紅茶をどうぞ
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Memories - 夏祭編 -
7/26 18:25
世界会議終了後、日本君がイギリス君に夏期休暇の予定を聞いていたのがきっかけだった。
夏祭り、というものが彼のうちにはあるらしい。
「よろしければご一緒しませんか?」、と問われればイギリス君は目を見開いて頬を染めて、すごく嬉しそうに「行く!」と身を乗り出した。
彼が日本君の誘いを断ることなんてそうそうない。
それと同時にすぐ背後にいたアメリカ君が「特別に俺も行ってあげるんだぞ!」と言ってイギリス君の背中に抱きつけば、いつもは仲が悪いくせにその時ばかりは本当の兄弟みたいな態度を取るものだから、イギリス君はびっくりした顔をしながらも感極まったみたいに両目を潤ませていた。
確かにアメリカ君からそんなふうに言ってもらえることってあまりないものね。嬉しくなるのも分かる、それはしょうがないと思うよ。
でもこっちにしてみれば面白くないものは面白くないものだから、僕も負けじと「えーじゃあ僕も行くよ」と割って入ろうとしたら、空気を読んだ日本君、「揉めないで下さいね」とすかさず釘を刺して来た。
結局、僕とアメリカ君はその夏祭りなる行事への参加権を巡って対立することになりかけたんだけど、よくよく話を聞けばペアチケットが二枚らしい。
四人で行けるならまぁいいかと思っていたら、今度は部屋割でアメリカ君が「可哀相なイギリスと一緒の部屋になるのは、ヒーローである俺の役目だよね!」と自分勝手な自己主張を展開してきた。もちろんその程度のことはすでに想定の範囲内。
でも不思議なことに何故かあっさりとイギリス君は僕と同室がいいと言ってくれたんだよね。
あのイギリス君が、あのアメリカ君を振るなんてすごい。
アメリカ君はもちろんのこと、当事者である僕だってびっくりして目を丸くしていれば、日本君は最初からそうなることが分かっていたみたいに「ロシアさんの丈に合わせた浴衣、ちゃんと用意してありますからね。特注なんですよ」なんて呑気に言った。
そういうわけで、不満全開のアメリカ君を日本君に押しつける形で(暗黙の了解ともいう)、僕とイギリス君は日本君の家の高級旅館の招待券を握りしめて、お祭りがおこなわれるという地へ旅立つことになったんだ。
8/23 13:10
当日。
僕とイギリス君とアメリカ君は、日本君の運転する車で空港からお祭りが行われる場所まで移動することになった。
途中、機内食だけじゃ足りなかったアメリカ君のリクエストでマクドナルドでジャンクフードを買えば、見ているだけで胸やけを起こし掛けたイギリス君はペットボトルのお茶をあおりながら、不機嫌そうに眉を顰めてそっぽを向いてしまった。
欠食児童さながらの勢いはいつ見てもすごいよね。日本君も窓を開けて車内の空気を入れ替えるのに余念がないし、本当にアメリカ君てなんて傍迷惑な存在なんだろうと思ったけれど、言い争う気はなかったので僕も大人しく黙っていた。
だって彼と会話をするなんて面倒臭いし。
8/23 15:30
そうこうしているうちに目的地に到着。
着物姿の美人なお姉さん(若女将って呼ばれてた)の丁寧な挨拶とともに、僕らはちょっと目を見張るくらい豪華な旅館の中へと案内された。
通された部屋に入ればそこは随分と贅沢なつくりになっていて、普通に一部屋四人入っても大丈夫なんじゃないかと思わせるくらいの広さだった。
アメリカ君もすぐにそのことに気づいたらしく、「今日はみんなでこっちの部屋に泊まろうよ!」などと言い出したけれど、日本君が冷たい声音で「情緒のない人は帰国をおすすめします」と一刀両断したおかげでぴたりと煩い文句は止んだ。
……時々思うけど、日本君ってちょっと怖いところあるよね。とくにアメリカ君に対して。日頃の欝憤は定期的に発散させないと大変なことになるっていういい見本のような気がするよ。
まぁ僕としては邪魔なアメリカ君が大人しくなるのは嬉しいから、こういう時は溜飲が下がるって言うのかな。それなりに気分が良い。
でもあんまり邪険にするときっとイギリス君がすごくすごく悲しむと思うから、いじめる気は一応ないけどね。
まぁそんなふうに部屋に荷物を置いてほっと一息ついていれば、浴衣姿になった日本君がにこにこと上機嫌で僕らの浴衣も持って来てくれた。
旅館の人と一緒に着付けをしはじめ、肌触りのいい布地に袖を通すと蒸し暑いここの夏も少しは涼しく感じられるなぁと思った。
ゆったりと開いた袖口や鎖骨の見える襟元、ゆるく止まる腰紐や足を開くとまくれちゃう裾だとか、とにかくひらひらしていて面白い衣装。
着替え終わったイギリス君は眉間の皺を消してはにかんだ様子で笑っているし、アメリカ君は満面の笑顔で子供みたいにはしゃいでいる。
「外に出る時は背中側にうちわをさすんですよ」と言われて後で試してみようと思った。まぁ「まずはその前にひと風呂浴びましょう」、らしいけど。
8/23 16:15
というわけで、四人揃って露天風呂に移動する。
アメリカ君は目をきらきらさせてまっさきに裸になって飛び込んで行った……と思いきや日本君に鋭く「かけ湯をしなさい!」と呼び止められて慌てて足を止めていた。
うん、日本君。その手にある小刀、いったいどこから持って来たのかな?
