紅茶をどうぞ
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「誤魔化す」続き 『幸福論』
ロシアとイギリスは元の通りにソファに腰掛け、並んで淹れ直したばかりの紅茶を楽しんでいた。
招かれざる客の来訪前と変らず、ゆったりとした時間に身をゆだねてしばらくぼうっとする。アメリカがいなくなると、途端に空気が静寂を帯びるから不思議だ。
「ねぇイギリス君。アメリカ君帰っちゃったけど良かったの?」
「せっかくお前と二人きりなのに、邪魔はされたくないからな」
「そっか」
カップを両手で持ちながらロシアは口元をほころばせて小さく頷いた。じわりと胸中に広がるのは覚えたばかりの新しい感情。イギリスと付き合うようになってからロシアの中にはじめて芽生えたほんのり暖かな感覚だ。
今まで一度だって感じたことの無いそれは、たぶんとても貴重で大切で、大事にしていかなければならないものなのだろうと、おぼろげながらそう思う。恐らく手離してしまったら最後、二度と手に入らないものに違いない。
南の国も向日葵もいいけれど、イギリスとこうやって二人で過ごす時間はもっと別の暖かさをロシアにもたらしていた。出来れば失いたくはない。
「嬉しいなぁ。イギリス君がアメリカ君よりも僕のことを選んでくれて」
「当たり前だろ? 俺達……、つ、付き合ってるんだし」
顔を赤らめて思わず口ごもるイギリスをそっと窺って、にこりと笑う。すると彼は照れくさそうにしてからこてんとロシアの肩に頭を乗せた。
預けられる重みが心地いい。
いい子でいれば大丈夫。
我侭は言わないよ、ちゃんと聞き分けのいい子でいれば嫌われないで済むはずだから。
怒らないで、置いていかないで。
ずっとずっと傍にいてよ。
ロシアはカップをサイドテーブルに置くと、イギリスの小さな頭にそっと手を伸ばした。前髪を梳き、両目を閉ざす彼の白い頬を柔らかくなぞれば、くすぐったそうに肩を竦められた。そんな仕草ひとつとってもなんだか馬鹿みたいに幸せに感じられた。
二人とも、元来他人からの接触を好まない性質だ。不用意に触れる手を拒み、近付く気配を厭うのは昔から馴染んだ行為だったのだが、いつのまにかこうしてお互いの距離は驚くほど近付いてしまっている。
「お前さ、アメリカに嫉妬してた?」
ふいに上目遣いでイギリスがそんなことを聞いた。え?と目を丸くするロシアに悪戯っぽく笑いかけて、彼はゆっくりと額を肩口に押し当ててくる。珍しい行為にちょっとだけ戸惑いながら、そうかな、と返す。
「確かにイギリス君はアメリカ君が一番大事だし、一番好きだから、羨ましく思うこともあるけれど」
「大事だし好きだけど一番じゃない」
「そうかなぁ。別に僕はそれでもいいと思ってるよ。変らないものがあるのって、凄いことだと思うから」
なんでもくるくる色を変えて形を変えてしまう世界の中で、ずっと同じ、変らずにそこにあり続けるものは珍しい。
もちろん毎年冬将軍がつれてくる冷たい雪にも変りはないけれど、そうではなくて、もっと違うものがそこにはあった。
「アメリカ君のことは大嫌いだし、アメリカ君を好きなイギリス君も嫌いだけど、君が彼と一緒にいるのを見るのは好きなんだよね」
「……意味分かんねぇ」
矛盾した言葉にイギリスが怪訝そうに眉をひそめれば、ロシアは小さく笑って、それから身を捩るともたれかかっていたイギリスをぎゅっと抱き締めてそのまま引き寄せた。
うぉ!?と短い悲鳴を上げる彼と共にソファに倒れ、自分の上に乗り上げたその身体を下から両腕を回して絡め取る。
二人を見ていると南の国の青空と、金色の陽光と、優しい緑の大地を思い浮かべてしまう。
アメリカにもイギリスにも雪は降るし、国土の中には極寒と呼ばれる地域が存在しているので、決して暖かいだけでないことなどわかっている。けれどそれとは違う活気や底抜けの明るさや強さを、昔から眩しく思う国は少なくない。
傲慢で残酷で、強靭な。
「ま、君たちが揃うといつだって厄介なんだけどね」
「厄介ってなんだよ厄介って!」
「えー、自覚ないの?」
「お前には言われたくねーっての!」
イギリスの手が伸びてロシアの頬を摘む。うにーっと伸ばされて頭が傾けば、面白そうに笑われた。
