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 紅茶をどうぞ
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Bird kiss
 防音ガラスで仕切られた薄暗い射撃ルーム内に、サイレンサーなしの銃声が耳を貫くように響き渡る。
 まっすぐ前方を見つめていたアメリカは、人の気配に気付いて銃を構えたまま後ろを振り返った。

「イギリス?」

 思わぬ客人に驚いたように目を丸くする。
 相変わらずかっちりとした高級そうなオーダーメイドスーツを身にまとったイギリスが、これまた相変わらずな仏頂面で立っていた。大きめのアタッシュケースを持っているところを見れば仕事帰りなのだろう。アメリカがここにいると聞いて立ち寄ったに違いない。
 それ自体はとくに珍しい事ではなかった。
 だが今日の彼は外で待つこともなく射撃室に入り、あまつさえ自前のリボルバーを携えている。がっちりとした銃身は使い込まれた年代物だが手入れが行き届いており、鈍い光沢を放ったまましっくりと彼の手におさまっていた。普段はあまりお目にかかれない姿だ。

 イギリスは日常的に銃を携帯する習慣がない。米国と違って英国は銃規制が厳しく、その取締りの強硬なところは世界でも類を見ないほどである。警察ですら銃を持っていなかったりするのだ。もちろんあらかじめ免許を取得してしかるべき所に登録をしていれば所持する事は可能だが、その手続きも煩雑極まりない。
 イギリスの立場なら拳銃の一丁や二丁持ち歩いていたからと言って咎められるようなことはないだろうが、国の法律に従ってか彼自身もWW2以降、平時に携えることはなくなっていた。
 だからアメリカも彼の愛銃を見るのは本当に久しぶりだった。
 珍しい事もあるものだ。



 イギリスはちらりとアメリカを横目で見遣ると、すぐに隣のレンジに立ち前を向いた。ゆっくりと片手で銃を構え撃鉄を起こすと、手許のスイッチを押す。
 自動で出てくる的を見据えた彼の瞳の色に思わず見惚れていると、一瞬だけその白い指先が動いた。
 鳴り響く銃声、一発、二発、三発…………六発連続で放たれる。
 どれも寸分たがわず的の中央を貫いており、思わず口笛を吹いてしまいそうなくらいの腕前だった。

「さすがだねぇ」

 いつもは相手をからかう言葉しか口にしないアメリカも、この時ばかりは感嘆の声を上げた。イギリスの銃の腕前は元から知ってはいるが、改めて間近で見るとその正確さは驚くほどだ。
 ヘッドセットなしだったので少々耳鳴りがするものの、手馴れた様子でくるりと銃を下ろすとイギリスはにやりと笑う。そしてすいっとしゃがみこみ、足元に置いたアタッシュケースを引き寄せて蓋を開いた。

「こいつを試したくて、持って来た」
「へぇ」

 仕事用の書類やノートパソコンが入っているとばかり思ったそれには、黒塗りのライフルが納められていた。
 コンパクトにばらされていたそれらを組み合わせ、イギリスは立ち上がりながら楽しそうに銃身を撫でる。真新しいそれを前に素直に喜色を浮かべる彼を見て、アメリカは案の定からかいたくなってしまった。

「L85はやめたんだ?」
「……うるせぇ」

 英国製アサルトライフルの失敗作を持ち出して含み笑いをもらすと、こればかりは反論の出来ないイギリスが、うっすらと赤くなって睨みつけてきた。
 配備されてすぐにトラブル続出、なおかつ改良を加えた新型さえもまるで使い物にならなかったという、ある意味伝説的な駄作銃である。いくらイギリスでも強くは出られなかった。

「あのじゃじゃ馬っぷりがいかにも君らしくて笑えたのに。装填ごとにジャムるなんて、銃までツンデレってやつなんだね。さすがだよ!」
「放っとけ!!」

 噛み付くように叫んでから、気を取り直してイギリスはマガジンを装着させた。重さや何かを確かめるように何度か構えて、それから固定させるとスコープを覗く。
 狙い定めて引き金を引くと小気味良い音が響き、薬莢が軽々と宙を舞った。

「へぇ、いいなこいつ。なんだかんだでやっぱ銃はお前んとこのだよなぁ」
「君の変態兵器に比べればかっこいいのは当たり前だからね」
「言ってろ。扱いやすさならロシアの方が上じゃねーか」
「とっくにうちのM16の方が性能も使いやすさも追い抜いてるよ。まぁ確かにAK-47はいいライフルだけどね、古いよ。古すぎるよ。まるでどこかのぷかぷか浮いてる島国みたいだよ」
「うるせぇ!」