まぁそういうのはまるっと無視して、僕はイギリス君と一緒にお湯を浴びたあと広い湯船へと向かった。日本君ちのお風呂は石造りの浴槽にお湯をずっと流し入れていて、みんなで一緒に入るって言うのが面白いよね。うちにもサウナがあるけどこういうのもなんだかいいなぁって思うよ。
イギリス君は酔うと人前で裸になるくせに、こう言う時ばかり前を隠してちょっと恥ずかしそうにしているのが可愛い。
アメリカ君に「いまさらそんなことをしても無駄じゃないか」と笑われているけど、その点は不本意ながら大嫌いなアメリカ君に同意してしまった。
「長湯は身体に悪いですから」と、日本君が声を掛ければ、結構我慢大会になっていた僕らはそそくさと風呂から上がった。正直、お湯の温度が熱くて茹でられてる気分だったな。まぁ気持ちいいんだけどね。
イギリス君はほかほかになりながら顔を赤らめて、日本君が差し出したフルーツ牛乳に口を付けていた。隣でアメリカ君が「腰に手を当てて飲むのが正式なマナーなんだぞ!」と言いながら、物凄い勢いで牛乳を一気飲みしている。
僕もイチゴ牛乳を飲みながら、さっきからずーっと気になっていたので「アメリカ君、お腹ぽよぽよー」と言って腹部をつねってみたら、むっとした彼に思いっきりタックルされた。二人して床に転がってお互いのお腹をつまみ合いしていたら、イギリス君に曖昧な笑顔で「お前ら……仲良すぎだろ……」と呟かれてしまった。実に不本意極まりない。
あ、日本君がカメラを構えていたのは気のせいじゃないよね。
8/23 17:00
日が落ちて、窓の外がぼんやりと陰りはじめた頃。
日本君が「さぁ、お祭りの時間ですよ!」と言って意気揚々と下駄を差し出して来た。
どうやら夕食は外で食べるらしい。旅館の豪華な日本料理を期待していたアメリカ君は、つまらなそうに唇を尖らせていたけれど、日本君は意に介さず「屋台の味を知らないなんてまだまだですね」と意味深な笑みを浮かべていた。
イギリス君が本国から持って来たガイドブックに目を通していたので、後ろから覗いて見てみれば、どうやら屋台というのは「Street stalls」のことらしい。僕の家にも似たようなものがあるけど、ようするに街角なんかで食べ物を売ってるあれのことみたい。それが通りの左右に沢山並んでいる写真が載っていた。
クリスマスマーケットに似た感じなのかな。とにかく美食家な日本君のことだからすごくおいしいに違いない。
ここでちょっと問題発生。
浴衣には下駄、というのが決まりらしいけれど、僕にはどうも合わなかったみたいで、親指の間に紐がくるとそこが擦れて痛かった。慣れていないから歩きにくいし転びそうになるしでさんざん。しょうがないからサンダルを履くことにした。
イギリス君もアメリカ君もうまく履きこなしているのでちょっと悔しかったけれど、最近はお洒落と称してサンダル履きの人も多いらしいので、まぁいいかと気を取り直す。
そんなこんなで出掛けに手間取ってしまったけれど、いつもよりほんのちょっぴりだけ背の高くなった彼らと一緒に、僕ははじめての夜祭へと繰り出した。
8/23 17:45
うわぁ、なんていうか、すごいね!
