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 紅茶をどうぞ
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[お題] この思いに名前を付けるなら
 フランスを先頭にイギリス、アメリカ、ロシア、日本は揃ってユーロスターに乗り込んだ。
 チャネルトンネルを利用してドーヴァーを潜りロンドンからリールを経由してパリへと向かう。少し前まではこんなに簡単に大陸へ行けるとは思ってもみなかったので、トンネル計画が持ち上がった時はイギリスもフランスも随分と壮大な計画だなぁと呆れたものだ。けれどいざ着工されれば難関ではあったがこうして実用化にまで漕ぎ着けたのだから現代技術は素晴らしい。
 いざこざは絶えなかったが英仏両国をつなぐ懸け橋に日本が一役買ったことも当時は大々的に報じられ、特別措置でフランス側から掘り進めたシールドマシンはそのままイギリスまで運ばれて記念に展示されたのち解体された。
 そのことをイギリス側の技術者は面白く思わなかったようだが、工事の成功そのものは華々しく祝福されたので良しとしよう。

「お前たちはこれに乗るの、今日二回目なんだよな?」

 イギリスが隣に腰かけたロシアにそう話しかければ、彼はうん、と頷いて差し出された紅茶を手に疲れを見せない顔でにこりと笑った。どことなくぐったりとした様子の日本とは正反対の元気さがうかがえる。
 うつらうつらしている日本に「大丈夫か?」と問いかえればにこりと笑い返されるが、きっとかなりの強行軍だったに違いない。まさかテニスのあとすぐにパリに日帰させる羽目になるとは思わなかったので、少々申し訳ない気分に陥った。

「着いたら起こしてあげるから寝たらどうだい? 疲れているんだろう?」
「あぁ……アメリカさん、ありがとうございます。それでは少し休ませて頂きますね」

 ふうと一呼吸置くと、日本はそのままシートに頭を預けて両目を閉ざした。日頃から「私ももう歳ですね」と嘆いている姿を見ていたので誰も何も突っ込まない。そもそも時差もあるだろうしハードなスケジュールは体力的にも厳しいものがあっただろう。
 フランスが気を利かせて上着を脱いでその膝に掛けてやれば、ロシアが「マフラーもいる?」と言って外そうとするので「いらないだろ」と断っておいた。目を覚ました時に驚かせては日本が可哀相だ。

 近代的な車内は落ち着いていて、三時間近くの長旅ではあったが快適に過ごすことが出来る。乗り込む前に簡単な食材は買いこんでいたのでお腹がすけばそれをつまんだりもした。

「ところでなんでわざわざワインなんて買いに来たんだい?」

 フランスが棚に上げた荷物とは別に大事に膝に抱える紙袋を見遣り、アメリカが疑問を口にする。パリからロンドンまで買い出しに来なくてもフランスにだって上等なワインはいくらだってあるだろうし、不思議に思うのも無理はない。
 イギリスがちらりとヒゲ面を見やれば不本意そうな顔をして、フランスは「俺だって自国のワインが好きなんだけどねぇ」と渋々説明をはじめた。

「今夜は美味いスパークリングが飲みたいと言われちゃ、ホストとしては頑張らなきゃって思うだろ? ナイティンバーはヨーロッパでも滅多に出回らないからな」
「シャンパンより美味しいワインがイギリスなんかにあるのかい?」
「それが残念なことにあるんだよなぁ……本当に残念すぎることなんだけど」
「うるせぇ、このヒゲ!」

 思わず足を伸ばして蹴りを入れようとすれば、すかさず避けたフランスが「ワインが台無しになるからやめろ」と言う。悔しいが正論なのでそれ以上は攻撃を仕掛けず、イギリスは大人しく座り直した。自国のワインを人質にとられてはいた仕方ない。
 フランスは余裕綽々な顔をしてへらへら笑いながら大事そうに紙袋を抱えなおした。

「ま、あとでお前さんにも飲ませてやるさ。味が分かればの話だけどな」
「なんだいそれ」

 むっとして唇を尖らせるアメリカを見てロシアがくすっと笑えば、空中で視線がバチッと火花を散らして絡み合う。そんな冷戦の縮図さながらの様相に苦笑いしながらフランスはまぁまぁととりなした。あまり煩く騒ぐと日本が起きてしまうことに気付いて、二人もそれ以上目を合わせずに無視し合う。

