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史実ネタや戦争ネタを中心に書き連ねていきますので、歴史ネタが苦手な方はご注意下さい。あわせてR12(下)ネタも含みますのでその点もお気を付けて。
※ 更新停止中 ※
2009/04/12 日本 (sss / 西南戦争)
※ 日本と、実在の人物(明治時代)の会話です。苦手な方はご注意を。
「桜、咲きましたか?」
そう言って病床から庭を見つめる黒い眼差しに、日本は「ええ」と小さく頷いてから膝を進めた。先ほどこの家のご夫人に点ててもらったお茶を小さな盆に乗せ、枕元へと移動させる。
「また喧嘩をしてしまったんです」
そっと背に手を当てて痩せてしまった身体を起こしてやれば、彼はそんなことを言って憂いに満ちた顔で溜息をついた。
日本は微笑を浮かべたまま柱にもたれたその人に薄紫の茶碗を差し出す。済みませんと言って受け取る白い手が指先に触れれば、やはりいつものように少し冷たい。
「明治という時代が明けてからというもの、私はいつもあの人と喧嘩ばかりしてしまって。本当にどうしてなんでしょうね、私たち」
そうやってぽつりぽつりと省みる男を、日本はひどく優しく子供を見守るような眼差しで見つめた。外見年齢は彼の方がずっと年上に見えるが、『国』である日本から見ればそれこそ生まれたばかりのややこにも等しい開きがある。
「でも、好きなのでしょう?」
「嫌いではありませんね」
茶を一口飲んでから困ったように笑ってみせると、彼ははらりと落ちた髪を優雅な手つきでかき上げた。
「岩倉さんなんて夫婦喧嘩と称して苦笑いを浮かべておいででしたよ」
「またそんなこと言っているんですか。もしも私とあの人が本当に夫婦でしたら、さっさと三行半をつきつけてやりますよ」
「さてはて亭主関白はどちらの方やら」
日本はそう言ってすぐ傍にかけられた羽織を手に取りその肩にかけてやる。往年の剣士もさまざまな年月の果てにすっかり病を得て弱くなってしまっていた。けれどその志の高さや意志の強さは変わりがない。
日本人の持つあらゆる力が今、この時代を生きる全ての人間のうちに宿っていると日本は感じていた。
新しい夜明け、新しい彩り。
海の向こうから突如として現われた黒い大きな船によって、この国は麻のように乱れて争いを繰り返し、多くの涙と血が流れた。そして今ようやく沢山の黒い霧を払うかのように落ち着きを取り戻し始めている。
けれど新時代はそうやすやすと人々に安寧をもたらしはしなかった。不平等条約の下、海外諸国とのさまざまな軋轢にさいなまされながら彼らは、自らの国を守るために荒波を越えて欧州を目指しては挫折を繰り返す。
日本もまた、未だ混迷を極める『自分』という存在に戸惑いつつ、そのかたわらに常にあり続けた指導者達から名もなき民草の一人にいたるまで、この流れの中でもがき、苦しみ抜いた全ての人間たちの想いをただ黙って受け止めてきたのだ。
もう戻れないというのなら、せめて自分たちの足で前へ進まねばならない。
「そう言えば、港でお会いしたメリケンさんとエゲレスさん、どちらも綺麗なお二人でしたね」
「ええ、本当に」
「でもわが国が一番、美しい国であることに変わりはありません」
凛とした眼差しで確固たる自信を持ってそう言い切り、この新時代の幕開けを担った新政府の生みの親は胸を張った。その強さが眩しくて日本はぱちりと両目を開いて、それからゆるゆると込み上げてくる笑みに唇をゆるめていく。あぁ、やはりわが国の民は誰よりも誇り高い。刀を捨て侍であることをやめてもなお。
「今に西洋列国に追いついて見せますよ。私とあの人とで敷き詰めた砂利は、その上をゆく後身たちによって踏み固められ、それはそれは堅固なものとなるでしょう」
「楽しみですね」
「ええ楽しみです。我が国、我々の大切な大切なみどりご」
そう囁くように呟いてから、彼は手にした茶器を盆に戻して疲れたように深く息を吐き出した。今日はこれまで、とばかりに再び褥に横たわる身体を気遣うように、日本は手の平を額にそっと当てる。じわりと熱が伝わって来た。
「鹿児島の砲が南の空を赤く染める」
「…………」
「あの人は討つことを決めてしまった。そして私に行ってはならないと告げた」
でもこの戦いが終われば本当にこの国は生まれ変われるのだと、彼はそう言って静かに両目を閉ざすと眠りに落ちていくのだった。