薄暗くなってきた道の両脇に華やかな明かりが灯されて、それがもうずーっとずーっと長く続いているんだよ。雪洞(ぼんぼり)って言って、紙で作った箱の中に蝋燭が入っているんだって。
淡い光がとっても綺麗。
イギリス君もうわぁって顔をしてしばらくその光景にみとれてた。「妖精たちの明かりみたいだ」って呟いてアメリカ君に突っ込まれていたけれど、僕には分かるよ。彼女たちの羽根の輝きに似てるよね。
アメリカ君はすぐに沿道の屋台に心奪われたみたいで、日本君を振り返りながら「良い匂いがするぞ!」と声を上げた。確かに食べ物の匂いがして、空腹時なので四人ともいつしかふらふらとお店に引き寄せられていった。
まずは日本君おすすめの「タコ焼き」から。
基本的にキリスト教、ユダヤ教、イスラム教文化圏はあまりタコを食べる習慣がない。でも僕とイギリス君はわりとそういうのがいい加減なので、すすめられるまま早速ぱくり。
アメリカ君は変なところで潔癖だから眉を寄せて唸っていたけど、背に腹は代えられないのかぎゅっと目をつぶって一粒、あつあつのタコ焼きを口に入れていた。
その瞬間の彼の顔ったらない。
ぱぁって音がしそうなくらい明るくなって、両目には涙まで浮かんでいたよ。大袈裟だなぁ。
確かにシーフード料理としてこれは結構おいしい部類に入ると思うけど、そこまで感動しなくてもいいのに。でも日本君は自国の料理を褒められて満足気にしているし、イギリス君も思わずくすっと笑ってしまっていた。
まぁ、それなりに可愛いんじゃないの? 納得いかないけどね。
それからしばらくは「焼きそば」「お好み焼き」「じゃがバター」「串焼き」と食事の代わりになるようなものを食べていき、アメリカ君以外もうおなかいっぱい、と思ったところで日本君は小さな器に盛られたデザートを手渡してくれた。
透明な水飴に包まれたフルーツ。「あんず飴」っていうらしい。
割りばしでとろりとしたそれを掬って口に入れれば、甘味と酸味がすごく丁度良く調和していて、その美味しさに思わず「すごーい」と声が出た。
日本君ちの国民って本当に、美味しいものを作る天才って感じだよね。
8/23 18:50
「花火大会は七時からです。特等席にご案内しますね」と、そう言って連れて来られた場所は川沿いの土手だった。
日本君が用意してくれたレジャーシートにみんな並んで座ると、ここに来る途中でイギリス君が購入した「わた飴」を手渡された。
ふわふわでまっしろなそれは、僕にとってはあまりいい印象がしなくて、アメリカ君が「チョコバナナ」と一緒に美味しそうに食べている横で見て見ぬふりをしていたんだよね。
だって、だってさ。このお菓子、どこからどう見ても雪に見えるじゃない。
こんなにあったかくてこんなに気分のいい日に、雪なんて見たくもないし、食べるだなんて冗談じゃないって、そう思っちゃんだ。
けれどそんな僕に気付いたのか、イギリス君は「甘いもの、好きだろ?」なんて言って差し出して来る。しかもとっても優しい目で。
そんな彼の好意を無碍にも出来ずに僕は仕方なしに受け取って、じっと白い塊を見つめた。
アメリカ君が空気を100%読まずに「いらないなら俺が貰おうか?」なんて言うものだから、意地になって「これは僕のだよ」と言い返してふわふわのそれに唇を寄せる。
ぺろ、と舐めてみてびっくり。これ、あったかいよ?