「ロシアはイギリスワインは飲んだことあるのか?」
「僕? うん、なんて名前だったかな。ロゼを飲ませてもらったよね」

 フランスの質問に首をかしげながら彼はちらりとイギリスを窺った。確かに以前来た時に振る舞った記憶があるので小さく頷いて答える。

「チャペル・ダウンだ」
「あ~あれか! 最近安定して来たけどまだまだ流通少ないよなぁ。イギリス、もっと量作れよ量!」
「作れるもんならとっくに作ってる」

 フランスの言葉に苦い顔をしたままイギリスは重い溜息をついた。南部のケントにあるワイナリーを脳裏に描きながら、この調子で地球温暖化が進めばもっとたくさんのワインが作れるのだろうと思いつつも、それは生態系を崩すことになりかねないのであまり喜んでもいられなかった。
 ロシアなどは「コート代が浮いて助かるんだよね」と切実な喜びを表していたが、イギリス連邦のひとつ、ツバルなどは海面上昇により陸地の何割かが水没してしまっているので、正直ぜんぜん笑えない。

「つかアメリカ。先に耐圧ガラスを作ったのはうちだ。ポルトガルとの交易でコルク栓だって大量に輸入していたし、フランスなんかよりも早い時期にスパークリング・ワインを作ることが出来ていたんだぞ。シャンパーニュなんかに負けてたまるか」
「へぇ。まぁ俺は炭酸ならコーラの方がいいけどね!」
「「あんな砂糖水と一緒にすんなー!!」」

 聞き捨てならない言葉にフランスとイギリスの悲鳴が同時に上がる。両方から叫ばれて目を丸くしたアメリカの横で、「もー君たちうるさいよ。日本君が起きちゃうじゃない」とロシアが唇に指先を当てた。





* * * * * * * * * * * * * * *





 フランスの家に到着すれば、意気揚々とキッチンに向かおうとするイギリスをアメリカが羽交い締めにした隙に、家主と日本は揃って奥へと消えて行った。
 ドイツとイタリアが来るまであと1時間。余計な邪魔が入られてはゲストをもてなす料理がいつまでも完成しないと危惧した結果なのだが、当事者にしてみれば何とも面白くない話であろう。
 憮然としたままソファに座るとイギリスは足を高々と組んで、宥めるように出された紅茶に口をつけながら、テレビの前で屈んで何やらごそごそといじりはじめるロシアを見遣った。長いマフラーを引きずりながら探し物をするその姿に、隣に腰掛けてこちらはコーヒーを飲んでいたアメリカも気になったのか「何をしているんだい?」と気軽に声を掛ける。

「んー、確かこの辺に……あ、あったあった」

 テレビの下の開き戸からロシアが白い箱を取り出す。その表面に書かれた「Wii」の文字にアメリカの目がキラリと輝いた。
 確かあれは女王陛下も嵌っているというゲーム機だったか、とイギリスが思うよりも先に隣の気配が高速で移動する。

「なんだいなんだい、いいものがあるじゃないか!」

 上機嫌に口笛を吹きながらロシアの手元を見ているアメリカのお尻に尻尾が生えているように見えて、イギリスは苦笑してしまった。いくつになってもゲーム好きは変わっていないらしく、相変わらず子供のような無邪気さだ。
 ロシアも若干苦笑気味に笑いながら箱から白い本体を取り出し、待ちきれないとばかりに接続をはじめるアメリカの背中越しにキッチンへと声を掛ける。

「フランスくーん。ゲームしてるねー」
「おー勝手にやってろー」
「わかったー」

 そんなやり取りが交わされたのち、最年少二人組は日頃の仲の悪さなどどこへやら、意気揚々とコントローラーを握りしめた。
 それにしても、アメリカが無類のゲーム好きなのは知っているが、ロシアまでもがテレビゲームに夢中になるとは想像もしていなかったので、首をかしげて問い掛けてみる。

「ロシア、お前そんなにそれ好きなのか?」
「Wii FitやSportsはダイエットにもいいんだって。アメリカ君みたいに手遅れになりたくないから、最近初めてみたんだ。こんなふうになっちゃったらもうおしまいでしょ?」
「いや、まぁ、それは、その」