そんな彼の普段とは違った表情が好きだと思う。眉間に深い皺を刻んでいつも不機嫌そうにしているのとは違って、今は明るく落ち着いた顔をしている。彼が自分の前でこんなにも態度を軟化させる日が来るなんて、一年前では考えられないことだった。
こういう変化は嬉しいし願ったり叶ったりだ。
ロシアはイギリスの首に手を添えて、そっと唇を寄せた。直ぐに気付いてイギリスは両目を細めて顔を落としてキスをしてくれる。
少しだけ冷たい感触と、滑らかで柔らかな舌の動き。お互いの呼吸を合わせるように重ね合わせれば嬉しそうにイギリスが笑った。
キスが好きな彼はこうやってロシアが求めれば喜んでくれる。もっともっと欲しいとねだるように両手が襟首を掴んだ。
そうやってしばらく馬鹿みたいに口吻けを繰り返せば、どちらともなく上がった吐息に熱が篭る。
「うん、やっぱりイギリス君のこと大好きだなぁ、僕」
抵抗の無い細い腰を引き寄せて密着すれば、どんな暖房器具よりも暖かな体温が伝わって来た。寒くて凍えてばかりいた過去の自分にはなかったぬくもり。
誰でもいいわけではない ―――― とは言えないかもしれない。
たまたまイギリスだったという、それだけのことかもしれない。
はじめは明確に嫌いだった。こんな不愉快な存在があるなんて、と思っていたこともある。いつも邪魔ばかりしてロシアを平気で傷つけ、ことごとく敵対して来た国なのだから、好きになる要素など微塵も無いはずだった。
それがいつの間にかこんなにも不思議な関係になっているのだから、本当に世界は飽きないものだと思う。
唯一ではない、ただひとつでもない。彼だけがいればいいとは言えない。
けれど出来ればこの先もずっとこんなふうに続いていければいいと、漠然と思ってしまうのもまた、自身の中の変化のひとつなのだろうか。
「別に一番じゃなくてもいいんだ」
「俺は一番じゃないと嫌だな」
「イギリス君らしいね。なんでも一番が好き?」
「アメリカほどじゃないけどな。お前だって普段はそうじゃないか。なのに俺の時だけ違うのか?」
少しだけ拗ねたようなイギリスの頬に唇を当て、続いてぐりぐりとその薄い胸に額を押し当てればくすぐったそうに笑われる。
「な、なんだよ」
「じゃあさ、僕のものになってよ」
「もうなってる」
『国』としては無理でも、『個人』としてはお互いがお互いのものだと、そう言って約束を交わしたことは今でも覚えている。
たぶんそれが自分達に出来る最大限の譲歩であり、それ以上のものはきっとありえないんだと思う。
「ずっとずっと一緒にいてよ」
「ああ。お前も俺から離れるな」
「この先、変ってしまっても覚えていてね」
「忘れない。俺の執念深さは知ってるだろ」
「うん、そうだね」
くすっと笑ってもう一度キスをする。
甘えて、甘やかしてもらって、抱き締めあって、頭を撫でてもらって。キスを交わして繋がって。
それが一番欲しかったもので、一番嬉しかったことで、一番楽しい記憶になる。変りゆく世界の中で変らずに持ち続けた願いがようやく叶ったのだ。
なんでもロシアになればいいと思っていた時とは違う、『国』や『上司』とはまったく関係のない、自分だけが抱き続けていた願いや望みがここにはある。
それを与えてくれたのはイギリスだけだった。
たとえ寂しがり屋な二人が、互いの寂しさを埋めあう為だけに作り上げた関係だったとしても。
「大好きだよー」
「…………」
「イギリス君は? ねーねー、僕のこと好き?」
そうやって問いかければイギリスは顔に血の気を登らせて、それからバチンと音が出るくらい強く額を叩いて来た。
痛っ!と悲鳴を上げるロシアの頬を再び伸びるくらい指で摘んで、彼は「今更分かりきったことを聞くな!」と怒鳴る。
けれどすぐに溶けそうなくらい相好を崩して、翡翠色の瞳がとろりと潤んだ。アメリカはもちろんのこと日本やフランスなどには決して見せたことがない、艶を帯びたその顔はひどく大人びて見えた。
そして楽しげに囁かれた言葉は。
「バーカ、愛してるんだよ」
泣きたくなるくらい優しい嘘だった。
招かれざる客の来訪前と変らず、ゆったりとした時間に身をゆだねてしばらくぼうっとする。アメリカがいなくなると、途端に空気が静寂を帯びるから不思議だ。
「ねぇイギリス君。アメリカ君帰っちゃったけど良かったの?」
