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 紅茶をどうぞ
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3. 心の中、何処を見ても、消えることない君の影 (英)
 アメリカが独立してから今日まで、ずいぶんと長い年月が過ぎてしまった。

 最近思い出すのは彼と出会った初めの頃のこと。
 小さな身体で怯えながら木陰に隠れて、そっとこちらを覗っていたアメリカ。
 大きな澄んだ空色の瞳と、柔らかな太陽の色の髪。その輝きの奥に無限の可能性を見てとって、俺はどうしようもない喜びと愛情を生まれて初めて感じることが出来た。

 それはとても暖かで優しく、まるで春の日差しのように美しかったから、きっとこの先も俺達は変わることなくずっとずっと一緒にいられるんだと信じて疑ってはいなかった。
 自分の過去を振り返って、あんなつらい目には遭わせたくないと抱き締めた幼子は、たぶんそれまで敢えて見て見ぬふりをして来た、己のあらゆる感情の集大成だったのかも知れない。
 こうして欲しいと願ったこと全部を、してやりたいに変えて、俺はアメリカを不器用ながらも出来る限り愛そうと思い、事実愛して来た。

 ある日、まっすぐな目をして子供は言った。
 「俺、先週はとても遠くへ行って来たんだよ。ずっとずっと遠くへ、あの森を越えて、あの川を越えて、たった一人で馬に乗って行って来たんだよ」
 思えばそれがはじまりだったのかもしれない。俺が持って来た物を大事そうに受け取り、俺と一緒に寝ることを楽しみにしていた子供は、いつしか大きくなってなんでも一人で出来るようになっていた。
 どんな困難も乗り越えるだけの知恵と力を身につけ、誰かの手を借りなくてももう十分好きなことが出来るようになっていたのだ。

 その事に気がついた時、俺は祝福なんてしてやらなかった。
 おめでとう、お前ももう一人前だな、なんて言わずに、心配だからあまり遠くへ行くなとか、勝手に行動するなとか、俺に黙っていなくなるなとか。
 今思えばなんて身勝手な言葉で相手を縛りつけようとしていたのだろう。
 広大な大地であるアメリカの、その自由な振舞いをちっぽけな島国である俺は分かってあげられなかったのだ。どこまでもどこまでも行きたいと願う彼の夢を、小さなかごの中に閉じ込めておこうとしたのだ。
 俺自身、広大な海原目指して旅立ったことも忘れて。

 思えばアメリカが独立したのはひどくまっとうなことだった。なるべくしてなった、時流という名の誰も抗えない必然だった。
 高みを目指して自由を求める彼を一体誰がとどめ得ることが出来ただろう。
 アメリカは今やこの地球上で一番大きな国となった。力も技術も経済も、群を抜いて彼は文字通り世界一になったのだ。
 そしてそんな彼の後姿を見るたびに、俺はいつだってこみあげる愛しさを全身で感じずにはいられなかった。
 はじめて出会った頃とはまるで違うけれど、俺は確かにアメリカを愛しているし、大切で仕方がないと思っている。

 あぁでも。
 心の中、何処を見ても、消えることない子供の影はいつまでもいつまでも俺の記憶を過去に縛りつけて離さない。
 抱き締めた小さな身体、そのぬくもりその重さ。腕に残る記憶、泣きたくなるほど幸福だった日々。
 もしあの頃に戻れるなら……俺は、きっとまた同じことを繰り返すだろう。

 それは振り切るにはあまりにも甘すぎる出会いだったのだ。
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