紅茶をどうぞ
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
それでも君が好き
価値観が違いすぎる、と思う。
「アメリカ」は「イギリス」が育てた。
そのことに異議を差し挟む国はほとんどないと言っていいだろう。
事の良し悪しはさておき、確かにアメリカを育てたのはイギリスだ。それは間違いない。
言葉も文化も習慣も、ほとんどがイギリスから引き継いだものであり、数百年の時を経て独自に変化を遂げていても、アメリカという国の根幹に関わる部分では、イギリスは無視の出来ない存在であった。
―― だが、二人の価値観はあまりに違いすぎる。
たとえば物事に対する見解の違いや姿勢、対応にいたるまで意見が噛み合わないことは昔から多かった。
ささいなことでも言い争ってしまうくらい物の見方が違う。
背負う歴史の重さ、現代に至るまでの過程、さまざまなしがらみ。「年齢」というものがそもそも違うのだから価値観の相違は実に当たり前のことであり、特別不思議なことではなかった。
けれど付き合い始めるとそうも言ってはいられなくなる。
そもそも過剰な干渉を嫌ったからこそ、一度は大きな戦いに発展してまでアメリカはイギリスからの独立を決意し、果たしたのだ。
今更都合良くお互いの性格や考え方を変えることは出来なし、変える気もない。そうやって妥協や歩み寄りのないままこれまで二人は言い争いを続けてきていた。
だがお互いが「恋人同士」となると話は違ってくる。共にいる時間を増やせば増やしただけ相手を思いやる気持ちと許容する心が必要だ。それをなくして手を取り合うことは出来ない。
伝えるべきことは伝え、耐えるべきところは耐えていこうと心に固く誓ったのだが……元来二人とも我慢強い性格ではなく、最初はそれなりにうまくいっていたものの、最近ではかなりギスギスとした雰囲気になることも少なくなかった。
口喧嘩は付き合う前からしょっちゅうだったが、このところは疲れたように溜息をつくイギリスに対して、アメリカも言葉を切ることが多くなり、何でも言いたいことを言い合える仲というよりもむしろ、言っても無駄といった雰囲気が漂っていた。
ある時イギリスは言った。
「お前は俺の何が好きで恋人同士になりたいなんて思ったんだ?」と。
こういう話題が出るようになってはもう、ドラマや小説の世界では破局間際だ。まるで熟しきった果実の成れの果てのような状態で、アメリカはぼんやりと考える。
もともとアメリカはイギリスに対して特別な想いを抱きやすい環境にいた。幼い頃から多感な青年時代まで、彼はいつでもイギリスの影響下にあり、ありとあらゆる面でイギリスを意識してきた。理想であり憧れであり頼れる兄として見てきたのだ。
独立後も両国の親密さは他国に比べて明らかに深かったし、技術や情報の交換はもちろんのこと、貿易から軍事、経済まで足並みを揃えることばかりである。言葉も同じ英語を話すので意思の疎通が図れないということもなく、結局はいつも一緒にいるのだった。
そしてイギリスはいつだってアメリカを気に掛け、なにくれとなく手を伸ばしてくるものだから、自然とアメリカはイギリスと他国との違いを感じるようになり、彼は自分にとって特別なんだと想うようになっていった。
そしてその想いに子供の頃からの思慕の念や複雑な関係が加味され、いつしか「恋」などという恥ずかしいものへと変化を遂げていったわけだが、イギリスもまた自分のことを誰より好きであるに違いないという確信があったことも、余計に感情を加速させたと言っていいだろう。
イギリスがアメリカを好きなことは周知の事実だ。だからアメリカはヒーローらしくカッコ良くバシっとキめながら、イギリスに告白をした。もちろん「反論は許さないぞ!」という言葉を添えるのも忘れずに。