 しどろもどろに引き攣った笑いで応じていれば、アメリカが拗ねたように「君だって丸いじゃないか!」と抗議したが、ロシアはまともに取り合う気もないのかさらりと受け流して本体の電源のスイッチを入れた。
 軽快な音楽と共にテレビに大きく映し出される文字やイラストを前に、今度は二人して野球がいいだのゴルフがいいだのと煩く揉め出す。やがて何にするのか決まったのか同時に立ちあがって、画面が切り替わるのを並んで待ちはじめた。
 イギリスはソファにのんびり腰掛けながらそれを後方から見守る形となった。

「1分3ラウンドだからね!」
「分かってるよ」

 どうやらボクシングにしたらしい。先ほどテニスを実地で行って来たばかりだというのにまだまだ体力が有り余っているようで、正直羨ましい限りだ。
 決着がつかなかった勝負の行方を、今度は室内で競うことにしたのだろうか。

『ファイト!』

 掛け声とともにスタートした試合。
 何もない空中に向かってパンチを繰り出したり、ひょいっと避けたりガードをしたり、はっきり言ってゲームをやっていないイギリスから見れば微妙に滑稽な光景が繰り広げられる。効果音があるのでシャドーボクシングとも違うわけだが、どうも違和感を持ってしまうのは仕方がないだろう。
 手軽に出来るゲームなのだと分かっていても、ジェネレーションギャップを感じずにはいられない自分にがっくりと肩の力が抜けた。年寄り扱いはされたくないが確かにこれはついていけない。

 ぐらぐらと左右に身体を振っては楽しそうにプレイする二人の気配に気を取られながらも、ふとキッチンから漂ってくる美味しそうな料理の匂いに空腹を刺激された。そう言えば今日は碌なものを食べていない。
 思わずふわぁと欠伸をもらしながら両目を閉ざし、背もたれに身体を預けるとあとでテムズハウスに連絡を入れなければと思った。調子が悪いからと早退したというのに、フランスまで来ていると知ったら上司たちは怒るだろうか。
 そうぼんやり思い浮かべたところで玄関のチャイムが鳴ったことに気付いた。奥からフランスが「悪い、出てくれ!」と叫ぶ声が聞こえたので席を立つ。ゲームに夢中なアメリカとロシアには期待するだけ無駄だろう。
 慣れ親しんだ、と言ってもいいくらいの他人の家の玄関に向かえば、ドア越しに「兄ちゃん俺だよ!」という元気で明るい声が聞こえた。
 すぐに鍵を外す。

「ボナセーラ! 今日はお招きありがとう!」

 扉を開ければ明るい言葉と共にばふ、と花束が顔面に押しつけられる。
 豊潤な薔薇の香りがふわりと周囲に広がった。

「お前、いきなり何すんだ!」
「あれ……イギリス!? うわ、ご、ごめんなさい!!」
「乱暴に扱ったら花が可哀相だろ。ほら、入れよ」

 花束を受け取りながら身体を横にずらせば、怒られると思ってびくびくしていたイタリアがぱっと笑顔になってスキップしてくる。その後ろにしかめっ面のドイツが続いた。「はしゃぎすぎるな!」と文句を飛ばしながらもあっと言う間にリビングに消えて行った背中を見送り、溜息をつきつつイギリスの方へ目を向けてくる。
 いつものことなので苦笑を浮かべて肩を竦めて見せれば、ドイツの引き結んだ唇にも同じように苦笑いがかすめた。

「悪いな、急に俺達まで混ざって。フランスの野郎は今手が離せないんだ」
「いやいい。大勢の方が賑やかで楽しいからな」
「俺はこいつを活けてくるから先に行っててくれ。あっちでアメリカとロシアがゲームしてるからお前も混ざってみたらどうだ?」
「遠慮しておく」

 言外にやれやれといったものを混ぜ込みながら、ドイツはそのまま廊下を進んでいった。イギリスはイタリアから受け取った薔薇を抱えて備え付けの棚から花瓶を取り出すと、洗面室へと向かう。
 瑞々しいオレンジとピンクがいかにもイタリアの好きそうな色合いで可愛らしい。そっと抱き締めてみれば優しい香りが鼻腔をくすぐり、今日一日で一番癒されるなぁと知らず幸せな笑みが浮かんだ。




* * * * * * * * * * * * * * *





 広々としたテーブルに白いレースのクロスを掛け、飾り付けた花瓶を置いてシルバーをセットしていく。
 すっかり西洋のマナーにも慣れた日本が、ナプキンを並べるイギリスの隣りでアイスパックラピッドアイスをボトルに巻き付けてからワインクーラーに入れていた。さらにその横ではドイツが磨き上げられたフルートグラスを丁寧に置いている。