「せっかくお前と二人きりなのに、邪魔はされたくないからな」
「そっか」
カップを両手で持ちながらロシアは口元をほころばせて小さく頷いた。じわりと胸中に広がるのは覚えたばかりの新しい感情。イギリスと付き合うようになってからロシアの中にはじめて芽生えたほんのり暖かな感覚だ。
今まで一度だって感じたことの無いそれは、たぶんとても貴重で大切で、大事にしていかなければならないものなのだろうと、おぼろげながらそう思う。恐らく手離してしまったら最後、二度と手に入らないものに違いない。
南の国も向日葵もいいけれど、イギリスとこうやって二人で過ごす時間はもっと別の暖かさをロシアにもたらしていた。出来れば失いたくはない。
「嬉しいなぁ。イギリス君がアメリカ君よりも僕のことを選んでくれて」
「当たり前だろ? 俺達……、つ、付き合ってるんだし」
顔を赤らめて思わず口ごもるイギリスをそっと窺って、にこりと笑う。すると彼は照れくさそうにしてからこてんとロシアの肩に頭を乗せた。
預けられる重みが心地いい。
いい子でいれば大丈夫。
我侭は言わないよ、ちゃんと聞き分けのいい子でいれば嫌われないで済むはずだから。
怒らないで、置いていかないで。
ずっとずっと傍にいてよ。
ロシアはカップをサイドテーブルに置くと、イギリスの小さな頭にそっと手を伸ばした。前髪を梳き、両目を閉ざす彼の白い頬を柔らかくなぞれば、くすぐったそうに肩を竦められた。そんな仕草ひとつとってもなんだか馬鹿みたいに幸せに感じられた。
二人とも、元来他人からの接触を好まない性質だ。不用意に触れる手を拒み、近付く気配を厭うのは昔から馴染んだ行為だったのだが、いつのまにかこうしてお互いの距離は驚くほど近付いてしまっている。
「お前さ、アメリカに嫉妬してた?」
ふいに上目遣いでイギリスがそんなことを聞いた。え?と目を丸くするロシアに悪戯っぽく笑いかけて、彼はゆっくりと額を肩口に押し当ててくる。珍しい行為にちょっとだけ戸惑いながら、そうかな、と返す。
「確かにイギリス君はアメリカ君が一番大事だし、一番好きだから、羨ましく思うこともあるけれど」
「大事だし好きだけど一番じゃない」
「そうかなぁ。別に僕はそれでもいいと思ってるよ。変らないものがあるのって、凄いことだと思うから」
なんでもくるくる色を変えて形を変えてしまう世界の中で、ずっと同じ、変らずにそこにあり続けるものは珍しい。
もちろん毎年冬将軍がつれてくる冷たい雪にも変りはないけれど、そうではなくて、もっと違うものがそこにはあった。
「アメリカ君のことは大嫌いだし、アメリカ君を好きなイギリス君も嫌いだけど、君が彼と一緒にいるのを見るのは好きなんだよね」
「……意味分かんねぇ」
矛盾した言葉にイギリスが怪訝そうに眉をひそめれば、ロシアは小さく笑って、それから身を捩るともたれかかっていたイギリスをぎゅっと抱き締めてそのまま引き寄せた。
うぉ!?と短い悲鳴を上げる彼と共にソファに倒れ、自分の上に乗り上げたその身体を下から両腕を回して絡め取る。
二人を見ていると南の国の青空と、金色の陽光と、優しい緑の大地を思い浮かべてしまう。
アメリカにもイギリスにも雪は降るし、国土の中には極寒と呼ばれる地域が存在しているので、決して暖かいだけでないことなどわかっている。けれどそれとは違う活気や底抜けの明るさや強さを、昔から眩しく思う国は少なくない。
傲慢で残酷で、強靭な。
「ま、君たちが揃うといつだって厄介なんだけどね」
「厄介ってなんだよ厄介って!」
「えー、自覚ないの?」
「お前には言われたくねーっての!」
イギリスの手が伸びてロシアの頬を摘む。うにーっと伸ばされて頭が傾けば、面白そうに笑われた。
そんな彼の普段とは違った表情が好きだと思う。眉間に深い皺を刻んでいつも不機嫌そうにしているのとは違って、今は明るく落ち着いた顔をしている。彼が自分の前でこんなにも態度を軟化させる日が来るなんて、一年前では考えられないことだった。
こういう変化は嬉しいし願ったり叶ったりだ。
ロシアはイギリスの首に手を添えて、そっと唇を寄せた。直ぐに気付いてイギリスは両目を細めて顔を落としてキスをしてくれる。
少しだけ冷たい感触と、滑らかで柔らかな舌の動き。お互いの呼吸を合わせるように重ね合わせれば嬉しそうにイギリスが笑った。