イギリスは最初、目を丸くしてひどく驚いてから、すぐに冗談はやめろと不機嫌そうにそっぽを向いた。素直でない彼の態度に笑いながら、その頬を両手で包んで自分の方へ強引に向けると、アメリカは小さく口吻けを落としながら心を込めて「大好きだよ」と繰り返し伝えた。それこそ何度も、何度も。
そのうちイギリスはぼろぼろと泣き出しながら観念したように、「俺も好きだ……」と頷いて、見事二人は恋人同士となったわけだ。
そういう経緯から付き合い出した二人は、けれどとにかくなにからなにまでちっとも噛み合わなかった。
服装や身につける小物、手にするバックや手帳などから、家具や家電、細々とした日常品に到るまで、アメリカとイギリスはおおよそ「趣味が合う」とは言いがたかった。
なんでも新しいものがいいと主張するアメリカと、古いものを大切に大切に使い続けるイギリスとでは根本的かつ決定的に違うのだ。
休日の過ごし方にも大幅に差があり、アウトドア派で常に家に落ち着かないアメリカと、のんびりガーデニングをしたり読書をすることが好きなイギリスとでは、どうしたって意見の衝突は免れない。
唯一共通する点は味音痴というところだけなので、食事はそれなりに上手くいくが、時々振舞われるイギリスの手料理に文句をつけたことも一度や二度ではなく、その都度激しい口論を交わしては胸中にもやもやとしたものを抱えて、別々に一夜を過ごすことも珍しくはなかったのである。
それでも最初の頃はなんだかんだで上手くやって来た。世話焼きなイギリスはアメリカが拗ねればいつも先に折れてくれ、気遣うようにコーヒーを淹れてくれたり、アイスクリームを買って来てくれたりする。アメリカの方もイギリスが怒って背を向ければ、その身体にそっと腕を回し抱きしめながら許しを請うたりした。
いわゆるご機嫌取りもひとつのスキンシップだと思っていたところがあり、付き合い始めた恋人同士には甘ったるいじゃれ合いに等しかった、……のだが。
それが幾度も重なり、呑み込んできた不満やチリチリとした苛立ちの数々が積もり積もった頃、二人はどうしようもないくらい遣る瀬無さを感じるようになっていた。
そしてとうとう言われたのだ。
「お前は俺の何が好きで恋人同士になりたいなんて思ったんだ?」と。
イギリスは決して怒ってはいなかった。絶望もしていなかった。ただ静かな表情で穏やかに尋ねてくる。
そのいつにない達観した態度に、アメリカもまた不思議なほど落ち着いていた。このところ二人は表立って大声を出すような喧嘩をすることすらなくなってきていたのだ。
「全部だよ、と言えたら良いんだけどね」
そう言ってアメリカは小さく笑みを浮かべた。随分大人になったなぁと目を細めながらイギリスもまた「俺もだ」と頷く。
「じゃあ、お前が望む『理想の恋人像』ってどういうものなんだよ?」
「理想? う~ん、どうだろう。恋人は君でしか無いからね」
「いいから言えよ」
「そうだね……やっぱり明るくて楽しくて、趣味が合って、海に行ったり山に行ったり一緒に冒険したり出来る子かな。あと映画を撮ったり踊りに行ったり、ゲームセンターで撃ち合いしてみたりするのもいいね。もちろん美味しい手料理を振舞われれば悪い気はしないし、余計なお節介や口煩い小言やお説教がなければなおさらハッピーだ」
「そうか。あまり俺とは縁がないよな」
「そうだね」
肯定しながらアメリカはイギリスの金色の頭にそっと手を伸ばした。引き寄せてその髪に頬を押し当ててぬくもりを追う。両目を閉ざせばいつもと同じ懐かしい匂いがした。
「でも俺は君を選んだよ」
「なんでだよ」
「だって好きだから」
「でも俺はお前の求める『理想の恋人』にはなれないぞ」
言ってからイギリスは少しだけ身じろいで、それから静かにアメリカの首へと腕を回した。抱き合えば馴染んだ行為は簡単に互いを求め合う。心とは裏腹に身体はいたって素直なようだ。
アメリカの空色の瞳が開いてイギリスを見下ろせば、イギリスの翡翠色の瞳がゆるやかに揺れた。そのまま重ね合う唇、伝わる熱。幾度も幾度も与え合い交し合ったそれは確かに二人を結び付けているはずなのに。