「こちらの準備はこんなものでしょうか」
「あぁ、いいんじゃないか?」

 男だらけの実に色気のない食卓だが、社交界の堅苦しいパーティーとは違って気楽なものだ。着飾った女性たちをエスコートするのも嫌いではないが、こうやって仕事とはかけ離れた雰囲気で集まるのも悪くはない。

「あ! ちょっと待ってよアメリカ! もう一回! もう一回やろうよ!」

 後方から賑やかなイタリアの声が聞こえて来た。
 生身のスポーツと違ってテレビゲームでなら真っ向から対戦出来ると、アメリカに勝負を挑んだ彼だが結果は惨憺たるもののようだ。
 カウンター越しにリビングを覗き込めば、先程アメリカに見事勝利をおさめたロシアがニコニコしながらソファに座り、画面の前にはコントローラーを握りしめたイタリアが「ええーまたかい?」と言いつつも楽しげなアメリカに詰め寄っている姿が見える。

「イタリア君、アメリカ君は左からの攻撃に弱いよー」
「そうなの? グラッツェ、ロシア!」
「あ、偏った応援はずるいぞ!」
「アメリカ君、僕の応援欲しいの?」
「いや、寒気がするから遠慮しておくよ!」
「よーしアメリカ! 次は負けないからね!」

 ―――― などなど、和気あいあいといった雰囲気でなによりだ。
 ふと気付けば日本がどうも混ざりたそうな顔でうずうずしている。本来このゲーム機は彼の国民が開発したもので、オタクな日本もかなりやり込むくらい好きなのだろう。
 ドイツが「ここはいいから行って来い」と声を掛ければ慌てて気のない素振りをするものの、やはり意識は後ろに向けられているようだった。何度か逡巡している姿が気になって、イギリスも「行って来いよ」と背中を押せば、「じゃあちょっとだけ」と嬉しそうに隣の部屋へと移って行く。
 そしてロシアの隣りに腰かけると笑顔のままアメリカとイタリアのゲームに見入っていた。

「そう言えばお前達は今日、何か用事があって集まっていたのか?」

 日本がいなくなり二人きりになれば、間を埋めるようにドイツが不思議そうに尋ねてくる。
 そう言えばアメリカとイギリスだけならまだしも、今日は日本とロシアも一緒なのだ。確かに珍しいと感じることだろう。
 仕事でもないのにこうやって各国が集まることは稀なので、ドイツとしても気になるところのようだ。

「ちょっとテニスをしていたんだ」
「テニス?」
「あぁ。最近運動不足で頭痛が酷くてさ。昔みたいに外に出ることも少なくなったからだいぶ身体も鈍っていて嫌になる。明日はきっと筋肉痛だ」
「そうか」
「ドイツは何かスポーツはしているのか?」

 服の上からでも分かるほど彼はムキムキしている。羨ましいとは思わなかったが、どうしたって貧相な自分の体系と比べてしまうイギリスだった。
 自然と見上げる形になる視線を向ければ、生真面目な顔で深く頷かれる。

「日々の鍛錬は欠かしていないな」
「筋トレ?」
「あぁ。最近はイタリアを連れてよく水泳に行く。確か泳ぎはアメリカが得意だったな。お前はやらないのか?」
「俺は昔さんざん船から落ちたからもういい。思い出したくもねーよ」
「なるほどな」

 海賊時代の苦い経験を思い出して溜息混じりに言えば、分かったのかドイツは苦笑を浮かべて小さく相槌を打った。

「あと十分くらい煮込めばココットも完成だ」

 厨房からフランスが満足そうな顔をしながらエプロン姿で出て来た。オーブンの中のキッシュも順調に焼き上がっているし、このままいけばもう少しで美味い食事にありつけそうでほっとした。いい加減待ちくたびれた感が否めない。

「おっせーよ」
「まぁ待てって。じっくり煮た方がうまいんだからさ。それよりこれ、食うか?」

 ニヨニヨしながら冷蔵庫を開けフランスは青い丸みを帯びた箱を取り出した。白いラインの入るそれはフランス産超高級チーズのパッケージである。
 ワインの最高のお供にイギリスは思わずパチンと指を鳴らした。昔からチーズには目がないドイツもすぐに気付いて表情を緩める。