日本もまた、身の内でざわめく無数の声に突き動かされるように立ち上がり、縁側から青く広がる空を見上げた。
南から届く報せに涙する日はもうすぐだろろうか。彼らの声はもう聞こえないのだと、そう鬱々とした気持ちで佇んでいると、ふいに吹き荒れた春の風に満開の桜の木が大きく揺れた。ざぁっと音を立てて舞い散る花びらが視界を薄紅色に染め上げ、そのあまりの鮮やかさに知らず心奪われる。
「花は桜木、人は武士」
謡うように紡げばよりいっそう美しい桜吹雪が目の前を埋め尽くしていった。
桜(染井吉野)と言ったら真っ先に思い浮かぶのがこの人。開花宣言にも使われる靖国の桜は彼が植えたものが最初になります。
2009/02/27 米英露 (sss / 朝鮮戦争3)
※ 朝鮮戦争中の戦闘機ネタです。くれぐれも戦争ネタが苦手な方はご覧にならないようお願いします。
夕焼けの朱に染まった空を見上げれば、鈍色の機体が流麗な軌跡を描いて滑走路に着陸する姿が見えた。
「やりましたね!」という弾んだ声に目を向ければ、普段はむっつりとしかめっ面を崩さない司令官が、珍しく喜色を浮かべてこちらを見ていた。今回の戦果がよほど嬉しかったのだろう。本国で待つ同志にも堂々と顔向けが出来るというものだ。
「ふふふ、アメリカ君の悔しそうな顔が見えるようだね」
楽しそうな声で応じてから、ロシアは長いマフラーを風になびかせたまま格納庫を目指す。次々と戻って来る戦闘機の傍に見慣れた黒髪の青年を見つけて手を振れば、気付いた彼が溜息混じりにこちらに歩み寄って来た。
「どう? 中国君。これで勝てそう?」
「まだ分からないある。でも戦況はだいぶ好転したあるね」
「それは良かった。これもイギリス君のおかげかな」
「ふん。あいつもたまには役に立つアヘン」
ぶっきら棒に言ってすぐに背中を向けてそのまま自国民の方へ向かう中国に、ロシアはそれ以上声を掛けることなく、慌ただしく行き交う兵達から離れて夕日の中に佇む。
中国は最初からロシアと手を組むことを良しとしなかったため、未だに機嫌が悪いようだ。けれどアメリカとイギリスが南についた以上、こちらとしては北を煽動して対抗しなければならない。この半島を彼らの好きなようにさせるつもりはなかった。
それにしても今回の新型戦闘機、あれはこの先随分と重宝することになるだろう。ドイツから手に入れた設計図は今後の航空史を塗り替えるような素晴らしいものだったし、独自の研究も順調に成果を上げてきている。何より心臓部であるエンジン開発をしなくて済んだというメリットはこの上ない恩恵をロシアにもたらした。
海戦を中心とした大艦巨砲の時代が過ぎ、陸戦での戦車や大砲、銃の時代を迎えた第一次世界大戦以降、火器の開発に余念のなかったロシアは、その反面ひどく航空技術が劣っていた。
ドイツやイタリア、イギリスやフランスが次々と新型飛行機を作り出す中、ついにアメリカの手によって生み出された戦闘機は先の大戦の勝利を完璧に決定づけた。
「B29」と呼ばれる天空の要塞はあらゆる戦況を塗り替え、自分を含めた連合国側に多大なる勝利をもたらし、これからの戦争の在り方を提示したと言っていいだろう。
だからロシアも終戦後、真っ先に新しい飛行技術を手に入れるために動いた。他国とはかなりの格差が生まれてしまっていたが、戦勝国としていくらでも世界情勢に口出しできる立場だったのをいいことに、アメリカ達同様ドイツの設計図を入手することに注視したのだ。
勿論それだけでは足りなかったので、肝心の動力部分の提供を何とはなしにイギリスに持ちかけてみたのだが、彼ははじめは不愉快そうな顔をしたものの、最終的にロシアの望むままエンジンの提供を受け入れてくれた。得られたらラッキーくらいの軽い気持ちで声を掛けたのに、なんとも意外な話である。
それもこれも当時イギリスの首相をつとめたアトリーという男のおかげだ。当時イギリスは社会主義政策の実現を目指しており、ロシアの上司であったスターリンとも懇意であった。
大戦による傷の深さからアメリカとイギリスのパワーバランスは崩壊し、その頃から米英間は険悪な様相を呈しはじめていた。莫大な借金を抱えるイギリスに対し、アメリカ側は様々な要求を推し進めたのだが、その筆頭が「マーシャル・プラン」であり、これによりイギリスの権威は完全に失われたと言っていいだろう。
