紅茶をどうぞ
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[お題] 宝の地図はないけれど
嬉しくて泣いちゃうことって、本当にあるんだね。
僕には経験がないからちょっと懐疑的だったんだけど、だってほら、今僕の目の前で彼らは泣いている。
嬉しくて嬉しくてたまらないという、喜びに満ち溢れた涙だ。
痛くて哀しくて切なくて寂しくて寒くてつらい涙じゃない。
僕も泣いていて、彼らも泣いていて、でもその涙の色に違いがあるなんて思いもしなかった。
寂しい。
置いて行かれた。
捨てられた。
あんなに好きだったのに。
あんなに愛したのに。
寒い。
冷たい。
独りは嫌。
あたたかいてのひらが欲しい。
支配することでしか得られないと思っていた。
力だけがすべてでそれ以外の方法が何ひとつ見つからなかった。
閉じ込めて縛り付けて外の世界から隔離して、そうやって手元に大事に大事においておいて、かごの中の鳥と同じく枷をはめて鎖につないでそうしてただ、同じ時間を分け合うように一緒にいたかっただけ。
でも最後に握りしめていた鎖を手放したとき、彼らの澄み渡った空のように晴れやかな笑顔を見ることが出来て、ほんの少しだけ嬉しいと感じたのはたぶん誰にも言えないことだ。そう、僕だけの小さな秘密。
だって本当に大好きだったから、いつも強張った痛みを耐えるような笑顔しか見せてもらえなかったから、眩しいその笑顔がとても綺麗でちょっとだけ嬉しいと思ったんだ。
ありがとう。祝福はしてあげられないけど最後に素敵なプレゼントを残してくれて。
喜びの涙のうつくしさをきっと僕は一生忘れないと思った。
その日はお互い仕事もなくのんびり出来たから、サンルームの一番陽のあたる場所に長椅子を置いて、二人で時間を忘れて日が沈むまで朝から何時間もだらだらしていた。
膝枕は好き。
正直イギリス君の固くて肉づきの悪い太ももはあまり快適とは言い難かったけれど、それでも頬を乗せれば温かな熱が伝わってくるし、ゆっくりと髪を撫でる指先の動きはとても気持ちが良くてそのまま眠りに落ちてしまいそうになる。
時々紡がれる柔らかな歌声が耳に優しい。
「昨日はね、アメリカ君と一緒に海を見に行ったんだ」
ぼんやりとしたまま、きっともうすっかり痺れてしまっている彼の両膝から俯くその顔を見上げて、とろとろに溶けだしたバターのような優しい色合いの日差しを浴びながらゆっくりと目を眇めて呟く。
するとイギリス君は深い新緑の瞳を揺らめかせてちいさく「アメリカ?」と確かめるようにその名を呼んだ。
「うん、アメリカ君。海が見たいって言ったら連れて行ってくれたんだよ。ナンタケット。とても綺麗で神秘的な島だった」
「あそこには妖精がいるんだ」
「僕にはわからなかったな。アメリカ君もきっと分からない。でも砂浜を素足で歩くと自由になれるんだってさ。おかしいね」
靴も靴下も放り投げて、堅苦しいスーツのズボンに皺が寄るのも気にせず思いきりたくしあげる。ジャケットは乱暴に木の枝にひっかけて、ネクタイも振りほどき、白いシャツも腕まくり。そうやってアメリカ君は穏やかな波打ち際を振り返らずにただぺたぺたと歩いていった。
僕はそんな彼を少し離れたところから眺めながら、青い海と白い砂浜の間をただよう彼の影を追いかける。どこまでも、どこまでも。
「そして歌うんだ。『To Anacreon in Heaven』……天国のアナクレオンへって」
驚いたようにひゅっと息を呑んで両目をめいっぱい大きく見開き、イギリス君は一瞬言葉を無くしたかのように唇を震わせてから、静かに細く息を吐きだした。
涙がこぼれそうになるくらいに潤んだ瞳はそれでも、僕の顔を映してそれ以上の感情に囚われることなく綺麗に穏やかに波打っている。
「どこかで聞いたメロディだねって言ったらそりゃそうだ、って笑われたよ」
「『星条旗』……」
「そう『星条旗』。僕、知らなかったよ。あの歌の旋律がもともとは君の国のメロディだったなんて。アメリカ君はよっぽど君のことが好きなんだね」
くすくす笑えば髪を撫でていた手が軽く額を小突いてくる。照れ隠しだなんてイギリス君も本当にかわいいところがあるよなぁと思った。