日本君は口元をゆるめながらゆっくりとうちわで扇ぎつつ、「作りたてはほのかに温かいんですよね」と笑う。イギリス君も僕の髪を撫でながら「うまいだろ?」なんて自慢げに胸を逸らす。すぐにアメリカ君に「君の手料理と違ってね!」とからかわれて「うるさいバカぁ!!」とお馴染みの遣り取りをしていたけれど。うん、甘くてあったかくて美味しい。
ありがとう、イギリス君。
8/23 19:00
いよいよ日本の夏の風物詩、花火大会のはじまりはじまりー。
アメリカ君のうちだと特別な日にしか花火は上げられないらしくて、そのせいか彼はわくわくしすぎて身体が前後に揺れ動いていた。落ち着きがないけれど、こういうお祭りの時は楽しんだもの勝ちだもん、その点は僕も分かるよ。
夜空に花開く色とりどりの光の結晶。本当に綺麗だよね。
日本君もイギリス君も上を向いたまま笑顔でとっても楽しそう。つられて見上げる僕もきっとすごく楽しそうに見えるんだろうな。
ドーンというお腹に響く重い音は、戦場で聞いた砲撃の音に似ているけれど、それとはぜんぜん別の幸せの音。今は誰も、苦しくない。
そっとイギリス君の手に自分の手を重ねてみれば、彼は一瞬だけ目を見開いてから極上の笑顔を浮かべて、暗闇にまぎれて僕の頬にキスをしてくれた。
8/23 20:10
花火のあとはまた屋台の通りに戻って、僕らは子供さながらにたくさん遊んだ。
「カタ抜き」に「金魚すくい」、アメリカ君は何度チャレンジしても駄目だったけど、日本君はすっごく上手だった。そのあとの「射的」はイギリス君が百発百中すぎて、青褪めたお店のおじさんに泣かれちゃったよ。
僕はそんな彼らをなんとなく眺めるだけで自分じゃとくに何もしなかった。でも見ているだけで面白かったな。
だってみんな本当に子供みたいで、普段は澄ました顔の日本君も弾けてるし、怒りっぽいイギリス君は笑顔だし、気に食わないアメリカ君もなんだかよく分からないキャラクターもののお面をつけていれば愛嬌あるし、食べ物は美味しいしほんと言うことないよね。
そうやってぽやんとしていれば、「ちょっとこっち来いよ」と腕を引っ張られた。いつの間にか木の陰にいるイギリス君の方へと向かう。すると「ほら」と言って目の前につきつけられたのは玩具のガラスの指輪。
思わず笑って右手を差し出せば、俯いた頬を赤らめてイギリス君は薬指にそれをはめてくれた。お返しに頬にキスを落とせば、「二人してこそこそ何してるんだい!?」とアメリカ君が声を掛けて来る。まったく、空気の読まなさ加減は天下一品だよね。
日本君がさささっと隠したカメラをちらりと横目に、僕らは続いて賑やかな音楽の流れる方へと足を運んだ。
8/23 20:55
じめじめとした熱気も夜になるにつれ落ち着き、闇夜に浮かび上がる祭の灯りに照らされて盆踊り会場に移動すれば、沢山の人たちが輪っかになって踊っているのが見えた。
みんな不思議なポーズで踊っているけど、「こんな感じです」と日本君がお手本でうちわを持った手を上げると、「こ、こうか?」とイギリス君がためらいがちに倣う。その間にもアメリカ君はいつしか勝手に輪の中に入って行って、見ず知らずの人たちと意気投合して盛り上がり始めてしまっていた。順応性高いなぁ。
独特のリズムに合わせて身体を預けながら、僕らは日本の夏を満喫する。
慣れない浴衣も向日葵の絵が描かれたうちわも、青いビニールのサンダルも手にした金魚も、みんなみんな日本君がくれたもの。
だから上機嫌に「大好きだよ!」と言ったら、彼はまるでおじーちゃんが孫を見るような眼差しで微笑して、「喜んで頂けて嬉しいです」と答えた。
8/23 22:30
そのうち散会の時間になると、一人また一人と帰路につき、音楽も止み、明かりも消されていく。
熱気が引いて静寂が満ちて、広場から誰もいなくなるまで僕たちはなんとなく隅っこのベンチに腰掛けて星空を眺めていた。最後だからあげるよと屋台の人が置いて行った生ビールのボトルを足元に、ずっとずっとおしゃべりに興じる。
「お祭りの後って寂しいね」と言ったら「だからこそこの余韻が心地いいんです」と返された。なるほど、奥が深いね。
そして日付が変わろうとする頃に旅館に戻ることにした。眠そうなアメリカ君の手を引いて日本君が部屋に向かい、僕もイギリス君と並んで荷物が置いてある部屋へと歩く。
自然と絡められた指先がいつも以上にあったかいのは、酔っているせいか眠いせいなのか判別は付かなかった。
生きてきた年数も、歩んできた道のりも、見て来た世界も何もかも違う僕らが、一緒に体験した夏の時間。
今日は楽しかったよ、おやすみなさい!
8/24 01:00
……えーと。
なんでイギリス君、僕の上に乗ってるのかなぁ?