キスが好きな彼はこうやってロシアが求めれば喜んでくれる。もっともっと欲しいとねだるように両手が襟首を掴んだ。
そうやってしばらく馬鹿みたいに口吻けを繰り返せば、どちらともなく上がった吐息に熱が篭る。
「うん、やっぱりイギリス君のこと大好きだなぁ、僕」
抵抗の無い細い腰を引き寄せて密着すれば、どんな暖房器具よりも暖かな体温が伝わって来た。寒くて凍えてばかりいた過去の自分にはなかったぬくもり。
誰でもいいわけではない ―――― とは言えないかもしれない。
たまたまイギリスだったという、それだけのことかもしれない。
はじめは明確に嫌いだった。こんな不愉快な存在があるなんて、と思っていたこともある。いつも邪魔ばかりしてロシアを平気で傷つけ、ことごとく敵対して来た国なのだから、好きになる要素など微塵も無いはずだった。
それがいつの間にかこんなにも不思議な関係になっているのだから、本当に世界は飽きないものだと思う。
唯一ではない、ただひとつでもない。彼だけがいればいいとは言えない。
けれど出来ればこの先もずっとこんなふうに続いていければいいと、漠然と思ってしまうのもまた、自身の中の変化のひとつなのだろうか。
「別に一番じゃなくてもいいんだ」
「俺は一番じゃないと嫌だな」
「イギリス君らしいね。なんでも一番が好き?」
「アメリカほどじゃないけどな。お前だって普段はそうじゃないか。なのに俺の時だけ違うのか?」
少しだけ拗ねたようなイギリスの頬に唇を当て、続いてぐりぐりとその薄い胸に額を押し当てればくすぐったそうに笑われる。
「な、なんだよ」
「じゃあさ、僕のものになってよ」
「もうなってる」
『国』としては無理でも、『個人』としてはお互いがお互いのものだと、そう言って約束を交わしたことは今でも覚えている。
たぶんそれが自分達に出来る最大限の譲歩であり、それ以上のものはきっとありえないんだと思う。
「ずっとずっと一緒にいてよ」
「ああ。お前も俺から離れるな」
「この先、変ってしまっても覚えていてね」
「忘れない。俺の執念深さは知ってるだろ」
「うん、そうだね」
くすっと笑ってもう一度キスをする。
甘えて、甘やかしてもらって、抱き締めあって、頭を撫でてもらって。キスを交わして繋がって。
それが一番欲しかったもので、一番嬉しかったことで、一番楽しい記憶になる。変りゆく世界の中で変らずに持ち続けた願いがようやく叶ったのだ。
なんでもロシアになればいいと思っていた時とは違う、『国』や『上司』とはまったく関係のない、自分だけが抱き続けていた願いや望みがここにはある。
それを与えてくれたのはイギリスだけだった。
たとえ寂しがり屋な二人が、互いの寂しさを埋めあう為だけに作り上げた関係だったとしても。
「大好きだよー」
「…………」
「イギリス君は? ねーねー、僕のこと好き?」
そうやって問いかければイギリスは顔に血の気を登らせて、それからバチンと音が出るくらい強く額を叩いて来た。
痛っ!と悲鳴を上げるロシアの頬を再び伸びるくらい指で摘んで、彼は「今更分かりきったことを聞くな!」と怒鳴る。
けれどすぐに溶けそうなくらい相好を崩して、翡翠色の瞳がとろりと潤んだ。アメリカはもちろんのこと日本やフランスなどには決して見せたことがない、艶を帯びたその顔はひどく大人びて見えた。
そして楽しげに囁かれた言葉は。
「バーカ、愛してるんだよ」
泣きたくなるくらい優しい嘘だった。
>>忍野さま
このたびは素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
すっかりお誕生日を外してしまいましたが、愛だけはめいっぱい詰め込んでみましたので、お気に召して頂けましたら嬉しく思います。
個人的にこの二人はどこまでもラブラブでありながら、最終的な部分ですれ違っているのが萌えだったり。なのでそこはかとなく甘くなりきれないんですが、いつか底抜けに明るい話も書いてみたいです。
去年に引き続き今年も露英三昧な一年になると思いますが、どうぞ宜しくお願いしますv
リクエスト、ありがとうございましたー!
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