「『神の気まぐれ』か」
「そ。しかも出来たて。昨日直接貰って来たんだ」

 薄い紙に包まれたそれは、シャンパーニュ地方原産のカプリス・デ・デューと呼ばれる白カビチーズだった。カマンベールよりも匂いが控えめなので上質なワインの味を損なうことがない。まろやかでコクがあり、口溶けも最高。新鮮なミルクの甘味を味わえるため老若男女に広く好まれていた。

「いいワインにはいいチーズだからな。悪い、ドイツ切り分けて来てくれ」
「分かった」

 チーズを手渡されたドイツはそのままキッチンへと消え、イギリスは続いて出されたペッシュ・メルバ用のベリーを受け取ってその色身をチェックする。確か要望に応えて先週持って来てやってものだが、まだまだ新鮮で色艶がいい。
 妖精たちが丹精こめて摘んで来てくれただけのことはあった。

「フランボワーズはお前んとこのが一番うまいよな」
「ラズベリーだ」
「あーはいはい。でもビーフとポークだろ?」
「うるせぇ。他に足りないものはあるか?」
「いや、大丈夫だろ。ワイン冷やし過ぎるなよ」
「分かってる。なんだかいつもより大人数だからあっという間になくなりそうだよな」

 苦笑混じりに言えばフランスも頷いて、「久々に頑張ったんだぜ?」と厭味ったらしく自慢して来た。確かにこれだけいい年をした男連中が集まれば作る量も半端ないだろう。その点は分かっているので敢えて反論はしないでおく。

「ま、お前の価値なんてそれくらいしかねーんだから、いいんじゃねーの?」
「相変わらず口の減らない奴だな。でも今回は日本がいたから助かったぜ。手際はいいし一度教えればすぐ飲み込んでさっさと作ってくれる。ほんとどっかの誰かと違ってさすがだよな」
「黙れこの腐れワイン野郎!」
「自覚はあったんだな、さすがのお前でも」

 ゆるい顔でそう言ってのけるフランスの向こう脛を思い切り蹴りつけてやれば、悲惨な悲鳴と共に床に沈んだ。さらに追い討ちを掛けようかと思うがこのあとのことを思って放置することにする。
 相変わらず一言多い男だ。

 そうこうしているうちにチーズ片手にドイツが戻り、ココットの火を止めに慌ててフランスがキッチンへ駆け込めば、リビングからはイタリアのはしゃいだ声が響いてきた。
 どうやらアメリカに勝てたようで、様子を覗けば嬉しそうに日本に抱きついている姿が見える。恐らく有意義な助言でももらっていたのだろう。アメリカの「ずるいぞ日本!」という声が重なって聞こえてくれば、ロシアがまた混ぜっ返すようなことを言ってからかっているようだった。
 次々と運ばれてくる料理を並べながらイギリスは、この家のセラーが空になるまで今日は飲み明かしてやるぞと意気込みを新たにする。が、流石に明日はきちんと仕事に出なければならないので、あまり羽目を外さないようにしないとと一応自戒もした。あまり功を奏したことがないのでなんとも言えないが、放り出してきた仕事が気になるのも事実なのでたぶん今夜は大丈夫だろう。

「こうしているとG8みたいだよな」

 ふと何気にフランスがそう言えば、ドイツが納得したように頷いた。
 なるほど、あまりプライベートで集まることはないが、この顔ぶれはG8のそれと一致する。だからいつもより人数が多くてもそれほど違和感がなかったのだろうか。

「……8?」

 頭の片隅に何かひっかかりを感じてイギリスは一瞬動きを止めたが、割って入るようにアメリカが「もうお腹ぺこぺこだよ~」と情けない声を上げながらやって来たので思考が中断される。
 ま、いっかと軽く流して「手をちゃんと洗って来い!」と叫べば「君は本当に口煩いなぁ」とかなんとかブツブツ言いながらも、アメリカともどもイタリアたちも揃って洗面所へ消えて行った。
 美味しそうな料理を前にすれば誰もが子供のように素直になるということだろうか。 
 そして全員が食卓に着いたところでさっそくワインが注がれて、ようやく夕食にありつけるというわけだ。

「「Cheers!」」
「Salute!」
「A votre sante!」
「Prost!」
「Za vashe zdorovye!」
「乾杯!」

 各国それぞれの挨拶とともにグラスが合わさり、チンと涼やかな音色を立てた。
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