世界会議終了後、日本君がイギリス君に夏期休暇の予定を聞いていたのがきっかけだった。
夏祭り、というものが彼のうちにはあるらしい。
「よろしければご一緒しませんか?」、と問われればイギリス君は目を見開いて頬を染めて、すごく嬉しそうに「行く!」と身を乗り出した。
彼が日本君の誘いを断ることなんてそうそうない。
それと同時にすぐ背後にいたアメリカ君が「特別に俺も行ってあげるんだぞ!」と言ってイギリス君の背中に抱きつけば、いつもは仲が悪いくせにその時ばかりは本当の兄弟みたいな態度を取るものだから、イギリス君はびっくりした顔をしながらも感極まったみたいに両目を潤ませていた。
確かにアメリカ君からそんなふうに言ってもらえることってあまりないものね。嬉しくなるのも分かる、それはしょうがないと思うよ。
でもこっちにしてみれば面白くないものは面白くないものだから、僕も負けじと「えーじゃあ僕も行くよ」と割って入ろうとしたら、空気を読んだ日本君、「揉めないで下さいね」とすかさず釘を刺して来た。
結局、僕とアメリカ君はその夏祭りなる行事への参加権を巡って対立することになりかけたんだけど、よくよく話を聞けばペアチケットが二枚らしい。
四人で行けるならまぁいいかと思っていたら、今度は部屋割でアメリカ君が「可哀相なイギリスと一緒の部屋になるのは、ヒーローである俺の役目だよね!」と自分勝手な自己主張を展開してきた。もちろんその程度のことはすでに想定の範囲内。
でも不思議なことに何故かあっさりとイギリス君は僕と同室がいいと言ってくれたんだよね。
あのイギリス君が、あのアメリカ君を振るなんてすごい。
アメリカ君はもちろんのこと、当事者である僕だってびっくりして目を丸くしていれば、日本君は最初からそうなることが分かっていたみたいに「ロシアさんの丈に合わせた浴衣、ちゃんと用意してありますからね。特注なんですよ」なんて呑気に言った。
そういうわけで、不満全開のアメリカ君を日本君に押しつける形で(暗黙の了解ともいう)、僕とイギリス君は日本君の家の高級旅館の招待券を握りしめて、お祭りがおこなわれるという地へ旅立つことになったんだ。
8/23 13:10
当日。
僕とイギリス君とアメリカ君は、日本君の運転する車で空港からお祭りが行われる場所まで移動することになった。
途中、機内食だけじゃ足りなかったアメリカ君のリクエストでマクドナルドでジャンクフードを買えば、見ているだけで胸やけを起こし掛けたイギリス君はペットボトルのお茶をあおりながら、不機嫌そうに眉を顰めてそっぽを向いてしまった。
欠食児童さながらの勢いはいつ見てもすごいよね。日本君も窓を開けて車内の空気を入れ替えるのに余念がないし、本当にアメリカ君てなんて傍迷惑な存在なんだろうと思ったけれど、言い争う気はなかったので僕も大人しく黙っていた。
だって彼と会話をするなんて面倒臭いし。
8/23 15:30
そうこうしているうちに目的地に到着。
着物姿の美人なお姉さん(若女将って呼ばれてた)の丁寧な挨拶とともに、僕らはちょっと目を見張るくらい豪華な旅館の中へと案内された。
通された部屋に入ればそこは随分と贅沢なつくりになっていて、普通に一部屋四人入っても大丈夫なんじゃないかと思わせるくらいの広さだった。
アメリカ君もすぐにそのことに気づいたらしく、「今日はみんなでこっちの部屋に泊まろうよ!」などと言い出したけれど、日本君が冷たい声音で「情緒のない人は帰国をおすすめします」と一刀両断したおかげでぴたりと煩い文句は止んだ。
……時々思うけど、日本君ってちょっと怖いところあるよね。とくにアメリカ君に対して。日頃の欝憤は定期的に発散させないと大変なことになるっていういい見本のような気がするよ。
まぁ僕としては邪魔なアメリカ君が大人しくなるのは嬉しいから、こういう時は溜飲が下がるって言うのかな。それなりに気分が良い。
でもあんまり邪険にするときっとイギリス君がすごくすごく悲しむと思うから、いじめる気は一応ないけどね。
まぁそんなふうに部屋に荷物を置いてほっと一息ついていれば、浴衣姿になった日本君がにこにこと上機嫌で僕らの浴衣も持って来てくれた。
旅館の人と一緒に着付けをしはじめ、肌触りのいい布地に袖を通すと蒸し暑いここの夏も少しは涼しく感じられるなぁと思った。
ゆったりと開いた袖口や鎖骨の見える襟元、ゆるく止まる腰紐や足を開くとまくれちゃう裾だとか、とにかくひらひらしていて面白い衣装。
着替え終わったイギリス君は眉間の皺を消してはにかんだ様子で笑っているし、アメリカ君は満面の笑顔で子供みたいにはしゃいでいる。
「外に出る時は背中側にうちわをさすんですよ」と言われて後で試してみようと思った。まぁ「まずはその前にひと風呂浴びましょう」、らしいけど。
8/23 16:15
というわけで、四人揃って露天風呂に移動する。
アメリカ君は目をきらきらさせてまっさきに裸になって飛び込んで行った……と思いきや日本君に鋭く「かけ湯をしなさい!」と呼び止められて慌てて足を止めていた。
うん、日本君。その手にある小刀、いったいどこから持って来たのかな?