理想と現実の剥離は、繋いだ手の間で軋んだ音を立てた。
「アメリカ」は「イギリス」が育てた。
そのことに異議を差し挟む国はほとんどないと言っていいだろう。
事の良し悪しはさておき、確かにアメリカを育てたのはイギリスだ。それは間違いない。
言葉も文化も習慣も、ほとんどがイギリスから引き継いだものであり、数百年の時を経て独自に変化を遂げていても、アメリカという国の根幹に関わる部分では、イギリスは無視の出来ない存在であった。
―― だが、二人の価値観はあまりに違いすぎる。
たとえば物事に対する見解の違いや姿勢、対応にいたるまで意見が噛み合わないことは昔から多かった。
ささいなことでも言い争ってしまうくらい物の見方が違う。
背負う歴史の重さ、現代に至るまでの過程、さまざまなしがらみ。「年齢」というものがそもそも違うのだから価値観の相違は実に当たり前のことであり、特別不思議なことではなかった。
けれど付き合い始めるとそうも言ってはいられなくなる。
そもそも過剰な干渉を嫌ったからこそ、一度は大きな戦いに発展してまでアメリカはイギリスからの独立を決意し、果たしたのだ。
今更都合良くお互いの性格や考え方を変えることは出来なし、変える気もない。そうやって妥協や歩み寄りのないままこれまで二人は言い争いを続けてきていた。
だがお互いが「恋人同士」となると話は違ってくる。共にいる時間を増やせば増やしただけ相手を思いやる気持ちと許容する心が必要だ。それをなくして手を取り合うことは出来ない。
伝えるべきことは伝え、耐えるべきところは耐えていこうと心に固く誓ったのだが……元来二人とも我慢強い性格ではなく、最初はそれなりにうまくいっていたものの、最近ではかなりギスギスとした雰囲気になることも少なくなかった。
口喧嘩は付き合う前からしょっちゅうだったが、このところは疲れたように溜息をつくイギリスに対して、アメリカも言葉を切ることが多くなり、何でも言いたいことを言い合える仲というよりもむしろ、言っても無駄といった雰囲気が漂っていた。
ある時イギリスは言った。
「お前は俺の何が好きで恋人同士になりたいなんて思ったんだ?」と。
こういう話題が出るようになってはもう、ドラマや小説の世界では破局間際だ。まるで熟しきった果実の成れの果てのような状態で、アメリカはぼんやりと考える。
もともとアメリカはイギリスに対して特別な想いを抱きやすい環境にいた。幼い頃から多感な青年時代まで、彼はいつでもイギリスの影響下にあり、ありとあらゆる面でイギリスを意識してきた。理想であり憧れであり頼れる兄として見てきたのだ。
独立後も両国の親密さは他国に比べて明らかに深かったし、技術や情報の交換はもちろんのこと、貿易から軍事、経済まで足並みを揃えることばかりである。言葉も同じ英語を話すので意思の疎通が図れないということもなく、結局はいつも一緒にいるのだった。
そしてイギリスはいつだってアメリカを気に掛け、なにくれとなく手を伸ばしてくるものだから、自然とアメリカはイギリスと他国との違いを感じるようになり、彼は自分にとって特別なんだと想うようになっていった。
そしてその想いに子供の頃からの思慕の念や複雑な関係が加味され、いつしか「恋」などという恥ずかしいものへと変化を遂げていったわけだが、イギリスもまた自分のことを誰より好きであるに違いないという確信があったことも、余計に感情を加速させたと言っていいだろう。
イギリスがアメリカを好きなことは周知の事実だ。だからアメリカはヒーローらしくカッコ良くバシっとキめながら、イギリスに告白をした。もちろん「反論は許さないぞ!」という言葉を添えるのも忘れずに。
イギリスは最初、目を丸くしてひどく驚いてから、すぐに冗談はやめろと不機嫌そうにそっぽを向いた。素直でない彼の態度に笑いながら、その頬を両手で包んで自分の方へ強引に向けると、アメリカは小さく口吻けを落としながら心を込めて「大好きだよ」と繰り返し伝えた。それこそ何度も、何度も。