そういった情勢下、労働党政権はこちらからの要望通り、当時世界最高峰の遠心圧縮式ターボジェットエンジン「ロールス・ロイス ニーン」を提供してくれた。このエンジンはWW2には開発が間に合わなかったが、のちに欧州はもちろんのことアメリカの戦闘機にも広く搭載されることになる。
ニーンのお陰で一からの開発に着手する必要のなくなったロシアは、国内の科学者を総動員して新型戦闘機の完成に全力を尽くした。そうして出来上がったのが今回投入した「MiG15」だ。
「今頃、すっごく悔しがっているだろうなぁ」
くすくすと笑い声をこぼしながら、ロシアはイギリスがいるであろう方角の空を見上げて目を眇めた。
世界の覇権はイギリスから離れた。移り変わる時代に合わせて今度はアメリカがその座についたが、ロシアを含め東欧はその流れを受け入れるつもりはない。対立の図式は着々と完成しつつあった。
「君とまた離れてしまうのはちょっと寂しいけど、グレートゲームはまだまだ終わらないよ。僕がちゃんと引き継いであげるね……イギリス君」
囁くように呟いた言葉はきっと、遠く離れた彼の心に直接届いたに違いない。
昔も今も、そして未来も。イギリスとはそういうふうに繋がっていくことをロシアは自然と感じ取っていた。
※近代史は軍事中心でしか調べていないので、非常に思考が偏っています。微妙な点は生ぬるい眼差しでスルーをお願いしますー。
2009/02/12 米英露 (sss / 朝鮮戦争2)
※ 朝鮮戦争中の戦闘機ネタです。くれぐれも戦争ネタが苦手な方はご覧にならないようお願いします。
「ほんっとーに今回はびっくりしたよ!」
傷ついた機体をなんとか着陸させたアメリカは、そう言いながらヘルメットを脱いで左右に大きく首を振った。
こめかみから流れ落ちる汗が彼の動揺を大きく知らしめていた。こういうことは珍しい。いつもは明るく陽気な彼の頬が若干強張って見えたのも、その心の内を知るには十分だった。
「君が来てくれて助かったよ、イギリス」
「いや……こっちの調査が不十分だった。もっと諜報活動に力を入れていれば」
悔しそうに唇を噛んで、イギリスは自身もフライトジャケットを脱いで腕に抱える。疲労が滲んだ横顔には未だ冷めやらぬ緊張がうかがえた。
「双子みたいにそっくりな機体だったぞ。やっぱりロシアかい?」
「あぁ。あいつもドイツんちから設計図持って行ったからなぁ。すっかり忘れていた」
「そうだね。でもさ、ひとつだけ疑問があるんだよね」
アメリカは長い指を顎に当てながら考えるように少し上目遣いをして見せた。その顔を見上げながらイギリスもまた首をかしげる。
「なんだ?」
「推力さ」
「推力?」
「そう。君も知っての通り俺のところはエンジン開発にかなりの力を注いで来ている。こう言っちゃなんだけど、ロシアの技術に引けを取るとは思わない。なのにあの新型戦闘機はさ、ものすごい速さで飛んだんだ」
「スピードの違いか……確かにそれはエンジンによるところが大きいな」
「だろう? でもこの短期間にそんな簡単に優秀なエンジンが開発出来るとは思えないんだよね」
「確かに。設計図を入手したのは同じ時期だったし……」
そこまで呟いて、イギリスはおもむろに言葉を切った。――― なんだかとても嫌な予感がする。
「エンジン……エンジン……ちょっと待てよ……」
「イギリス?」
戦闘機の心臓部とも言うべきエンジン技術は、各国が最も力を入れて開発している部分だ。アメリカはもちろんのことイギリスだってかなりの心血を注いできている。そう簡単に開発出来るようなしろものではなかった。
ロシアはもともと陸軍がメインだったせいか、航空技術は他国に完全に後れを取っていた。それなのに急にアメリカをもしのぐ技術を開発出来るだろうか。
もしやドイツから押収した設計図に、こちらでは入手出来なかった特別なものでも含まれていたのか……いや、そんなことは絶対にあり得ない。情報は細部にわたってこちらも完璧に把握していたはずだ。
とすると残りはひとつしか考えられない。
「あっ!!」
「イギリス? どうかしたのかい?」
「ア、アメリカ……」
急に顔色を変えてうろたえるイギリスに、アメリカが不思議そうに眉を寄せる。その向けられた青い目を見返す緑の目が、困惑した表情を浮かべたまま大きく揺れ動いた。
「あー……済まない」
