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 紅茶をどうぞ
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[お題] 縮まない距離がもどかしい






 注意 : R15(暴力&エロあり)です。
















 七月が近づくと体調が悪くなる、というのはイギリスの口癖だった。
 仕事からもプライベートからもアメリカ行きを避けるようになり、来るべき日に備えて引きこもりの準備も欠かさない。
 直接会っても電話越しであっても、その声音に変わりはないし態度にもこれといっておかしな部分は見当たらないが、それでもイギリスの中に小さな小さな揺れを感じ取れるくらいには自分は鈍感じゃなかったようだ。

 ロシアは雨の降る中その家の門をくぐり、玄関先にゆっくりと佇むとインターホンを押した。
 あらかじめ分かっていたことだったが返事はない。そのかわりカチリという鍵の外される音が小さく響き、彼の友人達が自分の来訪を拒まず受け入れてくれたことを知る。
 年代物のドアノブを引いて内側に入ると、ロシアは一度だけ薄手のコートを払って表面の水滴を落とした。そのままエントランスを抜けて暗い廊下を進んでいけば背後でバタンと扉がしまる音する。
 家屋全体を叩く雨音が静まり返った室内に思った以上に響き渡り、足を進めるたびに軋む板張りの床に濡れた髪からぽたりぽたりと滴が落ちた。

「イギリス君」

 リビングに続くガラス戸を開ければ、テレビも何もつけない部屋は物音ひとつしなくてひんやりとした空気だけが漂っている。カーテンの引かれていない窓の外は濃い灰色で、そのせいで昼間だというのに室内まで暗くじめじめと重苦しい色で埋め尽くされている気がしてならなかった。
 絨毯に足音と共に雨水を染み込ませながらロシアはソファに歩み寄って、その上で身体を縮こまらせて横たわっているイギリスをじっと見下ろす。くすんだ金色の髪と血の気のない青白い顔が、人工的な明かりもない薄闇の中でぼんやりと認知される程度に浮かび上がっていた。

「こんにちは、イギリス君」

 呼びかければぴくりと閉ざされた瞼が震える。
 手袋を外してポケットにしまい、素手で頬に触れればそこには涙の痕があった。確かめるようにことさらゆっくりとたどれば、イギリスは与えられた冷たさに意識を浮上させ、ぼんやりとした表情で両目を開く。
 焦点を結ばない緑の眼差しが自分を見下ろすロシアへと向けられた。

「泣いてたの?」
「…………」
「そう。泣くほど辛いならもっと酷いことをしてあげる」

 囁くように言えばイギリスはくるりと眼球を動かし、何度か瞬きを繰り返したのちふっと溜息をつくとのろのろと首に手をやりタイを解いた。しゅる、と一本の布と化した紺色のそれが床に落ちてとぐろを巻き、続いて真っ白なシャツのボタンが上から順に外されていく。
 その指を押さえつけるように握り締めると、ロシアは怪訝そうにこちらを窺うイギリスに冷笑を浮かべて見せた。

「駄目だよ、自分から誘っちゃ。僕は無理やりやるのが好きなの、知ってるでしょ」
「ロ、シア」

 乾いた声が名前を呼ぶのと同時に唇でその呼吸をふさぐ。そのまま強引に舌をねじ込んで口腔を搔き乱せば、息苦しさにイギリスの手がこちらの服を掴んだ。
 離れようと身を捩るのを無視して途中まではだけたシャツを一気に引き裂く。絹のそれがまるで悲鳴のような音を立ててちぎれ、弾けたボタンが周囲に飛び散った。咎めるような視線を受け流して左手でイギリスの顎を鷲掴みにし、口元を覆い文句を封じ込めれば噛みつこうともがかれる。

「そうそう、抵抗してくれなきゃつまんないもんね」

 くすくすと笑ってロシアは両目を楽しそうに細めた。
 一年に一度の遊戯。この時期に限りイギリスのガードが下がることは前もって経験済みだ。普段ならこんなに簡単に拘束出来る相手ではないからこそ、狙った獲物は逃がさない。
 こんな楽しい遊びを今さら止められるわけがないのだ。