国歌に制定するくらい、彼は英米両国で愛されたその歌を大事にしていたってことだ。独立戦争の最中でも決して忘れ去られる事のなかったその歌を。
―――― あぁ、ちゃんと君は愛されていたんだね。
「僕は君たちはもう十分両想いだと思うけどなぁ」
ちょっと羨ましい。
そう言えばイギリス君は真夏の太陽を見上げた時のような、どこか眩しい顔をして口角をきゅっと吊り上げた。その仕草が遠い日に船の上で彼を見た時に似ていて知らず胸が高鳴る。良い顔をするなぁと思った。
「最近お前たちもやけに仲がいいよな」
「そうでもないよ。僕、アメリカ君だいっきらい。アメリカ君だって僕のこときらいだろうし」
でもね、と続ける。
「あの島は好き。ふふ、前髪引っこ抜いたら怒るだろうなぁアメリカ君」
ぴょこんと揺れるあの跳ねた髪に触れたらなんて言うのかちょっと知りたい。案外イタリア君みたいに「性的な何か」だったらとっても面白いのになぁと笑えば、イギリス君はちょっとだけ怒ったような素振りで再び額を突っついて来た。
―――― 分かってるよ、君の大好きで大切な子供にはまだ手出ししないでおいてあげる。
イギリス君がアメリカ君を守るために行った数々の出来事を、愚行と言って嘲笑するのはすごく簡単なことだと思うけれど、同じことが出来る人がいないのも分かるから僕は単純に尊敬していた。
苦しい情勢の中、頑張って頑張って傷ついて苦しんで、イギリス君はアメリカ君をずっとずっと愛し続けた。そんなの、きっと誰が見てもバカバカしいのにどうしようもないくらい凄いことだって分かる。
そして、僕とはまったく違った手段で好きなものを閉じ込めた君の寂しさを、分かってあげられるのも僕だけだ。
けれど大切にしても傷つけても結局結果は同じ、何も変わらない。
自由なんてそんなに輝かしいものじゃなかったよ。
だから叶わない願いや諦めきれない想いをいつまでもいつまでも口にする。あたたかい土地が欲しいとか、なんで独立しちゃったんだとか。
「僕たち捨てられた者同士だもんね」
「……やっぱりロシアはまだバルト三国の連中に帰って来てもらいたいのか?」
「う~ん、どうだろう? なんだかもうわかんないや」
「自分のことだろ?」
「そうなんだけどね。離れる時にとても素敵なプレゼントをもらっちゃったからなぁ」
「プレゼント?」
「うん。ねぇ、イギリス君は知ってる? 人って嬉しくても泣けるんだよ。そしてね、その涙は哀しくて苦しくてつらい時の涙と違って、もっとずっと綺麗で美しくて宝石みたいに輝いていて、絶対に忘れられないものなんだよ」
そう言えばイギリス君は息を詰めて唇をかみしめてから、何も言わずに今度は静かに涙をこぼした。髪を撫でる指先にわずかばかり力が込められていて、ぽつりと落ちた滴が僕の頬に当たって弾けた。
それはとても綺麗だったけど、残念ながらバルトの子たちが見せたものにはかなわない。きっと嬉しくて泣いているわけじゃないからだ。
「それにほら、たぶん今、幸せだからさ、僕」
欲しいものは山ほどあって、その全部を手に入れることなんてできないことくらい最初からわかっていた。どうすれば好かれるのか、どう接すれば嫌われるのか、知らない人なんてきっといない。
でも結局変わらないんだよ。なにも変わらない。
僕たちが手に出来るのはほんの一握りの想いだけ。歴史に埋没されていく時の流れの果てに何があるのかなんて、たぶん一生かかっても見付けることは出来ないんじゃないかな。
右に行ったり左に行ったり、いつも無意識にぐらぐらと揺れ動いてしまう僕たち。
為政者によって頭の中身がまるごと入れ替えられちゃうような、そんな存在に求められるものはとても限られているから、永遠に満たされることはないのかも知れないね。
「お前はいろんなことを考えているんだな」
「イギリス君もそうでしょ。寒くて長い夜を迎える国はどこもみんな、考える時間だけはたくさんあるから」
「学者が多いのもそのせいだって言われるくらいだからな」
何かに夢中にならなければ一日を過ごすことが苦痛でたまらなくなる。
陰鬱な天候のもとでは人々も空想の世界で羽ばたくしかないわけだ。
あてもない旅に出ては理や摂理をひもといて、様々な色に染め上げて幾何学模様の夢を作り出す。
ねぇ、芸術と呼ばれるそれはとても綺麗じゃない?