「え?」
「俺の、せいだ」
「えええ?」
突然の言葉に瞬きを繰り返してアメリカは首をかしげる。一体なんだというのだろうか。
2009/01/12 米英露 (sss / 朝鮮戦争1)
※ 朝鮮戦争中の戦闘機ネタです。くれぐれも戦争ネタが苦手な方はご覧にならないようお願いします。
天空に煌く銀色の機体。
ふっくらとした涙滴型のコックピットに後退翼を備えたその戦闘機を初めて見た時、アメリカは味方の空挺部隊が到着したのだと思った。
なぜならその機体は自分が操縦する愛機とほとんど区別はなく、空中で目視出来る限りではその細部の違いまでは分からなかったのだ。ほぼ似通ったその姿に味方の兵達もすっかり騙されて、気付いた時には数機が撃墜されていた。
煙を上げて堕ちていく自国民の機を眼下に眺めやりながら、アメリカは両目を大きく見開いて信じられないといったふうに唇を噛み締める。すぐに無線を取って連合本部との連絡をつけるべくスイッチを押した。
「イギリス! 聞こえるかい!?」
「どうした?」
「味方が襲って来た!」
「はぁ? 何言ってんだお前……ちょっと待て。おい、レーダー確認しろ!」
アメリカの焦りように瞬時に危機を察したイギリスが、慌てて後方に指令を飛ばす。同時に諜報部との連絡に信号機を引き寄せた。素早く暗号を打ち込みながら無線に向かって叫ぶ。
「アメリカ! 今すぐ離脱出来るか?」
「今やってる! 相手はすごい早いんだ……くそっ」
ザッと雑音が入り無線が途絶える。すぐに通信は回復するがそれでも電波の乱れはいちぢるしいようで、遠くアメリカの声が掠れて聞こえるだけで何を言っているのかは聞き取れなかった。
その間もイギリスはレーダーを確認して味方の位置を把握し、その周囲に見慣れない機影があるのを確認する。嫌な汗が流れた。
何かがおかしい……そう思って食い入るようにレーダーを眺めれば、諜報部からの返信がすぐに入って来た。
「中国に……国籍不明の軍需物資が運びこまれた……? ……まさか」
新型戦闘機か?
直観的にそう思って椅子を蹴飛ばして立ち上がると、イギリスは緊張をはらんだ様子でこちらを見ている司令官に向かって叫んだ。
「オーストラリアをすぐに呼び戻せ! ロシアが動いた!!」
ハッと息を呑んですぐに敬礼をして飛び出す男の背を睨みながら、イギリスは自分も上着を脱いでフライトジャケットを羽織った。
万が一アメリカにもしもの事があればただでは済まない。なんとしてでも救出しなければ。
「オージーのSASが来たら動けるよう待機させとけ」
「貴方は!?」
「俺はアメリカの援護に出る。あいつは味方が襲って来たと言ったが……恐らくロシアの新型が送り込まれてきたに違いない」
「何故そう言い切れるのですか?」
「ドイツのデータだ。俺達もロシアも同じものを持っている。行きつく先は一緒だ」
そう言い捨てて素早く外へと躍り出る。
廊下を走りながら逸る気持ちを静めるように真っ直ぐ前を見据え、すぐに動かせる機体を確保するため格納庫を目指した。
第二次世界大戦後、連合国側は枢軸国であったドイツや日本をそれぞれが監視下に置くことになった。
日本はほぼアメリカ一手に任せることになったが、ドイツにはアメリカだけでなくイギリスとロシアも絡んで来ていた。その理由は主にドイツが有する高い技術にある。
大戦中に開発された高度な技術は、戦勝国であったアメリカ達にとっても喉から手が出るほど欲しいものであり、どの国も虎視眈々と狙っていたものであった。だから各国はドイツ国内の占領地から大量の航空機の先進的実験データを得たのだが、当時はロシアもアメリカ・イギリスと同陣営だったため等しくその情報を所有することになっていた。
ドイツの航空機設計はかなり独特なフォルムを有し、画期的とも言える技術が施されていたため、たとえ米露両国が別々に研究を進めていたとしても、辿り着いた結果が似たものになってしまうのはある意味仕方がないことと言える。
だからイギリスはアメリカからの通信で、真っ先にそのことを思い浮かべたのだ。どちらも同じデータと設計図を持っていれば、生まれ出る飛行機も必然的に似通うのは当たり前。アメリカが自軍の戦闘機と見間違えるのも無理はないだろう。
―――― だが、実はここにはひとつだけ大きな誤算があることに、まだイギリスは気付いてはいなかった。
▽ 2008年のネタ帳