ありませんでした。

「ディズニーリゾートでプロポーズ」ということでしたが、最初はシンデレラ城で結婚式でも挙げる話を書こうかと思っていたのですが、それだと「プロポーズ」にならないと思い、なんだか適当にデートしたのち、盛り上がった勢いで若さに任せてアメリカが言っちゃえばいいかな、に変更しました。
私の中の米英はわりと世間でいうところのテンプレカップルなので、どんなにベタなシチュエーションでも恥ずかしがらずにこなせちゃうイメージです。
いっそシャンパングラスに指輪を入れるくらいのことはしようかなぁと思っていましたが、それは米英の二人は良くても書いている私の方が恥ずかしくてやめました。充分、今回の話だけでも恥ずかしいので…(笑)
でもアメリカとイギリスにはめいっぱい幸せになってもらいたいので、これからも甘い話ばかり書いてしまいそうです。

それではこのたびは米誕祭へのご参加、本当にどうもありがとうございましたv

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