 最初に話を持ちかけたのはどちらからだったろう? 六月の、雨の降るとある日にイギリスと偶然に会談することがあった。
 対面した時から彼があまりにも情緒不安定で、何か気に障る事でもあったのかと少なからず興味を惹かれたロシアは、世間話のつもりで一通の葉書を取り出して話題を振ってみた。
 それはカラフルでポップで下品なアメリカからの招待状。さしたる関心もなかった彼の誕生日、いわゆるインディペンデンスディのパーティへのお誘いだった。おざなりに世界中にばらまかれた醜悪なポストカードは、たいして付き合いのないロシアの元にも届けられ無遠慮に出席を要求して来る。
 そのことを少々不快にも思っていたので、この独立記念日に当人以外で一番関係の深いイギリスがどう感じているのかからかうつもりで会話を促してみたのだ。
 何と言ってもアメリカはイギリスにとって大事な大事な元植民地。その独立の日をわざわざ誕生日と称して元宗主国に送りつける皮肉さを、当の本人がどう受け止めているか誰だって少なからず気になるところだろう。
 そうして彼の前に招待状のカードを出し、「アメリカ君曰く、世界で一番最高に素敵な一日を君はどうやって過ごすのかな?」と笑いながら問い掛けてみた。
 するとどうだろう? イギリスの両目は驚きと怒りと悲しみと戸惑い全てを内包した複雑な色を混ぜて見開かれ、混乱の極みを浮かべた顔は音を立てて血の気が引いた。
 「大丈夫?」と聞けば面白いくらい動揺したまま彼は「なんでもない」と答えて、気持ちを落ち着けようと紅茶のカップに指先を絡める。けれどみっともないくらい震えた手はまともに機能していないようで、取り落とされた陶器のそれはガチャンと煩い音を立ててひっくり返った。
 ロシアはそんな彼の動作を意外に思い首をかしげたが、すぐにイギリスの動揺が何に起因するのかに気付いて思いっきり笑い出したい衝動に襲われた。
 なんのことはない、このじめじめとした島国は未だ、200年以上も前に彼の手を振り払って独立を果たしたあの大陸に未練があるらしい。そして傷つけられた記憶は永遠に消えることなくその内側に宿り、いつまでもいつまでもイギリスを蝕み続けているのだろう。
 つつけば彼は酷く乱れた。ぐらぐらと振り子のように揺れ、弱い部分を攻め立てればとうとう泣き出してしまったのだ。あの、イギリスが!

 ロシアはそれからたびたびイギリスの元を訪れては、アメリカをネタに彼をからかう愉しさを覚えた。時には暴力をふるい、傷つけ、犯し、また時には優しく甘くゆったりとした時間を提供する。
 そうすると面白いくらい簡単に彼は慣れた。ロシアの下すあらゆることに慣れ、受け止め、受け流し、依存するようになった。
 もともと『国』の順応性の高さは人よりもずっと高く、強い負荷にも耐えうるべき精神力と体力を兼ね備えているものだ。だから続けられる不条理な行為にもイギリスはすぐに馴染んだし、それによってもたらされる快楽や刺激を麻薬のような執拗さをもって求めるようにもなる。
 折れたり崩れたり落ちたりはしない。けれどイギリスはロシアをそこにあるものとして認識しはじめ、警戒心や攻撃性を弛めて自身の内側に閉じ込めることに成功したようだった。その証拠に捕えているのか囚われているのか、ロシア自身にももう分からなくなってしまっているのだから。


「誕生日、もうすぐだね。またアメリカ君は君の悔しがる顔を思い出して楽しそうに笑うんだろうなぁ」

 面白がってそう言えば、イギリスは眉間に皺を刻んで忌々しげに睨みつけ、今にも泣きそうな顔をしてやみくもに暴れ出した。搔き毟るように顔に爪を立てられ、浮いた両足で容赦なく蹴り込まれる。
 抑えつけた口からは意味不明なうめき声のみが聞こえて来た。