 こめかみに青筋が浮きそうなほどイギリスが睨みつけてくる。が、アメリカはどこ吹く風でさらりと無視をすると、興味深そうにイギリスの持つライフルに視線を転じた。

「ところでこれ、どうしたの?」
「あ……うちじゃこいつ扱ってないだろ? ちょっと触りたいって言ったらお前のところで撃つならいいって言われたんだ。持って帰れないからここに置いとくな。ついでに登録もしておいてくれ」
「いいけど。……じゃあさ、イギリス」
「ん?」
「そのリボルバーちょうだい!」

 まるで子供がおねだりをするような口ぶりで、目を輝かせるアメリカ。
 近ごろではすっかり鳴りをひそめてしまった「可愛いアメリカのお願い」に、不意打ちを受けたイギリスは馬鹿みたいにときめきを隠せなかった。
 彼がこうしてイギリスに何かを求めてくるのは本当に久しぶりの事だった。何百年ぶりだろう。だが昔と違って要求しているものは玩具ではなく、しかもイギリスが大事に手許に置いておいたものだ。愛着もあるし、親しんできた分使いやすくもある。おいそれと他人に譲渡出来るものではない。
 しかし。親馬鹿ぶりを発揮してイギリスが頷くまで10秒はかからなかった。

「しょ、しょーがねーな! 大事にしろよ!」
「君って本当にちょろ……単純だね!」
「喧嘩売ってんのか!?」
「ははは、当たり前じゃないか。そんなことより、一応護身用に新しい銃、あげようか?」
「ったくこいつは……。なんだ、いい銃でもあるのか?」

 ぶつぶつと文句を言いつつも気になるのか、イギリスが興味深そうな目を向けてくる。
 規制が厳しいとはいえ、もともと銃はヨーロッパから広がったものだ。中でもライフルは英国がどこよりも先にその発展に貢献してきたとも言える。数多くの戦争を経験してきたイギリスにとって、好悪は別にして銃は馴染み深いものだった。
 それにWW2開戦からは護身の為に拳銃を持つようになり、以来大戦中はずっと身に着けていた。今でこそほとんど手にする機会がなくなったとは言え、立場上丸腰ではいられない時だってある。そんな時に、手馴れた銃のひとつもなければ不都合を感じたりもするだろう。

「仕方がないから君にはこの子をあげるよ」
「え、だってこれは」
「いいからいいから」

 アメリカが差し出したのは、彼自身が愛用してきた銃だった。
 イギリスは驚いたように目を見開いて、続いて眉を顰める。気まずげに差し出されたものを見るが、そんなことには頓着せずに、アメリカは彼の手に自分がこれまで使ってきたS&Wを手渡した。

「俺を守ってきた銃だよ。とってもいい子なんだ」
「…………」
「イギリスは味音痴だけど銃の扱いには長けているから、俺と同じように彼女が守ってくれるよ、きっと」
「味音痴は余計だ」

 むっとしながらもイギリスは自分の手に置かれた拳銃を見つめた。
 自身が愛用していたものとは違うが、世界に誇るS&Wの名器。長いこと使い込まれてはいるものの、大切にされていたのがよく分かる、いい銃だった。

「ミリタリー&ポリスか……懐かしいな」
「うん」
「お前の彼女、か」

 ふっとイギリスの口元に笑みが浮かぶ。彼は貰った銃を丁寧な手付きで撫でて、自然とそれを顔の高さまで持ち上げた。
 何をするんだろうと不思議そうに見守るアメリカの目前で、彼は恐らく……そう、絶対に無意識にだろう、ひどく柔らかな眼差しで唇を寄せたのだ。

 冷たい銃身へのバードキス。
 そして。




 
「アメリカを守ってくれてありがとうな」

 呟やかれたその言葉に込められた、溢れるほどの愛情。






 たまらないほどの恥ずかしさに、一瞬アメリカの呼吸が止まった。全身の血液が一気に上ってくるのを感じる。
 思わず慌てて口元を押さえると、アメリカはその場に座り込んでしまった。

「ん? どうした?」

 イギリスが不思議そうに問い掛けてくるが、まともに言葉が返せない。


 保護者面されても鬱陶しいだけなのに。
 いい加減にして欲しいのに。
 俺はもう子供じゃないのに。
 それなのに、それなのに、それなのに。
 

 どうしていつまでも勝てないんだろう。
 何故、こんなにも嬉しいんだろう。








「頼むから銃とセックスはしないでくれよ?」
「はぁ????」

 思わずついた悪態に、案の定イギリスは怒鳴り声を上げた。
 その声を聞きながらアメリカは彼に見えないように俯いたまま笑った。

 

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