まぁそういうのはまるっと無視して、僕はイギリス君と一緒にお湯を浴びたあと広い湯船へと向かった。日本君ちのお風呂は石造りの浴槽にお湯をずっと流し入れていて、みんなで一緒に入るって言うのが面白いよね。うちにもサウナがあるけどこういうのもなんだかいいなぁって思うよ。
イギリス君は酔うと人前で裸になるくせに、こう言う時ばかり前を隠してちょっと恥ずかしそうにしているのが可愛い。
アメリカ君に「いまさらそんなことをしても無駄じゃないか」と笑われているけど、その点は不本意ながら大嫌いなアメリカ君に同意してしまった。
「長湯は身体に悪いですから」と、日本君が声を掛ければ、結構我慢大会になっていた僕らはそそくさと風呂から上がった。正直、お湯の温度が熱くて茹でられてる気分だったな。まぁ気持ちいいんだけどね。
イギリス君はほかほかになりながら顔を赤らめて、日本君が差し出したフルーツ牛乳に口を付けていた。隣でアメリカ君が「腰に手を当てて飲むのが正式なマナーなんだぞ!」と言いながら、物凄い勢いで牛乳を一気飲みしている。
僕もイチゴ牛乳を飲みながら、さっきからずーっと気になっていたので「アメリカ君、お腹ぽよぽよー」と言って腹部をつねってみたら、むっとした彼に思いっきりタックルされた。二人して床に転がってお互いのお腹をつまみ合いしていたら、イギリス君に曖昧な笑顔で「お前ら……仲良すぎだろ……」と呟かれてしまった。実に不本意極まりない。
あ、日本君がカメラを構えていたのは気のせいじゃないよね。
8/23 17:00
日が落ちて、窓の外がぼんやりと陰りはじめた頃。
日本君が「さぁ、お祭りの時間ですよ!」と言って意気揚々と下駄を差し出して来た。
どうやら夕食は外で食べるらしい。旅館の豪華な日本料理を期待していたアメリカ君は、つまらなそうに唇を尖らせていたけれど、日本君は意に介さず「屋台の味を知らないなんてまだまだですね」と意味深な笑みを浮かべていた。
イギリス君が本国から持って来たガイドブックに目を通していたので、後ろから覗いて見てみれば、どうやら屋台というのは「Street stalls」のことらしい。僕の家にも似たようなものがあるけど、ようするに街角なんかで食べ物を売ってるあれのことみたい。それが通りの左右に沢山並んでいる写真が載っていた。
クリスマスマーケットに似た感じなのかな。とにかく美食家な日本君のことだからすごくおいしいに違いない。
ここでちょっと問題発生。
浴衣には下駄、というのが決まりらしいけれど、僕にはどうも合わなかったみたいで、親指の間に紐がくるとそこが擦れて痛かった。慣れていないから歩きにくいし転びそうになるしでさんざん。しょうがないからサンダルを履くことにした。
イギリス君もアメリカ君もうまく履きこなしているのでちょっと悔しかったけれど、最近はお洒落と称してサンダル履きの人も多いらしいので、まぁいいかと気を取り直す。
そんなこんなで出掛けに手間取ってしまったけれど、いつもよりほんのちょっぴりだけ背の高くなった彼らと一緒に、僕ははじめての夜祭へと繰り出した。
8/23 17:45
うわぁ、なんていうか、すごいね!