「顔に傷つけないでよ」

 ちり、っと目の下あたりに痛みが走って苛立ちがよぎる。右腕を振り上げて肘を彼の腹部に叩きこめば、くぐもった悲鳴を上げてイギリスは狭いソファの上でのたうった。
 背を丸めるその身体をすぐに暴いてベルトを引き抜きスラックスをずり下ろす。やめろと小さな声が聞こえた気がしたが、問答無用で下着も剥ぎ取ってしまえば、傷跡も生々しく白い裸体が現われるのだった。
 雨音に埋め尽くされた暗い部屋でロシアはイギリスを抱く。閉じられた膝を割り、その奥に容赦のない熱をねじ込み、苦痛を伴った喘ぎ声に耳を澄ませ、時折喉を締め付ければ彼は弱々しく啼いて抵抗した。
 そうやって長く淀んだ時間を過ごす。悪夢のような行為はしかし、イギリスの深層心理に薄く小さい傷となって食い込み、彼が何より怯え嫌悪する『雨の日の記憶』を別のものへと塗り替えていく。
 今やイギリスの脳裏にはかつて戦場で泣き崩れた己の姿ではなく、ただ貪るように身体に喰らいつくロシアの記憶だけが鮮烈に刻み込まれ、濁り、埋もれるのだった。

「あ……や、だ、お前、しつこい……っ!」

 噛みつくほどの口吻けや、気がふれそうなほどの強い愛撫に彼は泣きながらどこまでも深みにはまり溺れていく。呼吸も困難になりがちな快楽の波は目の前を白い閃光となって走り抜け、何度絶頂に導かれても止むことはなかった。
 ロシアが与えるなにもかもに、イギリスは意識が飛ぶまで幾度となく翻弄される。そして精根尽き果て気を失うのは全身隈なく赤い痣が浮かび上がった頃だった。

「あーあ。もう終わり?」

 腰を掴んでいた手を離せばくたりと力を失った身体がソファからずり落ちる。とろりと白い液体が肌を伝い、ロシアはそれを指先ですくうとぺろりと舐めて唇の端を吊り上げた。
 苦い味は甘すぎるセックスの後には丁度いい。

「イギリス君?」
「…………」
「こんなところで寝たら風邪ひいちゃうよ」

 屈んで肩を揺さぶりながらそう言えば、イギリスはうっすらと両目を開けて再びこちらを見上げて来た。放心状態から抜け出すように瞬きをしたあと、彼は疲労の滲む顔で「盛りすぎなんだよテメーは」と毒づく。
 それから緩慢な動きで上半身を起こすと、傍らのソファに腕をついてなんとか体勢を整えた。ぐったりとした表情でしばらく顔を伏せてから深い溜息をつき、イギリスはのろのろとロシアの顔に視線を向ける。

「……お前の狂気は厄介だな」
「えー、だって狂ってるのは君も同じでしょ」
「俺はお前に中てられてるだけだ」

 ったくしょうがねーな、と呟いてから両腕を伸ばして彼はロシアの首に抱きついた。むせかえる湿った匂いは雨と体液の入り混じった、イギリスそのものの匂いだ。
 そのまま彼はロシアの髪を梳き、頬についた引っかき傷に唇を落とし、胸に顔をすり寄せてくる。まるで甘えるような仕草は気まぐれな猫のようにも見えた。だからだろうか、ロシアまた剥き出しの彼の背中に手の平を押し当て、ぴたりと吸い付くような肌の感触を楽しみながら雨の気配に意識を沿わせる。

「ねぇ、今年は行くの?」
「…………」
「行かないの?」

 問い掛けに返事はなかった。ぎゅっと噛み締めた唇とその無言がかえって答えとなっている。
 やれやれと肩を竦めて立ち上がれば、イギリスは不満そうに眉をひそめ、名残惜しげに右手がロシアの服を握り締めた。無意識の行動を邪魔に思って振り払えば彼は一瞬顔を歪めてから身体を離し、うなだれたままそれ以上は動かなくなる。
 雨音に混じって嗚咽が聞こえてきたが、ロシアはくすっと笑うとその額に軽くキスを落として踵を返した。


 六月の雨。
 いつか彼の涙が枯れたら、その灰色の世界には見たことのないほどの青空が広がるのだろうか。
 そしてもしも晴れた空に七色の虹が架かったら ―――― 実は好きなんだよって告げてあげてもいいと思った。



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