そのうちイギリスはぼろぼろと泣き出しながら観念したように、「俺も好きだ……」と頷いて、見事二人は恋人同士となったわけだ。
そういう経緯から付き合い出した二人は、けれどとにかくなにからなにまでちっとも噛み合わなかった。
服装や身につける小物、手にするバックや手帳などから、家具や家電、細々とした日常品に到るまで、アメリカとイギリスはおおよそ「趣味が合う」とは言いがたかった。
なんでも新しいものがいいと主張するアメリカと、古いものを大切に大切に使い続けるイギリスとでは根本的かつ決定的に違うのだ。
休日の過ごし方にも大幅に差があり、アウトドア派で常に家に落ち着かないアメリカと、のんびりガーデニングをしたり読書をすることが好きなイギリスとでは、どうしたって意見の衝突は免れない。
唯一共通する点は味音痴というところだけなので、食事はそれなりに上手くいくが、時々振舞われるイギリスの手料理に文句をつけたことも一度や二度ではなく、その都度激しい口論を交わしては胸中にもやもやとしたものを抱えて、別々に一夜を過ごすことも珍しくはなかったのである。
それでも最初の頃はなんだかんだで上手くやって来た。世話焼きなイギリスはアメリカが拗ねればいつも先に折れてくれ、気遣うようにコーヒーを淹れてくれたり、アイスクリームを買って来てくれたりする。アメリカの方もイギリスが怒って背を向ければ、その身体にそっと腕を回し抱きしめながら許しを請うたりした。
いわゆるご機嫌取りもひとつのスキンシップだと思っていたところがあり、付き合い始めた恋人同士には甘ったるいじゃれ合いに等しかった、……のだが。
それが幾度も重なり、呑み込んできた不満やチリチリとした苛立ちの数々が積もり積もった頃、二人はどうしようもないくらい遣る瀬無さを感じるようになっていた。
そしてとうとう言われたのだ。
「お前は俺の何が好きで恋人同士になりたいなんて思ったんだ?」と。
イギリスは決して怒ってはいなかった。絶望もしていなかった。ただ静かな表情で穏やかに尋ねてくる。
そのいつにない達観した態度に、アメリカもまた不思議なほど落ち着いていた。このところ二人は表立って大声を出すような喧嘩をすることすらなくなってきていたのだ。
「全部だよ、と言えたら良いんだけどね」
そう言ってアメリカは小さく笑みを浮かべた。随分大人になったなぁと目を細めながらイギリスもまた「俺もだ」と頷く。
「じゃあ、お前が望む『理想の恋人像』ってどういうものなんだよ?」
「理想? う~ん、どうだろう。恋人は君でしか無いからね」
「いいから言えよ」
「そうだね……やっぱり明るくて楽しくて、趣味が合って、海に行ったり山に行ったり一緒に冒険したり出来る子かな。あと映画を撮ったり踊りに行ったり、ゲームセンターで撃ち合いしてみたりするのもいいね。もちろん美味しい手料理を振舞われれば悪い気はしないし、余計なお節介や口煩い小言やお説教がなければなおさらハッピーだ」
「そうか。あまり俺とは縁がないよな」
「そうだね」
肯定しながらアメリカはイギリスの金色の頭にそっと手を伸ばした。引き寄せてその髪に頬を押し当ててぬくもりを追う。両目を閉ざせばいつもと同じ懐かしい匂いがした。
「でも俺は君を選んだよ」
「なんでだよ」
「だって好きだから」
「でも俺はお前の求める『理想の恋人』にはなれないぞ」
言ってからイギリスは少しだけ身じろいで、それから静かにアメリカの首へと腕を回した。抱き合えば馴染んだ行為は簡単に互いを求め合う。心とは裏腹に身体はいたって素直なようだ。
アメリカの空色の瞳が開いてイギリスを見下ろせば、イギリスの翡翠色の瞳がゆるやかに揺れた。そのまま重ね合う唇、伝わる熱。幾度も幾度も与え合い交し合ったそれは確かに二人を結び付けているはずなのに。
理想と現実の剥離は、繋いだ手の間で軋んだ音を立てた。
(短冊リクエスト「惚れる」の裏側)
PR