「そうそう。僕はね、アメリカ君の凄いところは今でも宝探しに一生懸命なところだと思うよ」
「宝探し、か」
「彼はきっとまだ探している。一度は誰もが探したそれを、今もまだ探しているし、これからもずっとずっと探していくんだと思う。見つからなくても諦めないで、見付かるまで探し続けるんだよ。それはとっても鬱陶しくてイライラするし迷惑だし頭にくるし殴りたくなるしで散々だけど」
―――― 本当に探し出せたら世界はどうなるんだろうね。
僕の言葉にイギリス君はすごく複雑な表情を浮かべてから、ふ、と身体の力を抜いてなんの感情も混じらないくらい透明に笑った。
アメリカ君の無茶で無謀で自分勝手な望みを甘受するみたいな、そんな笑顔に僕は両手を伸ばして手触りのいい頬をそっと撫でてみる。
あたたかなそこにはもう涙の跡はなかった。
僕には経験がないからちょっと懐疑的だったんだけど、だってほら、今僕の目の前で彼らは泣いている。
嬉しくて嬉しくてたまらないという、喜びに満ち溢れた涙だ。
痛くて哀しくて切なくて寂しくて寒くてつらい涙じゃない。
僕も泣いていて、彼らも泣いていて、でもその涙の色に違いがあるなんて思いもしなかった。
寂しい。
置いて行かれた。
捨てられた。
あんなに好きだったのに。
あんなに愛したのに。
寒い。
冷たい。
独りは嫌。
あたたかいてのひらが欲しい。
支配することでしか得られないと思っていた。
力だけがすべてでそれ以外の方法が何ひとつ見つからなかった。
閉じ込めて縛り付けて外の世界から隔離して、そうやって手元に大事に大事においておいて、かごの中の鳥と同じく枷をはめて鎖につないでそうしてただ、同じ時間を分け合うように一緒にいたかっただけ。
でも最後に握りしめていた鎖を手放したとき、彼らの澄み渡った空のように晴れやかな笑顔を見ることが出来て、ほんの少しだけ嬉しいと感じたのはたぶん誰にも言えないことだ。そう、僕だけの小さな秘密。
だって本当に大好きだったから、いつも強張った痛みを耐えるような笑顔しか見せてもらえなかったから、眩しいその笑顔がとても綺麗でちょっとだけ嬉しいと思ったんだ。
ありがとう。祝福はしてあげられないけど最後に素敵なプレゼントを残してくれて。
喜びの涙のうつくしさをきっと僕は一生忘れないと思った。
* * * * * * *
その日はお互い仕事もなくのんびり出来たから、サンルームの一番陽のあたる場所に長椅子を置いて、二人で時間を忘れて日が沈むまで朝から何時間もだらだらしていた。
膝枕は好き。
正直イギリス君の固くて肉づきの悪い太ももはあまり快適とは言い難かったけれど、それでも頬を乗せれば温かな熱が伝わってくるし、ゆっくりと髪を撫でる指先の動きはとても気持ちが良くてそのまま眠りに落ちてしまいそうになる。
時々紡がれる柔らかな歌声が耳に優しい。
「昨日はね、アメリカ君と一緒に海を見に行ったんだ」
ぼんやりとしたまま、きっともうすっかり痺れてしまっている彼の両膝から俯くその顔を見上げて、とろとろに溶けだしたバターのような優しい色合いの日差しを浴びながらゆっくりと目を眇めて呟く。
するとイギリス君は深い新緑の瞳を揺らめかせてちいさく「アメリカ?」と確かめるようにその名を呼んだ。
「うん、アメリカ君。海が見たいって言ったら連れて行ってくれたんだよ。ナンタケット。とても綺麗で神秘的な島だった」