薄暗くなってきた道の両脇に華やかな明かりが灯されて、それがもうずーっとずーっと長く続いているんだよ。雪洞(ぼんぼり)って言って、紙で作った箱の中に蝋燭が入っているんだって。
淡い光がとっても綺麗。
イギリス君もうわぁって顔をしてしばらくその光景にみとれてた。「妖精たちの明かりみたいだ」って呟いてアメリカ君に突っ込まれていたけれど、僕には分かるよ。彼女たちの羽根の輝きに似てるよね。
アメリカ君はすぐに沿道の屋台に心奪われたみたいで、日本君を振り返りながら「良い匂いがするぞ!」と声を上げた。確かに食べ物の匂いがして、空腹時なので四人ともいつしかふらふらとお店に引き寄せられていった。
まずは日本君おすすめの「タコ焼き」から。
基本的にキリスト教、ユダヤ教、イスラム教文化圏はあまりタコを食べる習慣がない。でも僕とイギリス君はわりとそういうのがいい加減なので、すすめられるまま早速ぱくり。
アメリカ君は変なところで潔癖だから眉を寄せて唸っていたけど、背に腹は代えられないのかぎゅっと目をつぶって一粒、あつあつのタコ焼きを口に入れていた。
その瞬間の彼の顔ったらない。
ぱぁって音がしそうなくらい明るくなって、両目には涙まで浮かんでいたよ。大袈裟だなぁ。
確かにシーフード料理としてこれは結構おいしい部類に入ると思うけど、そこまで感動しなくてもいいのに。でも日本君は自国の料理を褒められて満足気にしているし、イギリス君も思わずくすっと笑ってしまっていた。
まぁ、それなりに可愛いんじゃないの? 納得いかないけどね。
それからしばらくは「焼きそば」「お好み焼き」「じゃがバター」「串焼き」と食事の代わりになるようなものを食べていき、アメリカ君以外もうおなかいっぱい、と思ったところで日本君は小さな器に盛られたデザートを手渡してくれた。
透明な水飴に包まれたフルーツ。「あんず飴」っていうらしい。
割りばしでとろりとしたそれを掬って口に入れれば、甘味と酸味がすごく丁度良く調和していて、その美味しさに思わず「すごーい」と声が出た。
日本君ちの国民って本当に、美味しいものを作る天才って感じだよね。
8/23 18:50
「花火大会は七時からです。特等席にご案内しますね」と、そう言って連れて来られた場所は川沿いの土手だった。
日本君が用意してくれたレジャーシートにみんな並んで座ると、ここに来る途中でイギリス君が購入した「わた飴」を手渡された。
ふわふわでまっしろなそれは、僕にとってはあまりいい印象がしなくて、アメリカ君が「チョコバナナ」と一緒に美味しそうに食べている横で見て見ぬふりをしていたんだよね。
だって、だってさ。このお菓子、どこからどう見ても雪に見えるじゃない。
こんなにあったかくてこんなに気分のいい日に、雪なんて見たくもないし、食べるだなんて冗談じゃないって、そう思っちゃんだ。
けれどそんな僕に気付いたのか、イギリス君は「甘いもの、好きだろ?」なんて言って差し出して来る。しかもとっても優しい目で。
そんな彼の好意を無碍にも出来ずに僕は仕方なしに受け取って、じっと白い塊を見つめた。
アメリカ君が空気を100%読まずに「いらないなら俺が貰おうか?」なんて言うものだから、意地になって「これは僕のだよ」と言い返してふわふわのそれに唇を寄せる。
ぺろ、と舐めてみてびっくり。これ、あったかいよ?
日本君は口元をゆるめながらゆっくりとうちわで扇ぎつつ、「作りたてはほのかに温かいんですよね」と笑う。イギリス君も僕の髪を撫でながら「うまいだろ?」なんて自慢げに胸を逸らす。すぐにアメリカ君に「君の手料理と違ってね!」とからかわれて「うるさいバカぁ!!」とお馴染みの遣り取りをしていたけれど。うん、甘くてあったかくて美味しい。
ありがとう、イギリス君。
8/23 19:00
いよいよ日本の夏の風物詩、花火大会のはじまりはじまりー。
アメリカ君のうちだと特別な日にしか花火は上げられないらしくて、そのせいか彼はわくわくしすぎて身体が前後に揺れ動いていた。落ち着きがないけれど、こういうお祭りの時は楽しんだもの勝ちだもん、その点は僕も分かるよ。
夜空に花開く色とりどりの光の結晶。本当に綺麗だよね。
日本君もイギリス君も上を向いたまま笑顔でとっても楽しそう。つられて見上げる僕もきっとすごく楽しそうに見えるんだろうな。
ドーンというお腹に響く重い音は、戦場で聞いた砲撃の音に似ているけれど、それとはぜんぜん別の幸せの音。今は誰も、苦しくない。
そっとイギリス君の手に自分の手を重ねてみれば、彼は一瞬だけ目を見開いてから極上の笑顔を浮かべて、暗闇にまぎれて僕の頬にキスをしてくれた。
8/23 20:10
花火のあとはまた屋台の通りに戻って、僕らは子供さながらにたくさん遊んだ。
「カタ抜き」に「金魚すくい」、アメリカ君は何度チャレンジしても駄目だったけど、日本君はすっごく上手だった。そのあとの「射的」はイギリス君が百発百中すぎて、青褪めたお店のおじさんに泣かれちゃったよ。
僕はそんな彼らをなんとなく眺めるだけで自分じゃとくに何もしなかった。でも見ているだけで面白かったな。
だってみんな本当に子供みたいで、普段は澄ました顔の日本君も弾けてるし、怒りっぽいイギリス君は笑顔だし、気に食わないアメリカ君もなんだかよく分からないキャラクターもののお面をつけていれば愛嬌あるし、食べ物は美味しいしほんと言うことないよね。
そうやってぽやんとしていれば、「ちょっとこっち来いよ」と腕を引っ張られた。いつの間にか木の陰にいるイギリス君の方へと向かう。すると「ほら」と言って目の前につきつけられたのは玩具のガラスの指輪。
思わず笑って右手を差し出せば、俯いた頬を赤らめてイギリス君は薬指にそれをはめてくれた。お返しに頬にキスを落とせば、「二人してこそこそ何してるんだい!?」とアメリカ君が声を掛けて来る。まったく、空気の読まなさ加減は天下一品だよね。
日本君がさささっと隠したカメラをちらりと横目に、僕らは続いて賑やかな音楽の流れる方へと足を運んだ。
8/23 20:55
じめじめとした熱気も夜になるにつれ落ち着き、闇夜に浮かび上がる祭の灯りに照らされて盆踊り会場に移動すれば、沢山の人たちが輪っかになって踊っているのが見えた。
みんな不思議なポーズで踊っているけど、「こんな感じです」と日本君がお手本でうちわを持った手を上げると、「こ、こうか?」とイギリス君がためらいがちに倣う。その間にもアメリカ君はいつしか勝手に輪の中に入って行って、見ず知らずの人たちと意気投合して盛り上がり始めてしまっていた。順応性高いなぁ。
独特のリズムに合わせて身体を預けながら、僕らは日本の夏を満喫する。
慣れない浴衣も向日葵の絵が描かれたうちわも、青いビニールのサンダルも手にした金魚も、みんなみんな日本君がくれたもの。
だから上機嫌に「大好きだよ!」と言ったら、彼はまるでおじーちゃんが孫を見るような眼差しで微笑して、「喜んで頂けて嬉しいです」と答えた。
8/23 22:30
そのうち散会の時間になると、一人また一人と帰路につき、音楽も止み、明かりも消されていく。
熱気が引いて静寂が満ちて、広場から誰もいなくなるまで僕たちはなんとなく隅っこのベンチに腰掛けて星空を眺めていた。最後だからあげるよと屋台の人が置いて行った生ビールのボトルを足元に、ずっとずっとおしゃべりに興じる。
「お祭りの後って寂しいね」と言ったら「だからこそこの余韻が心地いいんです」と返された。なるほど、奥が深いね。
そして日付が変わろうとする頃に旅館に戻ることにした。眠そうなアメリカ君の手を引いて日本君が部屋に向かい、僕もイギリス君と並んで荷物が置いてある部屋へと歩く。
自然と絡められた指先がいつも以上にあったかいのは、酔っているせいか眠いせいなのか判別は付かなかった。
生きてきた年数も、歩んできた道のりも、見て来た世界も何もかも違う僕らが、一緒に体験した夏の時間。
今日は楽しかったよ、おやすみなさい!
8/24 01:00
……えーと。
なんでイギリス君、僕の上に乗ってるのかなぁ?
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