「あそこには妖精がいるんだ」
「僕にはわからなかったな。アメリカ君もきっと分からない。でも砂浜を素足で歩くと自由になれるんだってさ。おかしいね」
靴も靴下も放り投げて、堅苦しいスーツのズボンに皺が寄るのも気にせず思いきりたくしあげる。ジャケットは乱暴に木の枝にひっかけて、ネクタイも振りほどき、白いシャツも腕まくり。そうやってアメリカ君は穏やかな波打ち際を振り返らずにただぺたぺたと歩いていった。
僕はそんな彼を少し離れたところから眺めながら、青い海と白い砂浜の間をただよう彼の影を追いかける。どこまでも、どこまでも。
「そして歌うんだ。『To Anacreon in Heaven』……天国のアナクレオンへって」
驚いたようにひゅっと息を呑んで両目をめいっぱい大きく見開き、イギリス君は一瞬言葉を無くしたかのように唇を震わせてから、静かに細く息を吐きだした。
涙がこぼれそうになるくらいに潤んだ瞳はそれでも、僕の顔を映してそれ以上の感情に囚われることなく綺麗に穏やかに波打っている。
「どこかで聞いたメロディだねって言ったらそりゃそうだ、って笑われたよ」
「『星条旗』……」
「そう『星条旗』。僕、知らなかったよ。あの歌の旋律がもともとは君の国のメロディだったなんて。アメリカ君はよっぽど君のことが好きなんだね」
くすくす笑えば髪を撫でていた手が軽く額を小突いてくる。照れ隠しだなんてイギリス君も本当にかわいいところがあるよなぁと思った。
国歌に制定するくらい、彼は英米両国で愛されたその歌を大事にしていたってことだ。独立戦争の最中でも決して忘れ去られる事のなかったその歌を。
―――― あぁ、ちゃんと君は愛されていたんだね。
「僕は君たちはもう十分両想いだと思うけどなぁ」
ちょっと羨ましい。
そう言えばイギリス君は真夏の太陽を見上げた時のような、どこか眩しい顔をして口角をきゅっと吊り上げた。その仕草が遠い日に船の上で彼を見た時に似ていて知らず胸が高鳴る。良い顔をするなぁと思った。
「最近お前たちもやけに仲がいいよな」
「そうでもないよ。僕、アメリカ君だいっきらい。アメリカ君だって僕のこときらいだろうし」
でもね、と続ける。
「あの島は好き。ふふ、前髪引っこ抜いたら怒るだろうなぁアメリカ君」
ぴょこんと揺れるあの跳ねた髪に触れたらなんて言うのかちょっと知りたい。案外イタリア君みたいに「性的な何か」だったらとっても面白いのになぁと笑えば、イギリス君はちょっとだけ怒ったような素振りで再び額を突っついて来た。
―――― 分かってるよ、君の大好きで大切な子供にはまだ手出ししないでおいてあげる。
イギリス君がアメリカ君を守るために行った数々の出来事を、愚行と言って嘲笑するのはすごく簡単なことだと思うけれど、同じことが出来る人がいないのも分かるから僕は単純に尊敬していた。
苦しい情勢の中、頑張って頑張って傷ついて苦しんで、イギリス君はアメリカ君をずっとずっと愛し続けた。そんなの、きっと誰が見てもバカバカしいのにどうしようもないくらい凄いことだって分かる。
そして、僕とはまったく違った手段で好きなものを閉じ込めた君の寂しさを、分かってあげられるのも僕だけだ。
けれど大切にしても傷つけても結局結果は同じ、何も変わらない。
自由なんてそんなに輝かしいものじゃなかったよ。
だから叶わない願いや諦めきれない想いをいつまでもいつまでも口にする。あたたかい土地が欲しいとか、なんで独立しちゃったんだとか。
「僕たち捨てられた者同士だもんね」
「……やっぱりロシアはまだバルト三国の連中に帰って来てもらいたいのか?」
「う~ん、どうだろう? なんだかもうわかんないや」
「自分のことだろ?」
「そうなんだけどね。離れる時にとても素敵なプレゼントをもらっちゃったからなぁ」
「プレゼント?」
「うん。ねぇ、イギリス君は知ってる? 人って嬉しくても泣けるんだよ。そしてね、その涙は哀しくて苦しくてつらい時の涙と違って、もっとずっと綺麗で美しくて宝石みたいに輝いていて、絶対に忘れられないものなんだよ」
そう言えばイギリス君は息を詰めて唇をかみしめてから、何も言わずに今度は静かに涙をこぼした。髪を撫でる指先にわずかばかり力が込められていて、ぽつりと落ちた滴が僕の頬に当たって弾けた。
それはとても綺麗だったけど、残念ながらバルトの子たちが見せたものにはかなわない。きっと嬉しくて泣いているわけじゃないからだ。
「それにほら、たぶん今、幸せだからさ、僕」
欲しいものは山ほどあって、その全部を手に入れることなんてできないことくらい最初からわかっていた。どうすれば好かれるのか、どう接すれば嫌われるのか、知らない人なんてきっといない。
でも結局変わらないんだよ。なにも変わらない。
僕たちが手に出来るのはほんの一握りの想いだけ。歴史に埋没されていく時の流れの果てに何があるのかなんて、たぶん一生かかっても見付けることは出来ないんじゃないかな。
右に行ったり左に行ったり、いつも無意識にぐらぐらと揺れ動いてしまう僕たち。
為政者によって頭の中身がまるごと入れ替えられちゃうような、そんな存在に求められるものはとても限られているから、永遠に満たされることはないのかも知れないね。
「お前はいろんなことを考えているんだな」
「イギリス君もそうでしょ。寒くて長い夜を迎える国はどこもみんな、考える時間だけはたくさんあるから」
「学者が多いのもそのせいだって言われるくらいだからな」
何かに夢中にならなければ一日を過ごすことが苦痛でたまらなくなる。
陰鬱な天候のもとでは人々も空想の世界で羽ばたくしかないわけだ。
あてもない旅に出ては理や摂理をひもといて、様々な色に染め上げて幾何学模様の夢を作り出す。
ねぇ、芸術と呼ばれるそれはとても綺麗じゃない?
「そうそう。僕はね、アメリカ君の凄いところは今でも宝探しに一生懸命なところだと思うよ」
「宝探し、か」
「彼はきっとまだ探している。一度は誰もが探したそれを、今もまだ探しているし、これからもずっとずっと探していくんだと思う。見つからなくても諦めないで、見付かるまで探し続けるんだよ。それはとっても鬱陶しくてイライラするし迷惑だし頭にくるし殴りたくなるしで散々だけど」
―――― 本当に探し出せたら世界はどうなるんだろうね。
僕の言葉にイギリス君はすごく複雑な表情を浮かべてから、ふ、と身体の力を抜いてなんの感情も混じらないくらい透明に笑った。
アメリカ君の無茶で無謀で自分勝手な望みを甘受するみたいな、そんな笑顔に僕は両手を伸ばして手触りのいい頬をそっと撫でてみる。
あたたかなそこにはもう涙の跡はなかった。
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